Possibility of the textile print using digital image II
製品の使いやすさやユニバーサルデザインの評価を実施する場合、身体にかかる生理・心理的なストレス・負担を測ることは重要である。これまでに、日常生活の現場やフィールドでも測定可能な計測法が開発されてきた(例、脳波、筋電図、エネルギー代謝などの無線計測)*1。最近では近赤外分光を用いて、脳・筋肉の細胞と血液中における酸素濃度と血流量を皮膚の表面からモニターし、内部の代謝活動を測る光技術が開発されている。この方法により、脳機能ストレスや筋肉の負担を推定し、動きやすい衣服などのデザインへ応用することが可能である。今回は、一般的な連続波・近赤外分光法の短所を検討して、測定精度がより向上した時間分解・近赤外分光法による筋肉の代謝活動計測について資料を提供する。
近赤外分光法(near-infrared spectroscopy: NIRS)は生体に近赤外光(700-950 nm)を照射し、その透過/反射光から生体組織の酸素代謝(酸素の供給と需要の状態)や血液量を測定する方法として幅広く利用されている(一般的には酸素モニターと呼ばれる)。この方法によれば、痛みを伴わずに(非侵襲的)脳機能ストレスや活動筋の負担・疲労の経時的測定が可能である*1。人間工学、ユニバーサルデザイン、スポーツ科学、応用生理学などの領域においても、この方法は幅広く応用されている(図1)。連続光を光源とする従来のNIRS装置(連続波法)は、修正Beer-Lambert式(MBL)に基づいて光路長、散乱と吸収を一定と仮定し、検出する光量の変化からヘモグロビン+ミオグロビン濃度の酸素化(Δoxy-[Hb+Mb])と脱酸素化の相対変化(Δdeoxy-[Hb+Mb])を測定する*2, *3。最近、開発された多チャンネルのNIRSイメージング装置でもこの方式が採用されている。しかし、生体内で光は様々な組織により散乱し、また吸収されながら伝播するので、検出光量の相対変化の測定だけでは、個体間や部位間の酸素代謝(つまり、ヘモグロビン+ミオグロビンの酸素化動態)の正確な情報を得ることは困難である*4。
そこで、新しい近赤外分光法として生体組織を通過する光の平均光路長、散乱係数、および吸収係数を実測できる時間分解分光法(Time-Resolved Spectroscopy ; TRS)が開発された*5。時間分解分光法においては、生体組織に極めて短いパルス光を入射した後に検出される光量の時間変化を計測する。入射した光は様々な生体組織により散乱し、また吸収されながら伝播するので、測定対象の散乱吸収特性に従った光量の変化が計測される。散乱が強い場合には、散乱距離が長いので検出される時間が遅くなる光子の数が多い(より拡がった波形)。また、吸収が強い場合には、伝播距離が長い、つまり、検出時間が遅い領域では吸収されてしまうため光量は非常に弱くなる。
この方法を用いて光の散乱吸収体の時間応答特性をピコ秒領域で測定することにより、脳や筋肉組織のヘモグロビン+ミオグロビン濃度の絶対値[μM単位]を測定することが可能である。例えば、精神作業時の脳細胞や運動時の活動筋細胞における酸素代謝(つまり、ヘモグロビン+ミオグロビンの酸素化動態)の測定を考えた場合、脳や筋肉組織の状態は安静時とは異なる。したがって、安静時に比べて活動時においては、分泌されるホルモン(例、アセチルコリン)やイオン(例、カルシウム)、代謝物質(例、乳酸)の生成など組織内の環境変化が光の散乱と吸収に影響を及ぼす可能性が高い*4。このように、活動時における脳細胞や活動筋細胞の酸素代謝の測定にはTRSが大変有効である。そこで今回は、TRS測定装置を用いて運動時における活動筋の酸素代謝を測定した結果を報告する。