本事業の目的は、「障害者自立支援法に基づく新しいサービス体系(個別給付や地域活動支援センター等)に移行しようとする小規模作業所等に対し、さまざまな情報提供や必要な事業所へのコンサルティングを実施することにより、移行を推進することを目指す。」ことである。
本プログラムでは、小規模作業所の「経営力」、「販路開拓力」、「商品開発力」向上等をテーマに、図1に示すように、まず、全体研修会、個別指導、訪問指導、グループ指導が行なわれた。さらに商品開発力を習得するためにスキルアップ講習会を行い、その成果発表の場として、「小規模作業所モノづくり展示会-プロダクト100-」が開催された。
本学では、全体研修・スキルアップ講習会講師・プロダクト100の小規模作業所への提案-デザインビジネスのモデル提案-を見寺貞子、プロダクト100の展示企画案を瀬能徹、プロダクト100の小規模作業所への提案-アートビジネスモデルの提案-を谷口文保・小野裕子、プロダクト100の小規模作業所への提案-デザインビジネスのモデル提案(ラッピング)-を石崎真紀子UDアドバイザーが担当、ファッションデザイン学科の学生10名(井上貴博、金子哲、迫田恵美、水谷芙木、森實小百合、藤田美佳、越智英雄、鳥居さおり、上村理美、土井恵美)もプロダクト100の内容に関してデザイン提案を試みた。その内容について以下に示す。
3-1 商品企画力アップのためのコンサルティング
3-1-1 目的
本研修では、利用者の工賃アップにつながる自主製品等の「ブランド化」を推進し、一般製品と競合できる自主製品の商品開発・企画力アップのための再考を試みる。
3―1―2 商品企画力アップのためのコンサルティング法
○ステップ1:コンサルティングを行なうにあたり、まず小規模作業所等新サービス体系移行推進研修事業所紹介書を通じて、作業所の自主製品や作業内容、弱みと強み、地域との関わりについて自己分析を行なった。その結果やグループヒアリングから、作業所の自主製品の現状が理解できた。また、マンパワー不足や厳しい経営状態などが報告され、「経営方法」「自主製品の質向上」「販路開拓」等の問題があげられた。多数意見としては、自主製品の質向上に関しての手法がわからない、作業所間の情報の共有がほとんどない、があげられた。しかし、作業所の要望がそれぞれ異なることから個別相談を行なう必要があることが明らかになった。
○ステップ2:作業所の「ブランド化」を推進するために、授産製品の相談シートに基づく個別指導を行なった。本シートから作業所の現状分析を行い、自主製品開発の方向を導き出した。その結果、自主製品をつくることが精一杯で、同業他社や一般製品の情報収集を行なっていない、市場のニーズに合わすというモノづくりを行なっていないなどの問題点が明らかになった。
○ステップ3:その後、訪問を希望した作業所を訪ね、施設環境を理解し、利用者たちの要望をヒアリングしアドバイスを行なった。その際、利用者たちが楽しくなるような、やりがいのある自主製品の開発が望まれていたこと、地域との連携が少ないこと、地場産業を活かした自主製品の開発を行なっていないことなどが明らかになった。
3-1-3 コンサルティングを通じて
各作業所では、日々、経営者や関係者、ボランティアの努力により自主製品が生産されている。しかし、一般製品と対等に販売していこうと思えば、同業他社の市場動向の分析、ターゲット、販売場所、販売方法、地域との連携と活用が不可欠である。現在の社会状況をふまえて、「販路開拓」「自主製品の質の向上」「経営方法」を再考することが求められる(写真1)(写真2)(写真3)。
3-2 スキルアップ講習会
3-2-1 目的と方法
全体・グループ・個別・訪問コンサルティングを終えた後、商品企画力アップを目指して、スキルアップ講習会が開催された。本講習会では、授産製品の相談シート「5W2Hでチェックしよう!」で自己分析を行なった結果をふまえて、市場のニーズに合わせたきめ細かいモノづくりの手法と販売方法を行なった。自主製品を活かす商品パッケージの工夫、チラシの作り方、接客方法など作業所指導員のデザイン事例をモデルに進めていった。
3-2-2 講習会の内容
3-2-2-1 講座1「ものづくりのヒント-誰に販売するの?-」
作業所のモノづくりの特徴は、利用者・指導者の要望で作業所の特色を決めることができるという自由度の高さである。この利点をモノづくりに活かす視点を説明した(写真4)。
(1)販売促進に必要な「人」「モノ」「場所」の3要素
作業所のより良い運営には、「人」のネットワーク、「モノ」の質、できるだけ多くの人が集まる「場所」の確保 の3要素が欠かせない(図2)。これら3要素のつながりの中で、経営の安定は生まれる。
(2)「モノづくり」BEFORE→AFTER
ものづくりには、商品計画、販売促進計画、販売計画が必要である。PLAN ⇒ DO ⇒ SEE ⇒ ACTION このサイクルからより良いモノが生まれる。「モノづくり」BEFORE→AFTERの資料を参考に自主製品の見直しを図る。
