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2 活動の方針と概要

 上記の目的を実現するにあたり、本研究では以下のような基本的方針で臨んだ。
 (1)まんがとアニメーション(およびアニメーションを含む映画)の表現史を、総合的な視点からとらえること。(2)(1)の知見に基づき、まんがとアニメーションの創作指導における両者の統合的教育の意義を検討すること。(3)(1)と(2)に基づいて教育活動を実践し、その結果を方針や歴史知見にフィードバックさせること。および、そのような活動を継続することで研究全体を深化させること。
 まんがとアニメーションや映画は別々の表現技法であり、最終的にはそれぞれの独自性を踏まえた表現史研究が必要である。しかし、これらのメディアの歴史には相互に重なり合う部分や、影響を与え合っている部分が非常に多く、他の一方を欠いたままでは十分な検討が困難である。むしろ、その相互関係の中にこそ、個々の表現技法が芽吹き、発展してきた歴史を持っていると考えられる。そのことは、まんがやアニメーションに限らず、近代メディア全体の歴史を具体的に検証することにより、最も基本的な歴史認識として浮かび上がってくる事項である。
 まんがやアニメーションを含む、近代の視覚表現メディアの多くは、19世紀前半にその原理が発見され、19世紀後半にメディアとして形式が整えられ、普及していった歴史を持つ。中でもまんがとアニメーションは特に類似性が高い。近代まんがは、その最大の特徴であるコマ割りという原理が1820年代にRodolphe Toepfferによって事実上発明され、1890年代にアメリカの新聞連載の場で形式が整えられ普及していった。一方アニメーションは、人間の目の残像現象研究の成果として1825年にthaumatropeという形で原型が作られ、1890年代に映画というメディアが完成することで、その1ジャンルとして世の中に普及していった。その両者の並行する歴史はその起源から現在に至るまで、絵柄の共通性はもちろん、制作者の重複や相互交流、原作の相互提供など、密接な関わりを持ち続けている。
 そのような認識に立ち、本研究ではこれらを総合的に研究し、その上でメディア間の差異を明らかにしていく方針を立てた。
 よって、実際の教育理念や具体的な教育カリキュラムの構築にあたっても、この方針がおのずと反映される。これらのメディアの表現技法の総合的な変遷史によって得られる知見は、創作の教育の実践にあたっても、各メディアの総合的・統合的な方法教育を導き出すのであり、その実践から得られた知見は、改めてまた歴史研究に反映される。
 本研究では、以上のようなプログラムに基づき、具体的に2つの活動を行なった。それぞれの内容を以下の第3章と第4章にて報告する。その概略を述べるなら、1つは歴史研究のための基礎データの収集・整理であり、第一段階として、まずまんが書籍・雑誌蔵書のデータベース化を行なった。その活動を通じて、そもそも何をいかにデータ化すべきか、そもそもデータ化すべき対象とは何なのかという根本的な問題が浮上し、基礎データのあり方が検討された。
 もう1つは、教育活動の場においてこのようなプログラムを実践に移し、その意義を検証することである。あらかじめ歴史研究を全体的に完遂してから、それを教育に反映させるという段取りは、理念的に想定される手順ではあるが、現実的にはそのような方法はありえない。なぜなら、歴史研究活動には完遂というゴールはなく、知見が最終的に安定した地点に着地することも原理上ありえないからである。
 よってこのプログラムは、あらゆるプロセスを同時進行させながら、常時相互にフィードバックさせるというダイナミックな形で進行する必要がある。つまり上記の(1)~(3)の基本方針は、時系列的に順を追ったものではなく、継続的な相互運動としてあるべきものである。(文責・佐々木果)


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