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図7 現地調査に利用した船・マリンシャトル (撮影:藤巻泰輝,2009/03/01)

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図7 現地調査に利用した船・マリンシャトル
(撮影:藤巻泰輝,2009/03/01)


図8 現地調査航路図(作成:木下怜子、宮代隆司、齊木崇人,2009)

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図8 現地調査航路図
(作成:木下怜子、宮代隆司、齊木崇人,2009)


図9 映像記録の様子 (撮影:木下怜子,2009/02/26)

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図9 映像記録の様子
(撮影:木下怜子,2009/02/26)


図10 兵庫津 (撮影:木下怜子 ,2008/07/16) (上)

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図10 兵庫津
(撮影:木下怜子 ,2008/07/16) (上)


図11 牛ヶ首崎 (撮影:齊木崇人 ,2007/08/25)

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図11 牛ヶ首崎
(撮影:齊木崇人 ,2007/08/25)


図12 向日比 (撮影:木下怜子 ,2009/02/28)

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図12 向日比
(撮影:木下怜子 ,2009/02/28)


図13 鞆 (撮影:木下怜子 ,2009/02/26)

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図13 鞆
(撮影:木下怜子 ,2009/02/26)


図14 瀬戸内沿海景観の空間的分析とそれぞれの関係 (作成:木下怜子 ,2009)

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図14 瀬戸内沿海景観の空間的分析とそれぞれの関係
(作成:木下怜子 ,2009)


図15 室津とその周辺(S=1:25.000) (引用:国土地理院 地図閲覧サービス)

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図15 室津とその周辺
(S=1:25.000) (引用:国土地理院 地図閲覧サービス)


図16 室津に接近する。高架状の道路があるのが室津の西の岬 (撮影:木下怜子 ,2007/08/20)

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図16 室津に接近する。高架状の道路があるのが室津の西の岬
(撮影:木下怜子 ,2007/08/20)


図17 西の岬の道路整備 (撮影:齊木崇人 ,2007/08/20)

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図17 西の岬の道路整備
(撮影:齊木崇人 ,2007/08/20)


図18 東の岬には室明神があり、松などに覆われる (撮影:齊木崇人 ,2007/08/20)

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図18 東の岬には室明神があり、松などに覆われる
(撮影:齊木崇人 ,2007/08/20)


図19 室明神は東の海上から眺められる (撮影:齊木崇人 ,2007/08/20)

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図19 室明神は東の海上から眺められる

(撮影:齊木崇人 ,2007/08/20)


図20 室津港の様子 (撮影:木下怜子 ,2007/11/04)

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図20 室津港の様子
(撮影:木下怜子 ,2007/11/04)


図21 漁師の仕事場 (撮影:木下怜子 ,2007/11/04)

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図21 漁師の仕事場
(撮影:木下怜子 ,2007/11/04)


図22 室津のまちなみ (撮影:上原三知 ,2007/08/20)

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図22 室津のまちなみ
(撮影:上原三知 ,2007/08/20)


図23 歴史的な建造物が保存される室津のまちなみ (撮影:齊木崇人 ,2007/08/20)

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図23 歴史的な建造物が保存される室津のまちなみ
(撮影:齊木崇人 ,2007/08/20)


図24 室明神 (撮影:木下怜子 ,2007/11/04)

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図24 室明神
(撮影:木下怜子 ,2007/11/04)


図25 室明神の参篭所から瀬戸内海を望む (撮影:木下怜子 ,2007/11/04)

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図25 室明神の参篭所から瀬戸内海を望む
(撮影:木下怜子 ,2007/11/04)

1. 瀬戸内現地調査でみた現在の瀬戸内沿海景観の特性

1-1 現地調査の概要

本稿では、特に第5回現地調査の概要を紹介する。2009年2月25日~3月1日の5日間、瀬戸内現地調査を行った。調査の目的は、船舶(図7)を利用した海域および陸域からのフィールドワークによる、瀬戸内沿海諸地域の景観・集落・生活の現状把握と、シーボルトらの航海記録(文章・スケッチ)をもとにした瀬戸内沿海景観の追体験および現状との比較である。

