A Study on the Influence of Modernistic Design Trends on the Establishment of Today's Typesetting
我が国近代における「活字組版」成立過程の検証を中心的な研究対象とする。幕末・明治期以降の近代化の過程において軍事・法制・教育などさまざまな制度が政策として急進的な近代化を進められたとき、そのための知識の流通の基盤をなす印刷・出版文化の中で、どのような変容があったのかを検証する。「小學読本」教科書の普及や「言文一致運動」を通じて成立した「国語」の枠組みの世界の、その連続の中にわれわれの「組版」や「デザイン」はある。そのようなことをより明確に意識化する立場から、現代のグラフィックデザインの日常的な製作の現場で「書体」「組版」「タイポグラフィ」の表現にそれらが、どれほどの影響を及ぼしているかを確認し、実践者であるデザイナーとして、より自覚的な「日本語の文字」への接近を意図するものである。DTP技術を中心としてコンピュータ使用の作業環境がすでに前提となっているグラフィックデザインの世界においても「書体」「組版」に対する「標準」の意識(隠された美意識)が、確固として流通していると思えるが、看過されがちなその由来を提示する試みは、次のデザイン実践のためには必須なものだと考えられる。
また、DTP技術は、現代技術の「グローバル化」の典型として、地球上のあらゆる場所においてオペレーター(=デザイナー)+マシン(=マッキントッシュ)のみにおいての「出版物」の生産の実現をもたらした。しかし技術面におけるそうした「グローバル化=スタンダード化」にもかかわらず、そこに出現するグラフィズム(デザイン上の構成)には、生産の場所と言語による強い文化的な固有性・ローカリティーが如実に表れてしまう。まさしく「方言化」ともいえるそうした現象は、ますます拡散的に増大・顕著となっているとも思われる。そのことは現代の日本のデザインの現場でも多様に現象している。そのような傾向にたいする批判的検証としても本研究は位置づけられる。われわれは日本語の文化に属するものとして、「日本語の文字」の問題により自覚的なデザイン的実践を、本研究を通じて獲得しうるものと考える。
本研究のより具体的な目的としては、さまざまな実践者・研究者による「文字」「書体」「組版」に関する論述の提供をいただき多面的な視座からの報告として、それを一巻の出版物として製作し、DTP技術/エディトリアルデザインの実験的実践として公刊することにある。輻輳する図像類といくつかのレベルにわたって展開する文章原稿との間に、どのような相応的でその論述固有のデザイン構成(=レイアウト)が可能性を表してくるかを確認したい。
各論述は「書体設計」、「組版」、「タイポグラフィ」、「エディトリアルデザイン」、「近代デザイン史」、 「古活字研究」という交錯する多彩な現場からの発言であり、個別にはきわめて独立性の強いものであるが、同時に底流する分かちがたい観点もあって、相互が照応することによって、より生産的な研究の成果となっていくものである。そうした論点の「独立性」と「総合性」のバランスをいかに最適化して、「ページレイアウト」の作業の中に還元しうるかも本研究の重要な目標であり、そのような実践を通じる事によってはじめて見えてくるであろう、現代の「デザイン」や「組版」のもつ、あらかじめ構造化されて内在する「困難」の解析にも近づきうるのだと考える。