4-1 みっくすさいだーとは
eapではevenというキーワードを通し、ファッションやテキスタイルに関連したユニバーサルデザインの提案を中心に活動を行ってきた。学生メンバー数は企画ごとに多少の増減はあるが、2007年6月末時点で研究助手の柊伸江と16名の学生が所属している。
私たちみっくすさいだーは、その活動の一環として、アウトサイダーアート*2の商品化に取り組んだ。アウトサイダーアートは近年、国内外のメディアや企業も関心を寄せている分野であり、社会からの注目度も高まっている。エイブルアート*3とも比較されるが、言葉の意味はどうあれ、evenな視点でアートを広めようとする活動という広義においては、両者とも隔たりはないように思う。みっくすさいだーは、メンバーである神戸芸術工科大学イーブン・アート・プロジェクトの学生と知的障害を持つ青年が互いに協力し合い活動するデザイングループとして、2006年3月にスタートした。ブランド名でもある【みっくすさいだー】には、社会の枠にはまらない独自の思想の持ち主とされるontsider(アウトサイダー)たちの感性をデザインにmix(ミックス=混ぜ合わせ)するという意味が込められている。 知的障害のある人の多くは、言葉や表情で自分の意志や感情を表現することが困難である。その代わりとして絵画や立体造形、音楽など、さまざまな表現手段を通して自己表現を試みる。彼らの表現は、技術的に完成された作品でなくとも、素直で力強く温もりがあり、多くの人々を惹きつける魅力に満ち溢れている。私たちが出会った中村清隆君(神戸市在住・20歳)も知的障害のある青年であり、絵で自分を表現するひとりであった。彼にとって絵を描くことはとても重要な自己表現の手段であることがわかる。一度ペンを持つと、堰を切ったようにスイスイと絵を描き始める。まるで歌でも歌っているかのように彼のペンは止まらない。中村君に出来ることと私たちに出来ることをうまく結びつければ新しい何かがうまれるのではないか、そんな可能性を感じ、私たちはみっくすさいだーの活動を始めた。
みっくすさいだーの詳しい設立の経緯及び設立のきっかけとなった「CANNOW2006」への参加については、神戸芸術工科大学紀要・芸術工学2006*1にまとめている。
4-2 みっくすさいだー商品化に向けて
4-2-1 「CANNOW2006」展示品の受注生産
2006年3月の「CANNOW2006」では、中村君の絵を原画にした商品展開の一例としてタペストリーやクッションカバー(写真28)、トートバック(写真29)、ポーチ(写真30)などのサンプルを制作、展示した(写真31)。この展示作品をご覧いただいた方から「是非、購入したい」という声をいただき、当初、販売の予定はなかったものの、急遽、受注生産で対応することになった。生産背景を持たない私たちにとって、商品化のための知識や技術、ノウハウはほとんどなく、最初の受注生産については、本学卒業生であるLuna-es(ルナレス)*4というハンドメイド作家の二人に制作を外注することにした。
ルナレスは、本学ファッションデザイン学科卒業生の川中みち代さんと大西康世さんがオーナーを勤める服飾雑貨店である。オリジナルのかばんや帽子、アクセサリーの制作と販売、作家によるハンドメイド商品の販売を行っている。ルナレスのこだわりは、ハンドメイドであること。彼女達は商品のデザイン、材料選び、縫製は勿論、ホームページのデザインやお店のディスプレイに至るまで、全て自らの手で行っている。ハンドメイドにこだわるのは手作りの温もりを大切にしているからだ。ルナレスのもの作りの姿勢は私たちも大いに共感でき、みっくすさいだーの制作を依頼するには申し分ないと考えた。
受注生産に際して商品の主材料となる本体生地については、オリジナルデザイン同様、みっくすさいだーメンバーによってシルクスクリーンプリント技法でハンドプリントを行った(写真32)。生地巾約114cm、色数5色の多色シルクスクリーンプリントは、技術的にも難易度の高いプリントである。当然のことながら版ズレや色むらなどが生じる。作業の効率化を考えデジタルプリントによる捺染試作も行ったが、デジタルプリントでは色の表現に奥行きがでず温かみに欠け、みっくすさいだー本来の特徴が薄れてしまった(写真33)。特に今回の受注生産に関しては、既に展示サンプルをご覧になって購入を決めてくださっているため、大きなデザイン変更はできない。商品としてもハンドプリントの温かみは重要であると考え、多少の版ズレや色むらは味としてご理解をいただくよう対応し、追加で約6mのプリントを行った。