航路は、尾道から牛窓間において、a.佐木島、真鍋島・岩坪、佐柳島、本島・笠島、女木島、男木島など、私たちのこれまでの現地調査で評価を得た場所、b.阿伏兎岬、鞆、与島、日比・向日比など、シーボルトの記録の追体験を目的とした場所、c.下津井、牛窓など、ケンペルや申維翰(朝鮮通信使)の記録の追体験を目的とした場所、の3条件を基準に、航路の選定を行った。実施した航路は図8に示すように、尾道を出発して、佐木島、阿伏兎岬沖、鞆、真鍋島・岩坪、佐柳島・本浦、粟島、志々島、本島・笠島、六口島、下津井、与島、向日比、庵治、女木島、男木島、小豊島を経て、牛窓に到着した。調査には、研究代表者・相良二朗を含む8名が参加した。

調査の記録は、固有性が感じられる場所や、シーボルト、ケンペル、申維翰、リヒトホーフェンらが記録した場所の景観・集落・まちなみ等の写真撮影を行なった。また、ビデオカメラによる映像(図9)、デジタルカメラによる静止画を用いて、海域から集落やまちなどの目的地へ近づく様子を記録することを心がけた。更に、スケールが1/2,500~1/10,000の集落の白地図を用いて、地図情報による空間把握も行った。

1-2 現地調査による現在の瀬戸内沿海景観の分析

1-2-1 分析の対象地と方法

本稿では、(A)兵庫津、(B)室津(たつの市)、(C)日比・向日比、(D)鞆、(E)阿伏兎岬、(F)牛ヶ首崎(屋代島)、(G)上関海峡(室津・上関)、(H)関門海峡、の8地域を対象とし、私たちが現地調査で把握した瀬戸内沿海景観を分析する。(A)~(H)の地域は、いずれもシーボルトらの記録が残っており、かつ現地調査も行ったため、次章(第2章文献調査)との比較が可能であることから、比較対象として選出した。

本研究では、瀬戸内沿海景観を、1)沿海景観、2)土地利用と住居集合、3)営みと生活文化、の3特性に分類し、さらにそれぞれの景観について、1)沿海景観では、(1)海域、(2)居住域、(3)生産域、(4)森林、(5)背景の5つ、2)土地利用と住居集合では、(1)海域、(2)居住域、(3)生産域、(4)緑地の4つ、3)営みと生活文化では、(1)海域、(2)緩衝域、(3)居住域、(4)生産域、(5)緑地の5つの計14種類に分類し、それぞれで把握できた景観をまとめていく。

以上の3特性、14種類の景観は次のように定義する。(図14)


