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3 まんが書籍・雑誌蔵書に関するデータベース化について


3-1 データベース化の過程について


 メディア表現学科まんが・アニメーション専攻では学科創設時、東京の現代マンガ図書館の内記稔夫館長の計らいにより、大量のまんが及び雑誌等を購入している。その選別には大塚英志が務めており、主に80年代以前の主要作家、主要雑誌(また一部貸本が含まれる)を購入した。
 「80年代以前」というのは主に大塚が行うまんがの歴史的背景の教育実践において参照される時代であり、また、まんがという表現ジャンルが成熟したのが80年代であるという見立てからである。
 過去を参照し得る資料を得ることは、どのような表現においても貴重な財産であり、それはまんがという表現においても変わらないことは言うまでも無い。また、まんが・アニメーション教育学を確立する側においても資料の収集はその第一歩である。
 その双方において資料は整備されていることが望ましい。例えば、あるジャンルがどのような過程を経てきたのかを調べる際などには、デジタル化された情報を検索できる、といった状態であればそれは容易である。そのため総点数約7000冊におよぶ蔵書のデータベース化を学生有志の協力を得て行った。
 まんが書籍(一般に言うコミックス)に関しては作者ごとの五十音順で区別し、雑誌に関してはタイトルごとに区別した。まんがに関してのデータ項目は以下の通りである。
 (1)「判型」 (2)「出版社」 (3)「シリーズ名」 (4)「作者(原作者)」 (5)「タイトル名」 (6)「巻数」 (7)「発行日」 (8)「収録作品」
 (4)(5)に関してはそれぞれ読み仮名も同時に付けた。まんがのデータベース化に関しては(8)が重要なデータとなってくる。現在インターネット上の電子書店などにおいては(1)から(7)の情報は比較的容易に入手できる。しかし、(8)に関しては実際に手に取って中身を見るまでわからない場合が多い。ある作家の全集・短編集などは事細かにその収録作品が明記されている場合もあるが、タイトル名と違う作品が収録されていることはまんがという書物においてはよくあることだからだ。特に少女まんがにおいてはその傾向が強い。
 だが、時代をさかのぼった作品群になるとそもそもデータ化さえされていないことが多いので、その意味では本学科が収容しているまんが蔵書に関するデータ化はどの水準においてもある貴重性を帯びると思われる。
 これらの項目については事細かに1冊1冊中身を見ていけば一目瞭然であるため、データベース化に関してはほぼ機械的な作業で進めることが出来た。問題は雑誌の方にあった。雑誌のデータ項目は以下の通り。
 (1)「タイトル」 (2)「出版社」 (3)「発行人・編集人・編集長」 (4)「雑誌ナンバー」 (5)「掲載作品とその作者(原作者)」
 (1)から(4)にかけてはほぼ問題のない項目であったが、問題は、(5)である。「掲載作品」と一言で言っても、「まんが雑誌」であるからまんがばかりが掲載されているとは限らない。そこには多種多様な掲載群が存在した。一例を挙げれば、小説や評論・批評、対談、インタビューなどの文字による読み物がそれに当たる。また、イラストなどの一点ものや読者参加型の企画などもある。このような多種多様な掲載群――と言っても一回限りのものや、同内容であっても名前が変わったものなどもある。これらももちろん「掲載作品」である――のどれを「掲載作品」と判断するか、線引きを要求された。そこで、何を以って「掲載作品」と条件付けるか下記のルールを設けた。
 <タイトルと執筆者(人名)がクレジットされていること>
 まんが雑誌であるために、やはり「絵」が絡んだ掲載群が多い。「絵」それ自体でもすでに「情報(データ)」であることには違いないが、今回のデータベース化には「文字」による手段を用いた。そのために「絵」そのものだけをデータベース化することは適わず、ゆえにどこかに主体である「描き手/書き手」が存在するものは全て「作品」と見なすことにし、可能な限りこぼれ落ちるものを最小限に留めた。またこの条件によって、「絵」以外の掲載群を拾うことにした。
 だが、この「執筆者(人名)」という条件にも問題があり、いわゆるペンネームに留まらず、「まんがの登場人物が語る」というメタフィクションな読み物までもが存在した。またこの両者の区別が明らかにわかる場合もあるが、判然としない場合もあり、その時々にデータ化を担当した学生と検討する時間を取られた。(図1)
 また、少女まんが雑誌によく見られた芸能人などの特集記事や占いなども、確かに「人名」がクレジットされていたが、「作品」という観点から除外した。(図2) しかし、研究の観点次第では、その雑誌にどのような読み物が存在したかは重要な情報となることもあり、これには分類化という過程の中に、すでにある研究的側面が内包されていることを改めて思い知らされた。また、まんが雑誌にはいわゆる単行本化、書籍化されていない作品が眠っている場合が多々あり、そのデータベース化は後の研究において重要な財産となることが予想された。その観点でも、どのような情報も見逃さない分類作りの必要性を痛感したが、これには雑誌の「目次ページ」をビジュアル的な「画像」という形でストックすることにより、この問題はかなりの割合で解決することに繋がると思われる。完全な解決に至らない理由は、1つは「検索」するという利便性からは離れてしまうこと、またこれも「まんが雑誌」という特性か、目次に掲載されていない作品や読み物がまま掲載されていることがあるためだ。

