2006年10月10日 神戸市立小河保育園にて運動会が開催された。その際着用する園児たちのTシャツ制作を目的に、ちびたんプロジェクトが設立された。本プロジェクトは、実習助手韓先林とイーブン・アート・プロジェクトメンバーの中からファッションデザイン学科1年生5名、2年生1名、3年生2名、プロダクトデザイン学科1年生1名、大学院1年生1名の計10名で構成された。プロジェクト内容は、園児とその保護者に描いてもらった絵やメッセージを、学生たちが親子のイメージに合うようにデザインアレンジし、Tシャツに縫いつけ、そのTシャツを運動会に着用して登場するというものである。モノをつくる楽しさとデザインを通じて生まれる人と人との繋がりを感じ取ってもらいたいと考えてのプロジェクトである(写真14)(写真15)。
企画内容およびスケジュールは以下のとおりである。
3-1 ワークショップの概要
3-1-1 コンセプト
●ともにデザインすること
子供の絵は最高のデザイン画! 子供の想像力は大人を遥かにしのぎ、その思考回路を覗き見したくなる。「何を描いたの?」との質問に返ってくる答えはまさに想像以上である。言われると、そう見えてくるのもまた不思議である(写真16)(写真17)(写真18)。そんなデザイン画を子供たちに描いてもらい、そのイメージに合うように学生たちがデザインアレンジし、Tシャツ制作を行なう。
●コミュニケーションを思い出に
親と子の交流、子と子の交流、親と親の交流、保育所と親の交流。運動会という舞台を目標にオリジナルのTシャツを制作するという行為を通じてさまざまなコミュニケーションを図る。そのコミュニケーションを通して、Tシャツは、いつまでも親子の大切な思い出となり、デザインは時空を超えたものになる。
●わかりやすく、かわいい
今回は保育園が採用しているクラス別のカラー帽子と同色のTシャツを使用することで、統一性を持たせ、運動会の際にひと目でどのクラス(年齢)の児童で我が子がどこにいるかがわかるようにした(表1)。
表1 クラス別カラー(Tシャツ・帽子)およびサイズ表
年齢 | クラス | カラー | サイズ | 備考(人数) |
0 | もも | 黄色 | 80、90 | 9 |
1 | たんぽぽ | ピンク色 | 90、100 | 9 |
2 | ちゅーりっぷ | 水色 | 100 | 13 |
3 | すみれ | 黄緑色 | 100、110 | 16 |
4 | ばら | 赤色 | 110、120 | 16 |
5 | ひまわり | オレンジ色 | 110、120 | 18 |
ー | ー | ー | ー | 81 |
年齢0=0・1歳児/年齢1=1・2歳児のように誕生日月により年齢が重なっている。
3-1-2 制作プロセス
神戸市立小河保育園の先生方、園児と保護者の協力を得てTシャツ制作を進めた。
- 0歳~6歳の児童81名に18cm×16cmのトワルに各自布用クレヨンで好きな絵を描いてもらう(写真19)。
- 保護者にも、同サイズの布に絵またはメッセージを書いてもらう(写真20)(写真21)。
- これらの絵をアイロンで布に定着させる(写真22)。
- 園児と保護者の絵を合わせる(写真23)。
- 縫いつけ作業は全て学生が行った。ただ縫い付けただけではなく、絵のもつ特徴や構成を活かしてビーズ・レース・ボタン・布・刺繍・紐等を使いアレンジを加えることで絵をもっと楽しくイキイキしたものへと完成させた。事前にこれらのアレンジを加えることを児童と保護者に伝え、承認してもらうことで完成品への新たな期待が生まれ、楽しみのひとつとなるよう工夫を凝らした(写真24)。
- 幼児サイズのTシャツに、前面に園児の絵を背面には保護者の絵やメッセージを載せ、ミシンで縫いつける(写真25)。
- 完成したTシャツを着用して運動会に出場した(写真26)(写真27)。
3-2 Tシャツを着用しての運動会
運動会当日の朝、初めて自分のTシャツを見た園児たちの喜びの悲鳴はどのクラスからも聞こえた。「わー、かわいい!」、「これは何を描いたの?」、「すごいな~。」など大勢の声がわきあがる。お互いの絵を見て、微笑みいっぱいの表情を浮かべていた。特に保護者たちは、他の園児の絵と我が子の絵を見比べては会話がはずみ、子供をもつ親同士のコミュニケーションにも繋がっていた。特に学生達がアレンジを加えて完成したTシャツを見ての驚きと喜びが印象的で感動した。運動会開始直後の全員揃っての入場シーンは、今でも記憶に新しい。綺麗に揃ったカラー帽子と同色のTシャツ姿がより一層園児たちの笑顔を引き立たせていた。
3-3 実施結果と反省
Tシャツ制作に関して、保育園の教員と保護者にアンケート調査を行った。Tシャツを制作し着用しての運動会は、父母や園児、教員に大変好評であり今後も継続して欲しいと要望があげられた。参加学生からは、よかった、今後も本プロジェクトに参加したいとの意見があげられた。
彼らにとっては、このようなワークショップははじめての経験であり、当初は戸惑ったようである。それは、自分だけの意思やイメージでデザインできないことであった。今回のワークショップの目的は、学生たちが専門家として、保護者と園児の描いた絵のイメージを読み取り、そのイメージをよりよくデザイン表現することにある。子供たちの絵は夢であり無限の意味をもっていた。保護者の愛情も同様である。ひとつの絵から抱くイメージ、園児が何を描きたいのか、何を表現したいのか、保護者の思いは何なのかをくみ取ることである。他者とのコラボレーションの中での意見交換や意思疎通など、今後、デザインを志す者にとっては、欠かせない重要なアプローチ法である。
今後の課題としては、2点ある。ひとつは、保護者の参加体制の見直しである。保護者の方たちが共働きで多忙なため、絵を書くのが精一杯で、デザインを学生とともに考えアレンジすることは不可能であった。またデザインを考え、作るという経験が過去においてはなく、今回はすべてのデザインアレンジを学生が行なった。したがって保護者とのコミュニケーションがやや少なかったように思う。しかし今回のTシャツを見て、来年は自分が関わってデザインしたいという保護者の声もあり、方法に関しては検討したい。
ふたつめは、管理体制の見直しである。運動会が10月であったため、Tシャツ制作は夏休みに行なわなければならない。学生たちも夏休みで帰郷する学生もあり、制作数が多いにも関わらず、制作者数が少なくひとり当たりの制作数が多くなった。制作数に対する全体のスケジュールと時間配分、学生数等の検討が必要である。
ちびたんプロジェクトが考えた「愛情いっぱいのTシャツ」。モノをつくる楽しさとデザインを通じて生まれる人と人との繋がり。「愛情いっぱいのTシャツ」は、いつまでも親子の大切な思い出となりデザインは時空を超えたものになる。このコンセプトで、今後も活動していきたい。