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5|作品に対する自己評価

日頃、コンピュータに向かうことが多い私にとって、空間の構成を検討しなくてはならない今回の仕事は新鮮であった。また、金属、プラスティック、水、石などといった現実の素材との格闘は、油絵の具や様々な素材と戯れた学生時代以来のことであり、実感を伴った制作の感覚を取り戻すことができた。一方で、専門である3DCG制作においては、複雑な思いが残った。困難に直面し、それをソフトの機能を複合的に組み合わせるといったアイディアで乗り切ったことは、意義のあることである。しかし、それは日頃の研究が足りないせいだと指摘されれば、判断がつかず言葉に窮するだろう。実際のところ、バージョンアップを重ねるソフトウェアの機能のすべてを把握することは一人の力では困難だ。今後は短編アニメーションの構造を研究するといった芸術的側面と合わせて技術的な研究が進む風土を学生共々構築したいと考えている。受賞に関しては、グランプリは逃したものの、特別賞をいただいたことを率直に喜びたい。どんなことであれ、人に理解していただけることの喜びはひとしおである。作品制作に向かう主な動機は、そこにあると言っても構わないくらいだ。しかし、傲慢に聞こえることを恐れずに言えば、自信はあった。それは、漠然とした受賞に対する期待などということではない。小さな工夫の欠片がパズルのようにかみ合いながら一つの作品として組上がってゆくという実感を完成が近づくにつれて感じることができたことに由来する。そして、それは他に似たものがない独自性を持っていると思えたのと同時に、見ず知らずの観客との間にも言葉によらないコミュニケーションが成立する可能性を予測できた。動物園というほとんどの人が持つであろう共通体験をパッケージとして応用することで実現できたことだと考えている。

私がいなければ存在しなかったはずの作品は、誰もが唯一無二、世界のどこにも代わる者がないといった類の平凡でありありとした事実でありながら、実感する機会がそう多くない自覚を呼び覚ます。

それは、小さな一歩に過ぎなくても、生きる糧に他ならない。このコンペがなければ考えもしなかった作品形態に私自身が出会えたことは大きな収穫であったが、その機会を与えてくれた大学に感謝したい。


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