(3)ブランド企画のプロセス
以下のブランド企画のプロセスを参考に自主製品を制作し、販路開拓に行くことを提案した。
1.社会や地域の状況をキャッチして、モノづくりのコンセプトに取り入れる。
2.対象者を決めて、ライフスタイル型商品を製作する。
3.製作したい商品が決まればデパートの地下や雑誌で売れている商品を調査する。
4.ポートフォリオ・商品注文書・チラシをつくり、販路開拓に行く。
3-2-2-2 講座2「商品を見せるためのパッケージ -品質を高めて見せる店舗空間・パッケージとは?-」
素敵に見えるラッピングのポイントは、プレゼントを贈る人への感謝の気持ち。高価なものでなくともラッピングの工夫で素敵なオリジナル商品が表現できる(写真5)(写真6)。ラッピングの提案を小規模作業所のものづくり展示会「プロダクト100」で紹介する。
3-2-2-3 講座5「プレゼンテーションの方法-相手に好印象を与える表現とは?-」
他者に対し「感じが良い」と思ってもらえるポイントを考えてみた。服装と身だしなみの清潔感、作業所の特徴をPRできるユニフォームでの販促も重要であると説いた。
3-2-3 スキルアップ講習会を通じて
効果的な講習会を行うには、作業所の作業内容や製造しているモノを把握し、作業所にあったコンサルティングを行なう必要がある。そのために、今回、参加作業所自主製品リストを作成した。その結果、作業内容が、食品製造、衣類・用品製造、農業、陶芸、小物・雑貨製造、絵画・オブジェ制作、飲食店経営、販売店経営、パソコン・印刷・デザイン関係、配食サービス、委託作業、その他の12分野に分類された。内訳は、自主製品(小物・雑貨)製造が最も多く、次いで委託作業、食品の製造販売があげられた。この資料は、分野毎の指導や情報交換に非常に有効なものである。この講習会を通じて、作業所間に交流が生まれ、相談しあう姿が見られた。今後の「販路開拓」「自主製品の質の向上」「経営方法」に活用できる多くのヒントが生まれたに違いない。
3-3 小規模作業所のものづくり展示会 「プロダクト100」
3-3-1 目的と方法
小規模作業所等新サービス体系移行推進研修事業の最終の成果確認の場として、「小規模作業所のものづくり展示会 プロダクト100」(以下、プロダクト100と略す)が開催された(写真7)(写真8)(写真9)。ここでは、販売商品をよりよく見せる工夫を提案した。
スキルアップ講習会で制作した小規模作業所等新体系サービス移行推進研修会参加作業所自主製品リストから、12種類のバナーを制作し展示会を盛り上げた(図3)。
以下、展示会で企画提案したモデルについて紹介する。
3-3-2 小規模作業所への提案………デザインビジネスのモデル提案
3-3-2-1 販売什器モデル
小規模作業所が自主商品を販売している場所は、店舗以外にイベント会場や駅構内など出張販売する場合が多いようです。その際に、持ち運びが簡単で、折りたたみ可能なシステム什器は、見た目も好印象を与えます。自主製品がおいしそうに、かわいく、楽しそうに見える什器の色を考えましょう。合わせて、エプロンの色も考えると、統一感が出てお客様へのPR力が増すでしょう(図4)(写真10)。
3-3-2-2 エプロン・TEN -仕事を楽しくするエプロンたち-
小規模作業所が取り組んでいる仕事は、モノづくりや販売、委託作業とさまざまです。
利用者や指導者が、毎日元気に、そして楽しく仕事に取り組んでもらいたい、そのような思いを込めて、私たちは10種類のエプロンを制作提案しました(写真11~20)。
野菜をおいしくたくさん食べてほしいなぁ! さおり織りのあったかさを生活の中にいれてほしいなぁ! リサイクル推進のお手伝いがしたいなぁ! 各所の仕事からインスピレーションを得て、想像力を膨らませたら、とても楽しい10種類のデザインエプロンになりました。このエプロンは、90cm×90cmの1枚の生地から制作されています。地球にも優しいエプロン。廃材が出ないようにカットされています(図5)。
3-3-2-3 シンプル・ラッピング -エコ・・ハンドメイド・・個性-
小規模作業所で作られたモノたちを包むラッピング。商品を引き立てるワキ役として、手づくり感とエコの精神で素敵に提案します。
○ エコ・ラッピング1:捨てないラッピング
可愛いラッピングも、頂いた後はしまい込んだり、捨ててしまったりと悲しい運命です。私たちは、使った後も捨てない、再利用できるラッピングを提案します。台所の三角コーナーや排水口に使うごみ袋も、自由にデザインしておしゃれなラッピングバッグに変身。リボンの代わりに木製クリップを使って、捨てない、便利に再利用します(写真21)。
○ エコ・ラッピング2:残布を使ってラッピングアクセサリー
さをり織りの残布を使って、ラッピングアクセサリーを作ってみました。クリップに布を張ったり、ハート型に作ったり、柄と色合いを生かした存在感のあるアクセサリーができました(写真22)。
