マレニーの街はCWから20kmほどの丘陵地にあり、ここにも多くのエコロジストが暮らしている。
じつはCWは、マレニーのコミュニティ・システムを手本にデザインされた。また、マレニーは生活協同組合CO-OP発祥の地でもある。生みの親は、ジル・ジョーダン。私が訪れた日は、偶然にもジルの60回目の誕生日にあたり、夕方からCO-OPが経営するカフェ・レストラン「アップ・フロント・カフェ」で盛大なパーティーが催された。店内は入れ替わり立ち替わり、つねに50~60人の老若男女がごった返していた。語りあう人たちに、生バンドで踊る人々。こどもたちは大きなバースデー・ケーキを切り分け、いくつかトレーに乗せ、観客の間を配ってまわる。みんな顔見知りで、規模の大きなホーム・パーティーといった趣だ。バンド演奏が終わりスクリーンが用意されると、スライドを映しながらジルの挨拶がはじまった。(写真26)(写真27)
ジルがこの村にやってきたとき、マレニーは過疎にあえぐ死の村だったという。老人と大自然だけが彼女を迎えた。当初は、一番近い街まで日用品や食料を調達することさえ、ひどく骨の折れる仕事だった。ある日、ジルが4人の仲間で当番制で買いだしをするという提案をした。協力しあえば、銘々が車でいくより時間もガソリン代も節約できる。こうして共同購入がスタートした。近所の老人たちも参加を申しでて、助け合いの輪は次第に大きくなっていった。余分に調達したものをショップに並べ、協同組合の原型ができあがった。
現在、CO-OPは世界中に広まったが、相互扶助の精神が健全に機能しているのはマレニーだけだという。(写真28)(写真29)営利に走らず、自分たちの暮らしに必要なものだけを厳選して店に置く。個人の生活スタイルは自らが決めるが、街のあり方はみんなで決定する。運営には自主的に参加し、責任を持つ。責任を持てないほど大きくしたり複雑にしない。一人ひとりの生き様がそれぞれのやり方で地に足がついている。住民は皆満足げで、表情に屈託がない。ジルは人生の半分を、街のシステムをはぐくむために費やしてきたのだ。
マレニーには地域通貨制度(LETS) が導入され、そのための銀行がある。(写真30)中心を貫くメイプル・ストリートの両サイド200mが商店街で、オーガニックの八百屋やレストランなどが並ぶ。この街には、ベジタリアンやさらに厳しい菜食主義者のベイガンといわれる人も多い。(写真31)
商店街を一歩でると、古くからの落ち着いた住宅地が広がる。しかし郊外では、マレニー人気に目をつけた都市部の業者による宅地開発が進み、地価の高騰を招いているという。
商店街のはずれにウールワースという大型スーパーマーケットが進出してきた。私が訪れたとき(2005年12月)は、メイプル・ストリートに面した広い敷地が造成され、盛んに基礎工事が進められていた。(写真32)計画当初から反対運動が持ちあがり、住民間で2億円の寄付を募り、予定地を買い戻そうとした。(写真33)それでも店側は断固として譲らなかった。デモ行進もしたが、今は「ウールワースでは買わない」というステッカーを配り、不買運動を続けている。このステッカーは、街のあちこちでみかけた。(写真34)
以前、マクドナルドが進出してきたときも、住民による不買運動が繰り広げられた。オーガニックな街に大資本のハンバーガーが似あうはずもなく、マクドナルドは撤退を余儀なくされた。今回も、「どんなに安くても絶対に買わない」と何人かの人から聞いた。
マレニーの人々が、ウールワースの反対運動をするわけはふたつある。ひとつは、大きなスーパーマーケット自体が必要ないというもの。これは、量的な規模もさることながら、商品の質に対する不安があるのだ。ふたつ目は、敷地の脇を流れる小川にカモノハシが住んでおり、その生態系への悪影響が懸念されるという理由。(写真35)(写真36)マレニーの街には、安くて便利な巨大スーパーマーケットより、カモノハシの住める小川のほうが相応しい。あなどるなかれ。カモノハシの存在は、マレニーがエコ・タウンとしてうまくいっている証である。それは住民の誇りなのだ。