4-2-2 Luna-esによる「かばん制作ワークショップ」
ルナレスから学んだハンドメイドというキーワードはみっくすさいだーのコンセプトにもぴったり合った。そこで、ハンドメイド商品としてのかばん作りのポイントやノウハウを学ぶため、ルナレスによる「かばん制作ワークショップ」を企画(図3)、みっくすさいだーメンバーでワークショップを体験した。ワークショップは2006年7月18日(火)15:00~18:00、本学ファッションデザイン学科棟2階スタジオで行われた。参加者は学生12名、教員1名の計13名。ルナレスからは川中さんと大西さんが制作指導に来てくださった。
<作業工程>
1. 生地を裁断。
2. アイロンで接着芯を接着(写真34)。
3. 表地本体、見返しの両サイド、底を縫い、縫い代をアイロンで割る(写真35)(写真36)(写真37)。
4. 内ポケットを作り、裏地に縫い付ける(写真38)。
5. 裏地の両サイド、底を縫い、縫い代をアイロンで割る。
6. 表地、裏地の底(マチ)を縫う。
7. 表地、裏地を中表に重ね、上から7mmを仮縫い(写真39)。
8. 持ち手を表地に縫い付ける(写真40)(写真41)。
9. 見返しと表地を中表に重ね、縫う。
10. 見返しを内側に倒し、アイロンで押さえる。
11. 見返し上部に表からステッチをかける。
12. デザインに応じて飾りをつけて、完成(写真42)。
今回制作したかばんは、ルナレスでも販売されている「お散歩トートバッグ」のワークショップバージョンだった(写真43)。生地や付属材料は個々で準備し、ハンドメイドの温もりが感じられ、かつ商品らしい仕上がりになるようなオリジナルかばんを目指した。ルナレスによるワークショップを体験し、商品化のためのヒントをいくつか学ぶことができた。
4-2-3 商品生産についての課題
こうしてルナレスの協力を得て、受注生産の実現とワークショップを実施したわけだが、みっくすさいだーというブランドとしてもの作りを続けるためには、生産に関わる大きな課題があることが浮き彫りになった。商品化=量産化でなくてもよい。しかし、商品である以上、価格に見合ったデザイン、品質、技術が保たれなければならない。アウトサイダーアートが他の一般商品と肩を並べるためには尚更、デザインとクオリティは軽視できない。
ひとつめの課題として、材料の問題があげられる。これまで私たちはプリント生地の他には一般的な生地か布製副資材しか使用していなかった。しかし、ワークショップで革ハンドルの使用方法を教わり、ちょっとした材料の工夫で仕上がりのイメージが大きく変わることを学んだ。素材に応じて適切な接着芯を使い分けることもキレイに見せるコツである。市販で手に入る材料に限りはあるが、商品らしく見える材料の選定は重要であることがわかった。
ふたつめの課題は、生産の問題である。学生たちの縫製技術は商品として通用するレベルではない。ひとつひとつの工程を確実に丁寧に行う力がなく、感性でもの作りをしてしまうことが多々ある。アート作品としてはむしろそのような制作方法が好ましいのかもしれないが、商品としては誰が作っても同じように仕上がる必要がある。そのためには制作工程を分解、整理し、作業工程の順序、内容を綿密に検討する必要がある。一般的には試作品作りの工程がこれに当たるが、私たちが生産を行う場合、これまでのノウハウや経験がない分、より一層この工程が重要になる。
また、試作により作業工程が整理できても、技術的、時間的な課題は残る。一般的なファッションブランドのように量産化を目指すのか、ルナレスのようにハンドメイドにこだわり制作を続けるのか、今後の生産については、ブランド全体の戦略として大きな視点で検討していく必要がある。
4-3 ドラフト!5を通した商品化モデルケース
4-3-1 ドラフト!5とは
ドラフト!5とは、今後のファッション産業を担うクリエイターを神戸に誘引し、神戸で育成を図っていくため、クリエイターが企画したデザインや商品を地元を含めた有力セレクトショップが買い取り条件で売場デビューさせるクリエイター発掘デザインコンペである。2002年度より毎年1回開催されており、2006年度のドラフト!5で開催5年目を迎えた。*5ドラフト!5の参加ショップは17社、応募者総数は247組、うち最終審査通過者は27組であった。最終審査通過者は2007年2以降、各ショップで売場デビューを果たした。
