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3 考察

3-1 美術 -藤山哲朗-

 20世紀の美術は、芸術とは何かという根源的な問題を問い続けることで様々な運動を生み出した。まずキュビスムが伝統的な遠近法によらない絵画空間を実現した。ただしそこには依然として描くべき対象があり、純粋な抽象絵画ではなかった。幾何学的な抽象を達成したのはオランダのデ・スティルとロシアのシュプレマティスムであった。ダダは既存の芸術的価値観をラディカルに破壊、さらにシュールリアリスムへと発展していった。第2次大戦後は、まず抽象表現主義が口火を切る。絵筆を用いず画面全体を覆いつくす表現は、伝統的芸術技法を必要とせず、ミニマルアートやコンセプチュアルアートにつながる。そして絵画とも彫刻とも呼べないインスタレーションという形式で定着する。ポップアートはダダの発見したレディメードを消費社会の文脈で展開。80年代に一時身体的イメージの復興が見られたが、現在ではマルチメディアによる社会的批評性の強い作品が主流となっている。


3-2 ファッションデザイン


3-2-1 国内外におけるモード -野口正孝-

 20世紀初頭、近代へと社会環境が大きく変化していく中で女性の衣服からコルセットが取り外され、装飾性の少ない自然な身体美を持つ衣服デザインが生まれた。また女性の社会進出を背景にしてジャケット、スカートからなる二部形式の衣服が生まれ、活動的な女性のための機能的なスタイルが示された。第二次世界大戦が終了し、先進工業国が軒並み経済力を増していく中で、若者がファッションの表舞台に出てきて、既製服の時代が到来した。ミニスカートが世界的に大流行し、パンツが女性の必須アイテムとなり、身体意識は大きく変化し、機能性、活動性がファッションにおける重要な要素になった。また、ジーンズとTシャツが性別、国境を越えた世界的な若者のファッションとなり、ストリートからファッションが生まれることが示された。20世紀末、地球資源の枯渇、急速な老齢化社会の到来を前に、エコロジー、ユニバーサルがファッションの重要なテーマとして取り上げられ始めた。20世紀モードは常に社会環境の変化に敏感に反応し、時代のスタイルを示してきたと言うことができる。

3-2-2 日本における風俗・ファッション -見寺貞子-
 19世紀末、洋装文化は明治の開港により日本にも普及し、天災や戦争、有職婦人の定着などを経て今やすっかり日本に定着している。特に第二次世界大戦後の50年あまりに見る衣生活の変容はめざましい。戦後におけるファッションの方向性を見ると常に2つの傾向が存在する。海外のデザイナーブランドを中心とした模倣ファッションと日本が自ら生み出したストリート系ファッションである。戦後、欧米のオートクチュールファッションが大人の女性を魅了し大流行した一方、ティーンエイジャー独自の文化も表れ、ファッションリーダーとして、また購買層としても独自のマスを広げていった。60年代、モータリゼーション社会とテレビ文化の幕開けとともに本格的な若者文化が台頭し、ファッションもパリのオートクチュールからプレタポルテ(既製服)へ、フォーマルからカジュアルへ、男女差が少なくなり、大衆化、ボーダレス化が進行する。70年代、ファッションは一般大衆まで広がるがファッションに対する既成概念の崩壊が始まり、反逆スタイルが生み出された。80年代は安定したインフラの上に「金ピカ」ファッション文化が広がる一方、個性重視のニューウェーブファッションも登場した。世界的不況の中、90年代ファッションはトレンドのない時代に入る。バブルの崩壊を表すようなモノトーン文化、ストリートファッション、古着、下着のアウター化などさまざまなファッションが街中に溢れる。それらはいつの時代にも相反する要素として存在し、反発しあいながら共存している。和服文化から100年あまり。21世紀は日本人のファッションに対するアイデンティティが問われる時代ではなかろうか。

3-2-3 国内におけるファッション産業の動向  -佐々木熙-
 国内において、ファッションビジネスという言葉が盛んに使われるようになったのは1960年代の終わり頃からである。敗戦後、日本の洋装ファッションをリードしたのは洋裁学校と洋装雑誌であったが、その当時のファッションは、家庭洋裁服であったといえる。その後、洋服の需要が拡大する中、合成繊維の開発により水着や下着の新しい市場が開拓され、戦後の糸へん景気を起こす。ファッション産業は、川上(繊維製造業)・川中(アパレルメーカー)・川下(小売業)と数多い職種を通り生活者まで届けられる。モノのない時代からモノを作らなければならない50年代は、材料を生産する繊維製造業が急成長する。若者が台頭し大衆化した60年代は、プレタポルテ(既製服)化へと進み、デザインや情報を提供できるアパレルメーカーが中心的存在となった。70年代、情報産業が注目される中、ファッション産業は高付加価値産業として注目される。ファッション雑誌には、衣服を中心に服飾雑貨、料理、インテリア、音楽、美術、旅行などが掲載され、ファッションは情報ネットワークのリーダー的存在となり、各産業の活性化への引き金となった。大衆の個性化が進む80年代、ますますアパレルメーカーの個性化が進みマンションメーカーが現れ、原宿にはファッションビルが続出した。しかし90年代に入り世界的不況の中、ファッションビジネスも低迷に陥る。にもかかわらず、科学技術の発展は目覚しく、いつでもどこからでも商品購入することができるインターネット販売時代となった。21世紀、社会環境と個性(感性)とITとの相関関係の中でファッションビジネスの方向性を再考することが必要であろう。