図1 田村セツコ[週刊少女コミック「セツコのおしゃれ相談」] 小学館、1970年NO.21、p198~p199

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図1 田村セツコ[週刊少女コミック「セツコのおしゃれ相談」] 小学館、1970年NO.21、p198~p199

図2 山田美登利[りぼん「これでバッチリ!冬休みB・F星占い」] 集英社、1972年NO.1、p462~p463

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図2 山田美登利[りぼん「これでバッチリ!冬休みB・F星占い」] 集英社、1972年NO.1、p462~p463



3-2 現状とこれからについて


 現在、蔵書の9割以上が上記に述べた項目分類によるデータベース化を終えている。データベース化にはサーバマシンとデータベース管理専用言語である「SQL(Structured Query Language)」を用いる。詳細については本報告の主旨とは外れるので省かせていただくが、データ運用に比較的時間を取られず、かつ修正・補完の容易さと安全性が高いシステムを選んだ。
 運用は2007年の夏から秋の完成を目指し、まずは本学の学生に還元する形で運用する予定である。インターネット上での検索も想定し、それに耐えうるだけのスペックのマシンを選択したので、将来的には外部からの検索、参照も可能なものとしたい。


3-3 問題点とまとめ


 すでに報告した通り、あるデータ項目を定めたとしても、そこからこぼれ落ちてしまう情報もあり、雑誌に関しては十全なデータベース化を行うことが出来なかった。また<タイトルと執筆者(人名)がクレジットされていること>というルールを採用し、それにより純粋な「まんが」以外の掲載群を拾うことに対応したのだが、「果たしてこれはまんがなのか? それとも他の読み物なのか?」という後に利用する側の混乱を招く恐れが出てくることが予想された。そのため文章系のものにはタイトルの末尾に「(文)」、また絵物語には「(絵物語)」などと記しこれに対応したが、それでもそのジャンルさえ判別し難いボーダーライン上の掲載群には対応しきれなかった。
 これにはあらかじめ何らかの視点に立ち、それに沿った形でのデータ項目を設定し、掲載群の取捨選択をしていくという態度を取れば、それはそれで1つの整備されたデータベースを構築することが出来、また利用する側にとってもわかりやすさが生まれるが、やはり手落ち感は否めない。
 表現する側にとっても、研究する側にとっても実際にはその資料に当たるということを行わなければいけない。ゆえに全ての情報がデータベース化されることが理想ではあるのだが、それは物量的な問題で実現不可能であるし、やはりフックとしての「項目」や「分類」の必要性は残るだろう。
 これらの問題の折衷案として、目次ページの画像データ化は、不備な点もあるがそれにより益するところが多いと判断される。文字によるデータベース化と目次ページの画像によるデータベース化はお互いを補完し合い、より十全なデータベース構築に向かうものと判断する。
 今回は残念ながらスキャナーなどの設備的な問題、また時間的な問題から画像によるデータベース化は行えなかった。これは後の検討課題であると思われる。(文責・泉政文)


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