ドラフト!5応募のきっかけは、みっくすさいだーをデザインで勝負できるブランドに育てたいという思いからだった。「CANNOW2006」で展示した際のお客様の反応は、私たちの想像以上に好評であった。作品を作れば「可愛いですね」、「販売はしていないのですか」などの問い合わせをいただくことも多かった。そんなみっくすさいだーの可能性を、「福祉」という偏ったフィルターを通さず、純粋に「デザイン」というフィールドで評価してほしいという思いでドラフト!5への参加を決意した。
4-3-2 ドラフト!5審査会の様子
一次審査は2006年8月4日(金)、神戸市産業振興センターにて審査企業のバイヤーにより非公開形式で行われた。私たちは事前に応募書類を提出しており、数日後、一次審査通過の連絡を受け、最終審査に向けて新作の制作を行うことにした。
新作デザインは1作目とは少しテイストを変え、ポイント柄のトートバッグとTシャツに決定した。中村君の原画からライオン、ヤギ、クジラ、サイの4つの動物を選び、原稿を作成。かばんの前面には動物の本体が、かばんの背面には動物の尻尾がくるようレイアウトし、シルクスクリーンプリントを行った(写真44)(写真45)(写真46)。かばん本体は白いキャンバス生地に赤、ピンク、スカイブルー、ライトグリーンのポップな色でプリントをし、裏地にはプリント同色のギンガムチェックとストライプの先染め生地を使用。かばんのふちにはオレンジ色のパイピングテープを使用し、デザインポイントにした。ワークショップで学んだノウハウを取り入れたことにより縫製技術は格段に成長し、シンプルで可愛いハンドメイドトートバッグが完成した。(写真47)Tシャツのプリントレイアウトも肩や脇に少しずらせることで動物の躍動感を表現、若々しく明るいイメージのTシャツが出来上がった(写真48)(写真49)。このTシャツは最終審査会でみっくすさいだーメンバーのユニフォームとして着用した。
最終審査は2006年8月18日(金)、兵庫県立美術館ギャラリーにて行われた。参加者は参加企業バイヤーと一次審査を通過した75組のクリエイター。(内訳:メンズウェア7、レディースウェア9、ユニセックスウェア7、アクセサリー27、バッグ7、婦人洋品雑貨4、帽子6、家具・インテリア7、グラフィック1)展示会形式で行われる最終審査は、クリエイターにとっても企業にとっても様々なメリットがある。クリエイターは実物作品を直接手にとって見てもらうことが出来、応募書類では伝えきれない熱い思いを表現できるチャンスである。また企業バイヤーにとっても関心のあるクリエイターの実物作品に触れ、生の声を聞くことは、商品をより深く理解する上で欠かせないコミュニケーションである。クリエイターとショップが交流しながら企画を進めていくことで、一緒に良いものを作り上げていく協力姿勢が生まれるのである。
しかしながら、企業バイヤーたちは生半可な遊び気分でこのドラフト!に挑んでいるのではなく、ビジネスパートナーとなるクリエイターを探しに来ているのだ。当然のことながら商品として採用できる価格であるか、生産背景はどうなっているか、お互いのコンセプトは合致するかなど、シビアな質問をぶつけてくる。一方、バイヤーにとって魅力を感じないデザインには容赦のない厳しいコメントが突きつけられる。みっくすさいだーメンバーたちがこのような場でプレゼンテーションをすることは初めての経験であり、大いに緊張する場面であった。私たちは明るく、ハキハキ、積極的に話しかけるといういたってシンプルな姿勢で審査に挑み、みっくすさいだーのコンセプトと作品の魅力についてアピールを行った(写真50)(写真51)(写真52)。その結果、大丸*6、on the couch(オン・ザ・カウチ)*7の2社からみっくすさいだーのかばんを商品化したいとの提案を受けることになった。
4-3-3 大丸との取り組み
大丸との取り組みでは、大丸がMD計画を、みっくすさいだーがデザインや仕様などのソフトを提案するというスタイルで企画を進めた。大丸には「大丸CUSTOMER'S VIEW」(カスタマーズ・ビュー)というシステムがあり、お客様の声を売場やアンケート調査、インターネットなどで集め、その声を元に商品開発や施設整備、サービスの向上につなげるという活動を行っている。大丸かばん売場の主要客層は20代~30代のOL。ターゲット年齢のOL層を対象に需要が高まっている商品にランチタイムバッグとブックバッグがある。ランチタイムバッグとはOLがお昼休みに食事に出かける際、財布と携帯電話など必要最低限のものだけを入れるのに使う小さなかばんのことである。ブックバッグは、A4書類や雑誌がスッポリ入るサイズのサブバッグのことである。2007年春夏のカスタマーズ・ビューアイテムのひとつとして、みっくすさいだーがデザインするランチタイムバッグとブックバッグが売場デビューすることに決定した。