1)沿海景観:海域から把握できるまちや集落、岬などの、対象地域とその周辺を含む景観を指す。

(1)海域:対象地域の手前の海域を指す。

(2)居住域:対象地域の住居が集合する範囲を指す。

(3)生産域:対象地域の居住域の背後にある田畑や果樹園などの陸域の生産部分を指す。

(4)森林:対象地域の生産域の背後にある、集落の環境単位の中の樹林帯や、居住者の行動領域にある森林を指す。

(5)背景:集落の環境単位の背後もしくは周辺に把握できる山や島嶼、海、空などの背景を指す。


2)土地利用と住居集合:1)沿海景観から、より対象地域に接近した海域から把握できる、対象地域の土地利用や住居集合の景観を指す。

(1)海域:居住域の手前の湾や港を指す。

(2)居住域:沿岸部を含めた住居が集合する範囲を指す。

(3)生産域:居住域の背後にある田畑や果樹園などの陸域の生産部分を指す。

(4)緑地:生産域の背後にある、集落の環境単位内の樹林帯や、居住者の行動領域にある森林を指す。


3)営みと生活文化:2)土地利用と住居集合からより対象に接近して、対象地域内に入って把握できる、屋外での人々の営みや生活文化の景観を指す。

(1)海域:居住域の手前の湾や港に入って把握した景観や人々の営みを指す。

(2)緩衝域:海域から住居群までの空間で把握した景観や人々の営みを指す。

(3)居住域:住居群の中に入って、そこで把握した景観や人々の営みを指す。

(4)生産域:田畑や果樹園など陸域の生産領域で把握した景観や人々の営みを指す。

(5)緑地:生産域の背後にある樹林帯で把握した景観や人々の営みを指す。

また、以上1)~3)の3特性は、「沿海景観」から「土地利用と住居集合」、「営みと生活文化」へと、対象に徐々に接近して対象地域内に入るまでの、段階的な景観把握の構造を持つ。

以上の定義を基に、景観分析を行っていく。

1-2-2 室津(たつの市)を事例とした瀬戸内沿海景観の分析

1)沿海景観

(1)海域  防波堤や防波ブロックによってまちが守られている。

(2)居住域  防波堤の上に2階建民家の屋根がわずかに見える。

(3)生産域  山に畑はほとんどない。

(4)森林  まちの東西の突出した岬は緑に覆われている。西の岬の中腹には高架状の道路が整備されている(図16)。

(5)背景  緑の茂った低い山がある。


2)土地利用と住居集合

(1)海域  防波堤に守られた、深く入り組んだ湾内に多くの漁船が並んでいる。

(2)居住域  湾に沿って漁師の作業場がある。その背後に防波壁があり、さらにその後ろに住居が並ぶ。まちには、海岸沿いに家屋1棟を挟んで湾と平行にメインストリートが走っている。湾の西側には埋立地がある。

(3)生産域  畑は小規模で、ほとんど見られない。

(4)緑地  まちの西の岬は藪に覆われ、中腹に高架状の道路が走っている。道路はコンクリートの大きな柱によって支えられている(図17)。東の岬は松などの樹木に覆われており、頂上に神社がある(図18)。神社の参篭所は、岬の東の海上からも眺められる(図19)。


3)営みと生活文化

(1)海域

湾内には、防波堤に沿って数多くの漁船が並んでいる(図20)。防波堤の上には釣り人や散歩に来た親子連れがいる。

(2)緩衝域

海域と住居の間には、港をぐるりと囲むように5~6m幅の作業スペース(コンクリート仕上げ)とコンクリートの防波壁がある。作業スペースには、自動車、荷車、バケツ、プラスチックケース、網、ロープ、電球などの漁業の道具が置かれており、漁師の作業場となっている(図21)。湾の西のコンクリート舗装がされた埋立地では、時々魚市などのイベントが開かれる。

(3)居住域

緩衝域から家屋1棟を挟んで湾と平行にメインストリートが走っている。道を挟んで向かい合う家はたいてい同姓の家(一家による所有)である。家の軒にはメザシなどの海産物が干されている。メインストリートには石畳が敷かれ、住居は保存・整備がなされて、歴史的なまちなみを観光資源としている(図23)。観光客の姿も見られる。室明神には、シーボルトの記録に関する案内板が設置されている(図24、25)。

(4)生産域

畑はほとんど見られない。

(5)緑地

西の岬は藪だらけで人が立ち入れそうにない。高架状の道路を支えるコンクリートの柱には花などの彫刻がなされている。東の岬は頂上に神社があり、シーボルトの史跡として価値化されている。岬は松を含む樹林に覆われている。

1-3 現地調査による現在の瀬戸内沿海景観の特性と空間把握の構造に関する考察

本章では、(A)~(H)の対象事例のうち、(B)室津(たつの市)を事例に挙げて、海域から把握できる瀬戸内海景観を分析し、その具体的な内容を紹介してきた。そして、8地域の景観分析の結果、1)沿海景観、2)土地利用と住居集合、3)営みと生活文化、の3特性について次のことが明らかになった。


