A Study on the Re-evalution of Scenic Value of SETOUCHI part.2
0-1 瀬戸内沿海地域の概要
瀬戸内海はかつて、畿内と大陸を結ぶ海の路として、また、瀬戸内海諸地域の人々の重要な海の生活圏として、産業・経済・文化を支えてきた。しかし現代では、陸上交通の整備が進む一方で、少子高齢化や過疎化、経済・産業の低迷により、臨海諸島地域は年々衰退し、中心居住域の空洞化や未利用地の発生など、圏域としての活力を失いつつある。
0-2 瀬戸内海研究の経緯
本稿は、2005年度から継続的に行っている瀬戸内海研究「瀬戸内沿海文化史からみた参画と協働に基づく地域活性化に関する試行的研究」(平成17年度科学研究費補助金・基盤研究(C)企画調査、研究代表者 齊木崇人)および「シーボルトがみた瀬戸内沿海域の景観が持つ固有価値の再評価」(平成19年度科学研究費補助金・萌芽研究、研究代表者 齊木崇人)、に関する一連の報告である。また、2007年度の神戸芸術工科大学の紀要に掲載された「瀬戸内沿海文化史からみた参画と協働に基づく地域活性化に関する研究」(執筆代表者 齊木崇人)、「シーボルト達がみた瀬戸内沿海域の景観が持つ固有価値の再評価に関する試行的研究」(執筆代表者 齊木崇人)の内容を引き継いでいる。
私たちは以上の研究において、1)現地調査による、瀬戸内沿海諸地域の固有性を持った島や集落(図2)とそれらを取り巻く社会的問題の把握、2)瀬戸内沿海域の歴史・文化・産業に関する文献資料調査と、研究打合せによる江戸期の瀬戸内海の再評価(図3、4)と明治維新や戦後高度経済成長期を契機とした社会的・文化的衰退の指摘、3)文献資料・地図・空撮写真・現地調査による、固有な土地利用の仕組みを持つ島(図5)の歴史的変遷の把握、4)瀬戸内沿岸部の地域活性化に関する取り組み(図6)の現状の把握、を行い、瀬戸内沿海諸地域の地域活性化の提言への準備資料としてまとめてきた。
0-3 研究の目的
以上の成果を踏まえ、本研究は、瀬戸内沿海景観の実態とその歴史的変遷を、環境デザイン研究の視点から、1)沿海景観、2)土地利用と住居集合、3)営みと生活文化、について文献調査・現地調査を行い、ケンペル(Engelbert Kaempfer:1651-1716)、朝鮮通信使・申維翰(シン・ユハン:1681-?)、シーボルト(Philipp Franz von Siebold:1796-1866)、リヒトホーフェン(Ferdinand Freiherr von Richthofen:1833-1905)らが江戸時代中期~明治時代初期にかけて把握した瀬戸内海景観を指標とし、現在の瀬戸内沿海景観および地域の固有価値を再評価することを目的としている。また究極の目的として、再評価された地域の固有価値を生かし、明治維新・戦後高度経済成長期を経て疲弊し続けている、瀬戸内海諸地域の地域活性化への方途を提言したい。
0-4 研究の方法および本稿の構成
本研究では、瀬戸内海現地調査およびシーボルトらの瀬戸内海航海記録等の文献調査を行ってきた。具体的に、1)沿海景観、2)土地利用と住居集合、3)営みと生活景観、について次の4項目にしたがって研究を進めた。
0-4-1 瀬戸内沿海景観の現状把握と固有性を持つ地域に焦点を当てた現地調査
これまで、平成17~19年度に4回、本(平成20)年度に1回の計5回の現地調査を実施してきた。調査では、神戸、淡路島、姫路、室津(たつの市)、家島群島、赤穂、小豆島、牛窓、笠岡諸島、塩飽諸島、備讃諸島、直島諸島、鞆、阿伏兎瀬戸、尾道、しまなみ諸島、芸予諸島、防予諸島、屋代島、上関海峡、下関海峡等の、神戸から小倉までの沿海諸地域を巡り、フィールドワークによる瀬戸内固有の景観・文化・生活を持つ各地域の現状把握と、シーボルトらの航海記録に従った景観の追体験を行い、現在の景観特性およびその空間把握の実態を分析した。(第1章)
0-4-2 シーボルトらが評価した瀬戸内沿海景観の把握を目的とした文献資料調査
瀬戸内海が最も繁栄していたとされる江戸時代の瀬戸内沿海景観を把握するために、シーボルト、ケンペル、申維翰、リヒトホーフェンらのスケッチや文章記録を用いて瀬戸内沿海諸地域の情報を整理・分析し、江戸中期~明治初期にかけての瀬戸内沿海景観の特性を分析した。(第2章)
0-4-3 現地調査・文献資料調査の比較・考察による瀬戸内沿海景観の歴史的変遷の把握
0ー4ー1.現地調査による現状把握と、0ー4ー2.文献調査による江戸中期~明治初期の瀬戸内沿海景観の比較を行ない、瀬戸内沿海景観とその空間を把握する構造について、歴史的変遷を考察した。(第3章)
0-4-4 瀬戸内沿海景観の固有価値の再評価
0ー4ー3.の考察を経て、現在の瀬戸内沿海景観の再評価と空間把握の構造の変化、およびそれらの変化要因について考察を行った。更に、本研究の成果を踏まえて次の研究課題を組み立て、本研究のまとめとした。(第4~5章)