大丸への初回打ち合わせには、42ページにも及ぶデザイン提案書を持参した。14柄のプリントデザインとそれぞれのカラーバリエーション(2~7色展開)を提案した。これは一見すると、なんの整理もせず、思いつくままにアイデアを並べているかのように見えるかもしれないが、そうではない。学生一人一人が自分のアイデアでデザイン提案を行えるようにするため、一人につき1デザインを制作するという試みをとったからである。一人一人の発想力を大切にするという目的と各自の技術力向上という目的のためでもあった。自分のデザインに責任を持ち作業を行うことで、プロジェクト全体への関心も深まり、友達同士でアドバイスしあうという協力体制も生まれた。また、大丸という大企業を相手にスケジュールの詰まった中作業を円滑に進めるには、ひとつでも多くのデザインソースを具体的に提示し、その中からお互いのイメージを共有し絞り込んでいく方法が効率的だと判断したためでもあった。結果的にこの提案は大丸側にも非常に喜ばれ、学生の持つ豊かな発想力をアピールすることになり、ランチタイムバッグ3点(写真53)(写真54)(写真55)、ブックバッグ4点(写真56)(写真57)(写真58)(写真59)の合計7点が採用に結びついた。
また、商品化に際しての大きな課題であった材料、生産については、株式会社ソーイング竹内様が全面的に協力してくださり、大丸の生産について一手にお任せすることができた。プリントの下地になる生地はオリジナルデザインのイメージに近いキャンバス地を選び、ハンドルは革のハンドルに決定した。革のハンドルについては大丸からの強い要望であり、商品のクオリティを損なわないように革を選択したとのことであった。またブックバッグについてはビニールコーティング加工をすることにより、雨の日でも持ちやすい素材への配慮が施された。プリント技法についてはコストの都合上、「花と動物」を除く6つのデザインでデジタルプリントを使用することになったが、心配していた色の再現性は試作段階で確認をすることができた。ピンクの再現性が低く黄色が濁って見えるなど、デジタルプリント特有の問題は多少起こっていたが、本番加工には修正点を反映していただき、大きな問題なく本番生産ができた。ちなみに「花と動物」(写真59)についてはラメ加工の予定でハンドプリントを検討していたが、加工工場とコストの都合上、ラメ加工が実現しなかった経緯がある。そのため、このデザインだけビニールコーティング加工がされていない。これら全ての加工、縫製は日本国内の工場で行われた。
2007年3月14日より大丸神戸店、梅田店、心斎橋店、京都店、東京店、札幌店の全国直営6店舗とWEBショップにて発売が開始された。予定では2007年冬まで定価での販売を継続する(写真60)(写真61)。
今回、大丸との取り組みが実現したことを非常に感謝している。企業にできる社会貢献のひとつとして、大学との共同研究やユニバーサルデザイン商品の開発、アウトサイダーアートとの取り組みなどが考えられるが、どれもすぐに結果が見え、大きな利益に直結するビジネスではない。しかし、大丸はこれらの取り組みに高い関心を抱いており、デザイン面だけでなく、総合的な見地からみっくすさいだーを高く評価してくださった。またデザインについては他の商品との差別化がハッキリしており、学生特有の未熟さはあるものの魅力に溢れた新鮮なデザインであるとお墨付きをいただいた。このように企業と私たちみっくすさいだーが協力し合い一緒に取り組めたことは、デザイン教育、福祉、ビジネスが融合したモデルケースでもあり、大きな意義があったと感じている。
4-3-4 on the couchとの取り組み
オン・ザ・カウチとの取り組みでは、バケツ型バッグや丸型バッグ、ブローチにもなるマスコットなど、ファッションアイテムとして面白みのあるものを中心に9つのデザイン案を提案した。その中からオン・ザ・カウチのバイヤーに選定をしてもらい、何度かのデザイン修正を経てトートバッグ、ブックバッグ、ポーチが2007年5月からの売場デビューに決定した。