3-3 プロダクトデザイン -逸身健二郎-


 デザイン行為は物の生産と同時に発生しているが、デザインという仕事、さらには職業としての行為が始まったのは、大雑把には20世紀であると言える。とくに工業生産による方法がとられるようになり、設計と生産の分離が行なわれ、なおかつ設計においてデザインと技術的設計との分離がもたらされるようになり、デザインという言葉が生まれた。言い換えれば技術者による設計のみでは、商品としての価値を持ちえなくなったことにも起因する。それまでのクラフト的な生産では、デザイナーの呼称はなかったが、デザイン、設計、生産は開発行為の中でうまく機能していたわけだが、商品が機械と呼べるような複雑な機能を持ち、さらには機械による量産を目的とした生産方法をとるにあたって、あたらしい設計技術者が生まれた。と同時にその生産体制に合致するデザイン行為をつかさどる仕事、職業が生まれたわけである。いかなる商品であれ、専門家の手が加わっているかどうかは別にして、基本的にはデザイン行為は存在する。しかし前述したとおり、デザインが強く認識されるに従い、専門家の存在なくして正しい商品の創造はあり得なくなる。20世紀のデザインの歴史とは、デザイナーとしての仕事、職業が分化され、開発生産へ組み込まれ、さらに広く認識され、そして常識化された世紀でもあると言える。21世紀では開発途上国への進展、先進国ではさらなる質的発展が見込まれるが、20世紀を終えた時点で、この行為が広く、正しく認知されたと考えてもいいだろう。20世紀に誕生し、ちょうど100年でデザインは成人したとも言える。


3-4  環境・建築デザイン -藤山哲朗-


 まず20世紀初頭の革新を巨匠の偉業で確認してみよう。ライトは古典的で完結した空間から脱し、開放的で流動的な空間を実現。コルビュジェはドミノシステムによる自由な立面・平面など近代建築5原則を提唱。その類まれなる造形力でもたらされた純白の住宅は「住むための機械」というモダニズムの教義を体現した。ミースはライトやデ・スティルの遠心的空間を推し進め、ユニバーサルスペースという普遍的モデルを示す。グロピウスはバウハウスを設立、制作・研究・教育を通してモダンデザインを確立した。当初は前衛的だったモダニズムは、50年代以降その普遍性と合理性ゆえインターナショナルスタイルとして世界中に行き渡る。それは人々を古典的な居住環境から解放したが、都市は均質空間で覆いつくされた。60年代末から芽生えた近代の見直しは、80年代以降、モダニズムの理念に立ち返る以外に、歴史的象徴性を復活させたポストモダン、モダニズムの構成原理を極限まで推し進めるデコンストラクティビズムなどとして現れている。


3-5 ビジュアルデザイン -橋本英治-
 

 20世紀は映像の時代と呼ばれます。19世紀までは手による絵画の時代であったのに対して、カメラによる複製芸術の時代が訪れたのです。ワルター・ベンヤミンが『複製技術時代の芸術』の中で語るように映像の時代とは複製の時代なのです。複製とは、決してオリジナルとコピーの関係を指すのではなく、コピーとコピーの関係が問題とされます。 みんなが同じものを所有し、同じ物を見つめているのです。あなたの手元のグッチのバッグは友達の持っているグッチのそれと寸分違わぬはずです。そして、同じグッチのポスターを街で見かけて、同じプロモーション・ビデオやCM をテレビで目にすることになります。圧倒的多数のコピーが存在することは、オリジナルの存在を限りなく希薄にします。そうした状況の中でポスター・写真・映画が物との危うい関係を支えてきたのです。それが20世紀の映像デザインの特質です。 21世紀、写真・映画はデジタル化され、もはやコピーにしろオリジナルにしろ物としての存在はその世界の背景に退き、関係としての情報が重視されるようになってきています。情報だけのやり取りで万事が進んでいく先に何があるのでしょうか。物への回帰するデザインが始まるのか、シミュレーションがリアルなデザインになるのか。興味は尽きません。



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