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4 カタチとワザ

 1950年代に登場したエレクトリックギターは、ポピュラーミュージックに新たな可能性を開き、様々なジャンルの音楽が花開いた。私が高校生の頃、1970年代後半がそのピークだと思われる。それから、1980年初頭シンセサイザーに代表されるデジタル化の波が押し寄せ、サンプリングを中心にした音楽がヒップホップを生んだ。このように、新たなツールが新しい表現や領域を生むきっかけになることは珍しいことではない。油彩画が開発されたことにより、奥行きと透明感を表現することが可能になり、それ以前より写実的な空間表現が可能になった。キャンバスが開発されたことで、画家の行動範囲は広がり、アトリエから外に出た画家たちは新たな表現を生んだ。1990年代初頭。デザイン分野においてコンピューターが実用化された意義は大きい。プログラマーのものだったコンピューターを様々な人が使うようになり、すぐにマルチメディアという概念が定着する。あまりに声高に言う人が多かったし、クォリティーも低かったので、毛嫌いする人も多かったが、それまでそれぞれの専門的機材と大掛かりな設備が必要だった映像と音楽・音響を一元的に扱えるこの技術は、映像・アニメーション制作の裾野を大きく広げた。そして、インターネットである。
 当たり前のことだが、3DCGの表現力はその多くをコンピューターの性能に依存する。形あるものはすべて仮想空間上に配置された多角形=ポリゴンの集合体として捉える(図9)ので、コンピューターの性能が高ければ高いほど、多くのポリゴンを扱うことができる。つまり詳細な描写が可能になるのである。このようにハードウェアの進歩が状況を支えているのは確かだが、新たなアルゴリズムによるソフトウェアの進歩も重要な役割を果たしている。最近のトピックスとしては、イメージベースドライティング(図12)とディスプレイスメント/ノーマルマッピングをあげることができる。イメージベースドライティングは、写真などの画像を仮想空間上にあるオブジェクトを照らすライトとして使用する方法である。非常に現実的な光の状態を再現することが可能になり、飛躍的にリアリティーを増した。ディスプレイスメントマッピングは、詳細な表面の凸凹情報をテクスチャー画像の明度の階調により生成する方法で、比較的以前からある技術であるが、シームレスな生物などの複雑なオブジェクトに適応する継ぎ目無いテクスチャーを描くことが非常に困難であった。しかし、Zbrush(図11)というソフトウェアが登場し、この状況を大きく変えた。優れたレンダリングエンジンにより、リアルタイムで状況を把握しながら表面情報を描いてゆくことが可能であることをベースに、様々なユニークな画像処理を可能にしている。映画「The Lord of the Rings」を制作したWetaデジタルのスタッフとの共同開発。ILMなどでも使用されている事からもわかるように映画などにおけるCGクリーチャーの表現力を一気に高めた。私の最新作「HANUME」でもこれらの技術は積極的に取り入れてゆくつもりである。


図9 HANUMEのワイヤーフレーム表示  3DCGでは、形あるものすべてを多角形の集合と考える。ラインの方向性などはアニメーションを考慮している。

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図9
HANUMEのワイヤーフレーム表示
3DCGでは、形あるものすべてを多角形の集合と考える。ラインの方向性などはアニメーションを考慮している。


図10 HANUMEは「花の女」。浮遊する岩に根を下ろしているので、自力で進むことはできない。手探りで「見えない糸」を手繰り寄せて進もうとする。図はポーズも表情もない初期状態。

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図10
HANUMEは「花の女」。浮遊する岩に根を下ろしているので、自力で進むことはできない。手探りで「見えない糸」を手繰り寄せて進もうとする。図はポーズも表情もない初期状態。


図11 ZBrushのインターフェイス。ペイント系ソフトと同じような感覚で3Dオブジェクトを扱うことが可能。直感的操作が可能であるがゆえに基礎造形力が問われる。

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図11
ZBrushのインターフェイス。ペイント系ソフトと同じような感覚で3Dオブジェクトを扱うことが可能。直感的操作が可能であるがゆえに基礎造形力が問われる。


図12 イメージベースドライティングの例 背景の写真はハイ・ダイナミックス・レンジ・イメージの360度パノラマ写真。この写真がオブジェクトを照らすライトの役割を果たしている。それまで難しいとされた、屋外のシーンなどをリアルに表現することができる。HANUMEのテクスチャーとライティングをテストしている。

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図12
イメージベースドライティングの例
背景の写真はハイ・ダイナミックス・レンジ・イメージの360度パノラマ写真。この写真がオブジェクトを照らすライトの役割を果たしている。それまで難しいとされた、屋外のシーンなどをリアルに表現することができる。HANUMEのテクスチャーとライティングをテストしている。


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