1)沿海景観

(5)背景となる山や島嶼の自然地形が人為的に、完全に失われてはいないものの、(1)海域の大規模な防波堤、沿岸部における大規模な埋め立てや人工島の建造による海岸線の変化、(2)橋や中高層ビル等の大規模な人工構造物の出現、(3)耕作地の減少による荒れた斜面地などによって、海域からの「沿海景観」が貧しくなっていることが分かった。


2)土地利用と住居集合

多くの港町では、(1)湾内に多くの漁船が停泊しているが、場所によっては、港の一部が埋め立てられて、港が小規模化していたり、(2)沿岸部には、道路や埋立地、工場や橋、中高層の建築物が多く出現しているため、海域から民家は見えにくくなっていたり、(3)山に畑がほとんど見られない。また、畑に替わる生産域として大規模な工場地が出現していることから、全体的に海域からの景観が無機質で単調化していることが分かった。


3)営みと生活文化

(1)防波堤に守られた港内は安全で多くの漁船が停泊し、釣り客も見られるが、(2)沿岸部の大半はコンクリートで護岸整備がなされ、更に、防波壁があったり沿岸道路が走っていたり、放置された埋立地がある事例が多く見られる。一方で、室津(たつの市)や鞆の沿岸部は、漁師の仕事場になっており、道具が散らばり雑然としている。(3)居住域では、日比や羽根崎のニュータウン開発がなされた、日本のどこでも見られるような住宅地が出現している一方で、鞆や室津(たつの市)では、古い港町の空間が価値化され、保存・整備され観光地として、観光客を集めていたり、向日比では、道が狭く密集した古い集落の空間が残っている。そのような場所の路地は生活用品や植物であふれ、生活観が感じられたりと様々である。ただいずれのまちにおいても、まちの近くに道路が整備されて、海域ではなく陸域からまちへ入るのがメインルートになっており、海域から陸域を眺める機会はほとんどない。(5)居住域の背後の山は樹木が多いものの(4)畑がなく荒れており、(5)一部では斜面地が削られてコンクリートの法面になっていたり、橋脚周りの未利用地となっていることが分かった。

1-4 瀬戸内現地調査でみた現在の瀬戸内沿海景観の特性

以上の分析・考察から、現在の瀬戸内沿海景観のまとめとして次の4項目を挙げる。


1)沿海景観

瀬戸内沿海域の有機的でさまざまな表情を持つ自然地形の上に、大規模な防波堤や埋め立て、人工島や橋、中高層ビルの建設等の沿岸整備が進められた結果、沿海景観として把握できる景観が、多くの無機質な要素を含む、特徴の少ない似たような景観になってしまった。大規模な建造物は、海上において遠距離からも把握することができ、瀬戸内海の「沿海景観」に人工構造物の要素が含まれるようになっている。


2)土地利用と住居集合

海域からまちや集落に接近していく際に、沿岸部の埋め立てや護岸整備、陸域の中高層建築により、まちや集落の姿が隠れてしまい、海域から目的地の全体像を把握しにくくなっている。


3)営みと生活文化

瀬戸内沿海域の居住空間は、ニュータウンであったり、観光地であったり、保存・整備された古いまちなみであったり、古い集落空間が残っていたりと様々である。しかし、かつて海域に接するように住居を構えたり、活動していた人々の日常生活は、沿岸部の埋め立てや海域に接しにくい護岸整備によって海域から遠ざかっていることや、屋内に閉じる傾向のある生活スタイルなどを要因として、まちの中には人影が少ない。


4)瀬戸内海景観の把握構造

「沿海景観」から「土地利用と住居集合」、「営みと生活文化」に至るまでに把握できたそれぞれの景観を見ると、対象地域に接近する際に、対象から遠く離れている場所と対象地の手前のどちらにおいても大規模な建造物が把握できていることから、現在の瀬戸内海景観には対象を段階的に把握していく構造がないことが明らかになった。


 

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