Method of Design Education by making a database of the process of molding
近年、ものづくり教育において、ワークショップを用いた学習環境づくりが注目されている。ワークショップとは、「講義など一方的な知識伝達のスタイルではなく、参加者自らが参加・体験して共同で何かを学び合う/創り出す、新しい学びと創造のスタイルと一般的に定義される*1。教える側と学ぶ側双方が一体となってテーマへの主体的アプローチを行い、不明瞭であった課題解決への糸口を提供してくれる学習環境であるといえる*2。すなわち、ワークショップは多人数がディスカッションや共同作業を経ながら、合意形成を行うことのできる学習環境であるといえる。
この新しい学習環境は、小・中学校など義務教育の場で活用され、また高等学校・大学などにおいても、地域との交流の場として活用されつつある。特に、アートの分野に関しては、参加型のワークショップが全国各地で繰り広げられ、市民参加型のものづくり教育環境として定着しつつある。また、近年においては、会議システムへの応用や、シンポジウム、講演会における合意形成の手段として、ワークショップが用いられつつある。
筆者らは2008年度において、図1-1、図1-2、図1-3に見られるような産・官・学分野のさまざまなワークショップを企画・実行し、ワークショップにおける造形プロセスの記録方法およびデータベース化の研究を行ってきた。
図1-1、図1-2、図1-3にも見られるように、ワークショップにおいては、多人数が議論に参加し、自由闊達な意見交換を行う。また、会場の様々な場所で、同時・多発的に議論や活動が行われることが多い。参加者が主体的にかつ自由に発言する場は、多くの創造的な意見や解決方法を生み出していく。その一方で、同時・多発的に起こる議論はきわめてその記録がとりにくく、参加者に、内容について深く内省・考察を促すためのデータを提示することが困難である。加えて、ワークショップは、一般的に短期間に集中して行われるため、参加している時は、活発な意見交換や活動が行われても、結果の整理・分析に時間をかけてしまうことにより、議論の結果が通常の活動に生かされないという現象をともなうことがよくあった。
以上の背景を踏まえ、本研究では、同時・多発的に展開される議論や造形のプロセスを記録・編集・公開するシステムを考案し、デザイン教育の手法を模索した。
本研究では、学習プロセスを記録するシステムとして、「リアルタイム・ドキュメンテーション」を導入した。リアルタイム・ドキュメンテーションは主に、(1)リフレクション・ムービー、(2)リフレクション・フォトグラフ、(3)メタ・ムービーの3つのコンテンツで構成される(図2)。
2-1 リフレクション・ムービー
「振り返りビデオ」とも呼称する。3分から6分で構成される編集されたムービーで、授業の終了直後に、学ぶ側と教える側で観覧することを目的に制作される。撮影・編集ポイントとして以下の点が上げられる。
2-1-1 学ぶ側目線で事象を観る -とけ込むようなカメラワーク
リフレクション・ムービーの鑑賞者は、ムービーに写っている学ぶ側自身である。学ぶ側自身が、自分はどのように振るまい、誰とどのようにコミュニケーションをとり、何を学んだのかを瞬時に振り返る。そして、単に「楽しかった」という記憶を「自分はこんな経験をしたのだ」と思い返す。リフレクション・ムービーは学ぶ側のおぼろげな記憶を鮮明に、かつ、持続可能な記憶に残るように記録されている必要がある。
そのため、撮影者は授業の内容をあらかじめ理解しておく必要がある。また、自らも学ぶ側の一員であると意識付けし、学ぶ側の視点でさまざまな事象をファインダーに納めるよう、カメラワークに気を遣うことも必要となる。
リフレクション・ムービーの撮影者および編集者に求められるのは、「公正な客観性」ではなく、「一学習者として広い視点から捉えることのできる主観性」であるといえる。
一方で、撮影者および編集者はリフレクション・ムービーに明確な文脈を与えてはならない。つまり、ストーリーを作ってはならないのである。撮影者及び編集者によって作られた文脈は、第3者にとっては理解を促す映像であっても、参加した当事者にとっては恣意的な意見に過ぎない。リフレクション・ムービーは、そこで起こったことを第3者に正確に伝えることではなく、学ぶ側それぞれが自分たちの体験とあわせて、文脈を創作できるように、あえて、ストーリーのないものに構成する必要がある。その意味で、撮影者及び編集者には、カメラが捉えた「客観的なデータ」をそのまま学ぶ側に提示できるような、脱主観的なムービー構成が求められる。
