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2.作者の表現媒体としての豚

写真4 コンテナ内部/入り口から撮影

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写真4 コンテナ内部/入り口から撮影


写真5 コンテナ内部/中から撮影

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写真5 コンテナ内部/中から撮影

2-1 豚を制作することについて 

アート イン コンテナ作品「群」は、コンテナの空間が埋まるようにミニチュアの豚を量産し群像表現の企画書を作成した。(写真4,5 図1,2,3)

豚を制作する理由として、作者はこれまで、豚を表現媒体として作品発表を続けている。媒体が豚である動機を辿ると、作者の生家は養豚場を営み、幼少から現在まで自然と豚と触れ合っている。作者にとっての豚は、子供時代から無意識に存在し、芸術表現へ意識することを試みてきた。

豚は人間に似ているところがある。惰性的であったりきれい好きであったり、相互関係の中傷や互いを必要とするところなどである。実は、このような人間の姿とは作者自身の姿であり、自刻像として豚を描出してきた。自身を媒体として描くよりも、他者を描いたほうが、自己の思想、自己を表出するのに都合がよい場合がある。自分自身を描くときは見せたくない部分を隠してしまうからである。自己を他者に投影した時のほうが欠点あるいは美点を自覚しやすい。他者を描くことは「私」を長時間かけて見つめ直し、自己と外界との接点、自己省察を極限まで推進できる。このようなことから、作者は自身の姿を豚に投影してきた。 2002年から現在の2007年までの作者の作品形態を追うと、自身を描いてきた単身像から、人間の社会へ問いかける群像制作に移行している。


図1 作品企画書/正面図 内法(高さ)2,385×(幅)2,352mm

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図1 作品企画書/正面図 内法(高さ)2,385×(幅)2,352mm

図2 作品企画書/側面図 内法(高さ)2,385×(長さ)12,032mm

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図2 作品企画書/側面図 内法(高さ)2,385×(長さ)12,032mm 


2-2 群像を表現すること

図3 作品企画書/平面図 内法(幅)2,352×(長さ)12,032mm

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図3 作品企画書/平面図 内法(幅)2,352×(長さ)12,032mm

作品「群」は、30パターンからなる原型から約2,000のミニチュアの豚を量産し群像表現を行っている。群像表現による視覚的効果は鑑賞者にインパクトを与える。量産によって表現する空間描出法を以下に記す。

『単身像と群像では、同じものを対象としながらも、創造される内容はかなり異質なものとなる。群像は、複数表現されているということであり、それによって表現される媒体と制作者の相互間に複雑な関係性が生じる。

単身像では、制作者と媒体との緊密な対峙を前提とするが、群像の場合は、むしろ媒体同士のさまざまな相互関係のあり様が表現の前面に出てくることになる。つまり制作者は、彼らの形づくる関係性のいわば傍観者であり、観察者であるということになる。従って単身像に比べて作品との間にやや冷静な距離を置いた視線が求められるのではないか。単身像に比べて群像が、作品の構図や構成にかなり意識的に配慮をせねばならないという事実が、物語っている。それと同時に、単身像の際のように、空間の問題も当然そこには介入する。つまり群像は、媒体相互の関係性の描出プラスそれらと空間との関係の描出という、複雑で錯綜した問題を制作者に課してくる。

群像制作の構図や構成における空間の関係は、「場」のような目に見える物理的なものと、媒体と制作者が対峙する心理的な意味合いを含ませた空間描出を試みられる。』*3 以上のように、量産化した作品は空間表現の幅を広げ媒体と作者、鑑賞者との複雑な関係性を生み出す。


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谷川渥/小澤基弘/渡辺晃一『絵画の教科書』日本文教出版、2001年、p114-p115参照