デザイン修正の過程ではカラーバリエーションの変更を求められることが2度あり、オン・ザ・カウチがどのような色を求めているのかを理解するのに少し時間がかかった。特に大丸との取り組みが先行していたこともあり、みっくすさいだーのポップで明るいイメージと大丸顧客層の求める安心感のある爽やかなイメージを中心に最初のデザイン提案をしてしまっていたため、両者の間にイメージの食い違いが発生していた。オン・ザ・カウチの主要客層は10代前半~20代前半の元気でカジュアルな女の子たちであり、派手な色や濃い色を好む傾向にあった。2度のカラー修正の後、黒、ピンク、白、青などの濃い色を中心にデザインが決まった(写真62)(写真63)(写真64)。
また、オン・ザ・カウチの材料と生産については、株式会社アリック様が全面的に協力してくだり、中国でのサンプル試作、本番生産まで一手にお任せすることができた。この生産ではアパレルビジネスのQRシステム(クイックレスポンス・システム)を目の当たりに体験することができた。SPAではQRシステムは今や常識とされているが、商品のサンプルとプリントのデザインデータを送るだけで、2週間後には試作サンプルが日本の私たちの手元に届くのである。中国で生地の手配からプリント加工、パターンの作成、縫製まで、全ての工程を行うのだ。勿論、日本での検品によるチェックは欠かせないが、今回のサンプルについては、ほとんど何の不備もなく量産に進むことができた。
2007年5月21日より、全国のオン・ザ・カウチショップ29店舗で発売された(写真65)(写真66)(写真67)。
オン・ザ・カウチとの取り組みを通して、百貨店とSPAのもの作りの違いを学ぶことが出来た。どちらも日本全国で平均3000~4000円の上代で販売されるかばんで、お店の形態、ターゲットの違いにより、材料選びから生産国まではまったく異なるルートをたどることになった。もの作りと関わる以上、中国の生産力は重要であると認識しているが、日本の生産力もまだまだ頑張ってほしいと実感させられた。それにしても、中国のQRシステムは日本の生産者にとって脅威であり、日本は高度な先端技術と伝統技術で応戦するしかないのだろうか。今後の課題である。
4-4 今後のみっくすさいだー
2006年度のみっくすさいだーの活動は、ドラフト!5でのショップデビューをきっかけに、一気に活動の幅を広げることができた(図2)。メディアからの問い合わせも多く、新聞各紙にも記事が取り上げられ(図3)(図4)(図5)、大丸カスタマーズ・ビューカタログでは見開き2ページにわたり大々的にみっくすさいだーが掲載された(図6)。
大丸やオン・ザ・カウチといったもの作りのノウハウを持つ企業と協力し商品化が実現できたことは私たちにとって大きな前進であった。みっくすさいだーは、デザインや発想などのソフト面を提供し、企業からは生産や売り場などのハード面での支援を受ける。このような企業とのコラボレーションビジネスは、私たちの課題を解決し、更に活動の幅を広げるチャンスであると考えている。
また、初回受注生産で得た売り上げ金の一部を原画作者である中村君に還元することができた。みっくすさいだーがNPOやボランティアという形式をとらずビジネスとして活動している目的は、原画作者へのロイヤリティの還元であり、障害者自立支援のひとつの形になればと考えている。更に、2007年度に得た大丸とオン・ザ・カウチからの利益についても、今後順次、メンバー全員に還元していく予定である。
新たな課題としては、みっくすさいだーとしてのブランドビジネスにおける運用ルール作りが必要なこと。特にアウトサイダーアートとの取り組みを進める上では、原画提供者との著作権に関わる問題やロイヤリティ還元の問題、またメディアなどへの対応方法など文書として明言化しておく必要のあることが多い。これまでの中村君との取り組みを参考に、慎重にルール作りを進めたいと思う。
みっくすさいだーのデザインはポップで明るくどこかユーモラスで、見る人の心を癒し、見る人を笑顔にさせる。みっくすさいだーのブランドビジネスはアウトサイダーアートやユニバーサルデザインと取り組み、企業や福祉関係、メディアなど多方面から関心を集めている。今後は、ひとつずつ知識や経験を蓄積し、ブランドとして社会に貢献できる仕組みを整備していきたいと思う。
4-5 謝辞
最後になりましたがみっくすさいだーの活動に際し、ご支援ご尽力をいただきました株式会社大丸、株式会社ソーイング竹内、株式会社シティーヒル、株式会社アリック、ドラフト!実行委員会、青少年育成文化芸術団体ぷちぱんそーの皆様、中村清隆君とご家族様、ならびにご賛同いただき協力下さいましたすべての皆様に心より感謝申し上げます。