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報告|REPORT


Constructed Cave No.1

Constructed Cave No.1


久冨 敏明

KOYAMA, Akira Professor, Center for Design Studies



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はじめに

2007年10月6日より11月25日の期間、神戸ビエンナーレ2007*1 が開催された。Constructed Cave No.1(以下「CC1」と略す)(図1、2、3、4、5)はビエンナーレの主要展示である「アート イン コンテナ」への出展作品である。本稿では、線織面による立体造形作品であるCC1*2 とデザイン基礎科目との関連、また製作過程で取組んだ事柄について解説する。

図3 奥から入口を見る

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図3 奥から入口を見る

図1 CC1とポートタワーを見る

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図1 CC1とポートタワーを見る

図2 入口から奥を見る

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図2 入口から奥を見る


図4 部分詳細1-入口廻り

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図4 部分詳細1-入口廻り

図5 部分詳細2-床下間接照明

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図5 部分詳細2-床下間接照明


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1|デザイン基礎科目との関連

CC1は、複数の異なる線織面体の組合せでつくられている。それらは、デザイン基礎授業課題のひとつ*3 から着想されたものである。この授業では、幾何学基礎と作図・模型製作・CG製作課題に取組み、曲線と曲面に対する理解を深めることを目標としている。課題はまず10cm立方の空間の中に赤い糸を使って単双曲線回転面を製作する(図6)。線織面とは直線が移動した痕跡に構成される曲面である。それは、粘土を捏ねてつくりだされる自由曲面とは異なり、幾何学的理解が必要とされる。また、コストについての知識が問われるデザインの実務において、直線材で構成される曲面を理解しておくことは重要である。CC1はデザイン基礎科目の演習課題である10cm立方の小さな模型課題で学習した線織面を、奥行12m×幅2.4m×高さ2.5mの空間へと展開したものである。

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2|試作

CC1製作へ向けて910mm×1820mmの合板を使って実際の作品よりもひとまわり小さい試作を行った(図7、8)。作品が完成度を獲得するためには必ず試作による検討が必要である。具体的には、材料の質感、加工方法、構造強度、工程管理や必要な人工、運搬方法、コストを総合的に理解した上で各々の項目について最適な答えを見つけて行くことである。CC1の試作においては、曲面の構成要素(母線)となる赤い毛糸の質感とその間隔、張る方法について慎重な検討を行った。張る方法について検討した結果、作業能率を上げるために下糸を先行して壁面の穴にとおしておく方法や、糸通しの針の替わりに糸を押し込んで穴にとおす道具をつくりだした(図9)。

赤い毛糸については、色、太さに加えて、モヘアの毛足の長さとその均質性について検討を繰り返した。使用した毛糸は、アンゴラの毛糸を紐網にして太さを作り出した後、洗いと絞りを3回繰返したものである*4 (図10、11)。このように試作で検討した結果、作品の完成度を上げることができた。

図8 試作2-毛糸の取付け方法を検討

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図8 試作2-毛糸の取付け方法を検討

図6 線織面の授業課題モデル

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図6 線織面の授業課題モデル

図7 試作1-大きさと強度の検討

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図7 試作1-大きさと強度の検討


図11 コーンに巻かれて完成した赤い毛糸

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図11 コーンに巻かれて完成した赤い毛糸

図9 毛糸を掴む道具

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図9 毛糸を掴む道具

図10 奥が絞り機、手前が洗濯機

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図10 奥が絞り機、手前が洗濯機


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3|製作

試作を受けて合板の厚さや下地組木材の断面寸法を決定した。シナ合板の厚さ12mm、1200mm×2400mmを1180mm×2050mmに切断する加工は、寸法精度を求めるために工務店に依頼した。作業は、塗装、下地軸組づくり、仮組、下糸のしこみ、仮組解体、運搬準備と進行した(図12、13、14)。仮組の段階ではCC1作品の大きさについて再認識し、運搬や現地での作業量について再検討する必要が生じた。当初の計画では全長12mの作品を均等に10個のユニットにわけて、2ユニット連結したものを2つ、そして、3ユニット連結したものを2つ、計4つを組立てた状態でトラック輸送する予定だった。しかし、仮組したことによって組立てた状態での運搬は危険であることが確認されたのである。当初、大学で出来るだけ完成に近い状態まで製作する予定であったが、組立てと毛糸張りを展示会場で作業することに変更した。9月18日に展示会場へ運搬し、順次組立てを開始した(図15、16、17)。コンテナ内は外気温度より高く換気設備も無い。また雨天による工程の変更など現地での製作環境は予測を超えて厳しいものであった。一方、大学での仮組を経験したことによって現地での作業は順調に進めることができた。試作や仮組の重要性を再認識した。