○ カレンダリー・ラッピング:シーズンが心地よいラッピング
季節感やカレンダリーなイベントにそったラッピング提案で、いつもの商品も違った表情になります。特に、カラー提案は最もイメージを打ち出しやすく統一感のある表現方法です。お客様に「ステキ!」「買いたい!」と思ってもらえるカレンダリーなラッピング提案で、PRを図りましょう(写真23)。
3-3-2-4 さをり織り -さをり織りのマイルーム-
さをり織りは、特別な決まりや技法などのない自由な手織です。織り手の感性の赴くまま、好きな色、好きな糸を使って織り込んで出来上がった布は、まさに織り手の感性そのものの、世界でひとつしかない柄、配色の作品といえます。色を重ねていくことで深まる味わいのある配色、縦糸と横糸の織りなす微妙な美しい柄行き、しっとりと手になじむ柔らかい風合い、そんな自然で優しいぬくもりのあるさをり織りの特徴を生かして、私の部屋に欲しい商品、身に付けたい商品を提案します(写真24)(写真25)。
・さをり織りのインテリア小物
・さをり織りの身の回り品
・さをり織りのアクセサリー・雑貨
さをり織りにフェルトや毛糸、いろいろな素材を組み合わせるとイメージは広がり、よりやさしいイメージの世界が出来上がりました。また、丹念に織り上げられた布は隅ずみまで使いたいという発想から、端切れを使ったラッピング小物など、さまざまな商品と組み合わせて使える可能性も見いだせました。
さをり織りのやさしさを私の身に私の部屋に取り入れませんか。
3-3-2-5 eco -廃材を再利用して、おしゃれを楽しもう-
・エコ(環境)は、将来の地球を考える上で、避けては通れない問題です。紫外線問題、大気汚染、ごみ問題、森林破壊、水質汚染など、さまざまな問題が上げられますが、一番身近な問題、それはゴミも大切な資源だということです。
ゴミを出さない。だけどゴミが出たらゴミを有効に活用する。
物を大切にして、リサイクルを心がけましょう! ということではないでしょうか。
私たちは、そういう観点から、廃材を使ったおしゃれなアクセサリー(写真26)や、廃材の出ないデザインエプロン、廃材を使ったエコバックを提案します(写真27)(写真28)(写真29)。
3-3-3 デザインビジネスのモデル提案を通じて
プロダクト100では、学生たちの視点で、小規模作業所の特徴を活かし、ビジネスにつながる楽しいモノづくりを行なった。その結果、地球や地域に優しいエコ活動を基本に、機能性やおしゃれ感を加えて、モノづくりを行なうことになった。学生たちは、このプロジェクトに関し、興味を持ったと答えた。今後も、「福祉・デザイン教育・ビジネス」の視点からのモノづくりを続け、可能性を見出していきたいと考える。
3-3-4 小規模作業所への提案………アートビジネスモデルの提案
「小規模作業所のものづくり展示会 プロダクト100」において、「小規模作業所とアーティストの連携によるビジネス・モデルの提案」を行った。本事業は「これからの小規模作業所」についてアートの観点から考え、福祉と芸術の連携の可能性を探った活動である(写真30)(写真31)(写真32)(写真33)。
(1)実施概要
原画協力:「NPO法人えびす」(志水哲也代表・たつの市)
作品制作:10名(神戸芸術工科大学 谷口文保専任講師、小野裕子助手、造形表現学科学生8名)
展示内容:絵画(10点)彫刻(1点)オブジェ(4点)フィギュア(3点)アクセサリー(1点)
(2)内容
知的障がい者の作成したスケッチやイラストを、小規模作業所に眠るコンテンツ資産と捉え、アーティストとの連携による商品化、ビジネス化を図る。アーティストとの連携の可能性は3つ。
1.スケッチそのものの商品化へのアドバイス(例:本格的な額装)を行う。
2.スケッチをもとに油彩画や金属彫刻など、しっかりとした表現素材への転換をサポートする(写真34)(写真35)。
3.スケッチから得たイメージを膨らませてアーティストによる新たな作品を制作する(写真36)(写真37)(写真38)。
江戸時代の連歌から「小説の映画化」やサンプリング・アートまで芸術の世界にはさまざまな連携のかたちがある。アーティスト一人では生まれない創造の可能性を、小規模作業所との連携の中に探ることは、アートの実験である。同時に、こうした過程を経て生まれた作品の売却益の一部が、スケッチの作者や小規模作業所に還元される仕組みをつくる。それは福祉と芸術の連携による小規模作業所の新たなビジネスモデルへと発展する可能性がある(図6)。
(3)実施結果
「プロダクト100」の当日に、作品制作者と原画作者との直接交流が実現した。また、一般来場者からの賛同意見も多数得ることができた。医療施設や住宅展示場への展示や販売などの可能性についてもアドバイスをいただき、大いに参考になった。参加学生にアンケートを実施した結果、地域と関わるアートや社会福祉について関心が高まったことが分かった。こうしたことから、教育面においても大きな可能性のある活動であることが明らかになった。