2-1 研究の対象者
本研究の対象者は、今後増えると予測される片麻痺の女性とした。麻痺とは、神経または筋肉に障害を受け、動かなくなった状態のことを示し、片麻痺とは、身体の片側が麻痺した状態のことをいう。右半身麻痺と左半身麻痺があり、脳卒中により生じる場合が多い。
2-2 ボディの原型
本研究のボディの原型を、(株)七彩と(財)人間生活工学研究センターの共同開発品である40代女性の裁断用ナチュラルヌードボディ(MT‐40)として研究を行った(図2)(図3)。
2-3 可動式ボディ制作の視点
可動式ボディ制作の視点は、衣服制作に用いる裁断用ボディ制作を目的とするため、以下の点を配慮し制作を行った。
1)衣服制作時のピン打ちの基本となるバスト、ウエスト、前後ネックポイントを除いた部位に可動箇所を設ける。
2)可能な限り人間の姿勢と動きに忠実であるように可動させる。
3)操作性の向上を目指す。
2-4 可動式ボディの材質
可動式ボディの材質は、以下のものを使用した。
1)ボディの素材:FRP(ガラス繊維 強化プラスティック)
2)可動軸・ねじ:アルミ合金アルマイト仕上げ3次元ブラケットジョイントタイプ、フレームタイプ、ジョイントボール
3)表面塗装:ラッカー塗装
4)表面布:ユニチカファイバーSE-1077 2WAYトリコット(ナイロン80%、ポリウレタン20%)アンティークグレイ
2-5 研究のプロセス
研究のプロセスは、以下のとおりである。
2-5-1 モデルの身体計測
50代の女性Nをモデルに身体計測を行い、可動箇所や範囲に関して考察を行った。体型では、片麻痺の症状として左右の肩傾斜、丈寸法、回り寸法に差異が見られた(写真1)(写真2)。
2-5-2 ミニチュア可動式ボディの制作
可動式ボディがどのような形体になるかを検討するために、ミニチュア可動式ボディを制作した。可動箇所を、肩、ウエストの上下とし、可動方法や可動範囲に関して検討を行った(写真3)(写真4)。
2-5-3 実物大可動式ボディの制作とプロセス
ミニチュア可動式ボディから得られた知見を元に、人間と同寸法のボディを使用したサンプル検討を行った。検討修正の中、原型1~3までは、9号サイズマネキン(WB9-211)をサンプルボディとし、原型4からは、よりモデルの体型に近いボディ制作を行うために、40代の足付き裁断用ナチュラルボディ(MT-40)に設定し直し、可動箇所や範囲、可動方法について検討を重ねた。そのプロセスは以下のとおりである。
1)可動式ボディ原型1の制作
既製服展示に使用する標準の9号サイズマネキン(WB9-211)をサンプルボディとし、モデルの計測値から可動式ボディ原型1(4部位・3可動部分)の制作を行った。その際、衣服制作時のピン打ちの基本となるバスト、ウエスト、前後ネックポイントを除き、アンダーバスト、ウエストの上下の3箇所を可動箇所をとした。ボディの可動軸は、後部背骨に近い部分に設定し、前屈姿勢を重視した可動範囲とした。その結果、首(ネックポイントの上)、左右肩の可動の必要性が見出された
(写真5)(写真6)。