図14 下糸を通した状態

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図14 下糸を通した状態

図12 仮組みした状態

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図12 仮組みした状態

図13 下糸を仕込む作業

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図13 下糸を仕込む作業


図17 展示会場での作業-3

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図17 展示会場での作業-3

図15 展示会場での作業-1

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図15 展示会場での作業-1

図16 展示会場での作業-2

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図16 展示会場での作業-2


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4|展示

会期中の8週間は、毎週末会場で補修作業をすることになった。その理由は2つある。1つは、風雨対策を講じていなかったため、雨に加えて枯葉やゴミにいたるまで作品の中に吹き込んで来たことである。コンテナの内部空間につくる作品ではあるが、常時外部に向かって扉を開放することによって成立しているCC1は、外部環境に作品を置くと考えておくべきであった。2つ目は想定していたことではあるが、その範囲を超えて赤い毛糸が切れる事態が頻発したことによる。CC1は通常の美術作品とは異なり、観賞者は誰にとがめられることも無く作品に触れることができる。美術品に触れることで始めて伝わることがあると考えた。一方で、作品を壊さないという一定の理解を周知した上で初めて可能なことであった。この2つの理由により「アート イン コンテナ」への出展作品は基本的に屋外彫刻のような頑強さを持つ必要があることを理解した。

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5|解体

会期終了後、作品の解体を行った。作品は、ボルトとナットを外すことによって40枚のパネルに分解され平積みで保管している。デザイン基礎授業に関連する作品であることは前に述べたとおりである。今後、作品は授業の一環として再度製作されることが予定されている。CC1作品においては会場で発生する廃棄物は無く、赤い毛糸は1本ずつ丁寧に外され、その一部を保育園に寄贈した。幼児の工作に使われて、サンタクロースの衣装となった*5 (図18、19)。

図18 洗濯され干されている赤い毛糸

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図18 洗濯され干されている赤い毛糸

図19 保育園児の作品

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図19 保育園児の作品


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まとめ

CC1は、国際コンペティションをきっかけにつくられた作品である。コンペの概要には「『アート イン コンテナ』コンペティションはジャンルフリーのさまざまなアートを公募します。奥行12m×幅2.4m×高さ2.5mの40ftドライコンテナの内部に作品を自由に展開してください。」と謳われていた。美術作品にとって未知な領域であるコンテナという特殊な限定空間で表現することの可能性を感じ応募を決めた。また、コンテナ内部を実際に体験したことによって構想が始まった。一方、CC1はここで述べてきたように、デザイン基礎科目と関連する作品をつくることも重要であった。授業を履修した学生が実際の製作に携わったことは意義深いものであったと認識している。今後、授業課題として再製作を行い教材として有効利用して行くことを予定している。また、展示期間中の観賞者との交流、そして作品解体後、幼児教育のために材料を提供できたことも有意義な事であった。最後に製作協力者を記して謝意を表します。

製作協力者:
喜井弘康(株式会社喜井工務店)
畑中茂(株式会社喜井工務店)
渡辺貴久(株式会社金剛商会)    
重本昌利(重本商会、本学ファッションデザイン学科非常勤講師)
前田季実子(夙川学院短期大学美術デザイン学科助手)
和田真実(夙川学院短期大学美術デザイン学科専攻科生)
栄元正博(元・本学ビジュアルデザイン学科助手)
物袋卓也(本学プロダクトデザイン学科学生)
金本悟史(本学プロダクトデザイン学科学生)
吉川達也(本学プロダクトデザイン学科学生)

注・引用文献

*1―
神戸ビエンナーレ2007の実施概要については、公式ホームページに詳しく掲載されている。
*2―
CC1についての作品解説は、本学紀要2007を参照。
http://kiyou.kobe-du.ac.jp/07/work/01-01.html
*3―
本学におけるデザイン基礎授業は、製図・図法基礎を目的とした「デザイン基礎演習」と、その発展を目的とした「デザイン基礎特別演習A」と「デザイン基礎特別演習B」が開講されている。CC1は、「デザイン基礎特別演習B」の授業課題のひとつから構想された作品である。授業の概要については、http://www.center.kobe-du.ac.jp/hisatomi/04_hisatomi01.htmlに詳しい。
*4―
赤い毛糸についての試作検討は、神戸の老舗ニット帽子メーカーである株式会社金剛商会の協力のもと実施された。
*5―
寄贈先は、社会福祉法人親和福祉の会 親和保育園。

図版出典
図版の全ては筆者撮影


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神戸ビエンナーレ2007の実施概要については、公式ホームページに詳しく掲載されている。
CC1についての作品解説は、本学紀要2007を参照。
http://kiyou.kobe-du.ac.jp/07/work/01-01.html
本学におけるデザイン基礎授業は、製図・図法基礎を目的とした「デザイン基礎演習」と、その発展を目的とした「デザイン基礎特別演習A」と「デザイン基礎特別演習B」が開講されている。CC1は、「デザイン基礎特別演習B」の授業課題のひとつから構想された作品である。授業の概要については、http://www.center.kobe-du.ac.jp/hisatomi/04_hisatomi01.htmlに詳しい。
赤い毛糸についての試作検討は、神戸の老舗ニット帽子メーカーである株式会社金剛商会の協力のもと実施された。
寄贈先は、社会福祉法人親和福祉の会 親和保育園。