会場で刻一刻と変化する事象を学ぶ側の視点から主観的に捉えつつ、客観的データに忠実に編集する。それがリフレクション・ムービーである。
2-1-2 コミュニケーション形態(関係性)を明確にする -メタ視点から近接視点までの3段階
実習などの実践型授業においては、ヒトとヒト、あるいはヒトとモノのさまざまなコミュニケーションが生起する。学ぶ側は、自分を中心としたコミュニケーションの形成過程については認識できるが、周辺でのコミュニケーションについて認識することは困難である。会場内で同時・多発的に生まれては消えていくこれらのコミュニケーションの形成プロセスを捉えることも、リフレクション・ムービーの重要な役割である。
誰と誰が、あるいは誰かとあるモノがどんなふうにコミュニケーションをとったのか。その時、そのコミュニケーションの集合体はどんな表情を持っていたのか。楽しげだったのか、真剣な論議だったのか、相対する意見のぶつかり合いだったのか・・・リフレクション・ムービーの撮影者は会場内のコミュニケーションをつぶさに観察しながら、それぞれのコミュニケーションの「表情」をファインダーに納める必要がある。
コミュニケーションを捉えるために、撮影者には、「メタメタ視点」「メタ視点」「近接視点」3つの視点が要求される。「メタメタ視点」は会場全体で生起しているコミュニケーションを捉える視点である。これは、後述のメタ・ムービーのデータとの整合によって、より説明的なデータとなる。撮影者は、会場内でどんなコミュニケーションがいくつできているかを一目でわかるよう、高い視点(3から5メートル程度)から会場全体を撮影する。「メタ視点」は、個々のコミュニケーションに焦点を当てて撮影される。あるコミュニケーションでは何人の人が参加していたのか、話の雰囲気はどのようなものだったのか、どのくらいの時間存在したのかなどが映像として分かるように撮影する必要がある。「近接視点」はコミュニケーションの中での情報のやりとりを発信者から受信者への経路に沿って順に追っていく視点である。たとえば、AさんとBさんが会話をしている場合、発話しているAさんは、発話の内容を聞いているBさんの肩越しから撮影される。そして、Bさんが呼応した場合は、Aさんの肩越しからの視点に切り替えられる。自分が誰と話したのか、そのとき相手の表情はどうだったのか、その内容が他の人にどのように伝播し、会話のコミュニティが形成されたのかを映像で補足するために、撮影者はコミュニティ内の各個人の視線に近接した映像を残していく。
2-1-3 準備から現在までをくまなく捉える -学ぶ側が教える側に。教える側が学ぶ側に
リフレクション・ムービーの撮影者は、学ぶ側の視線で物事を捉える必要があるため、学ぶ側のコミュニティに入り込んでいく。同時に学ぶ側に対しても、単に参加するだけではなく、主催者側の開催意図や開催までの作業工程を追体験してもらう必要がある。これは特に、ワークショップなどの参加・体験型のイベントにみられるような学習環境には必要不可欠であり、そのためにリフレクション・ムービーでは、準備段階からムービー公開直前までをシームレスに映像として提供することによって、教える側と学ぶ側という関係から、「ともに学ぶ者」としての新たな関係を育むことができる。
ここで問題となるのは、準備段階をどこまで学ぶ側に見せるかということである。これは、開催されるワークショップの種類によっても異なるが、通常、(1)コンセプト立案、(2)スケジューリング、(3)実作業(メンバリング、会場レイアウト作成など)、(4)直前作業(主に開催前日からオープニング直前まで)に分けて、それぞれのセクションごとに特徴的な映像を時間軸に沿って並べることが多い。準備段階の映像は、リフレクション・ムービーにおいては、はじめの30秒以内に収められる。
リフレクション・ムービーは、授業の中で、(1)自分自身がどのように振る舞ったのか、(2)自分と他者の関係性はどのように変化したのか、(3)ワークショップ全体でのコミュニケーションはどの方に変化したか、(4)この経験を元に実生活にどのように活かしていけるのかを再確認するきっかけとして存在する。催しが終了した直後、帰宅後、数日後、そして数週間、数ヶ月と時間を経過するに従って、学ぶ側各人の中で、意味付けは常に変化し続けていく。いわば、ワークショップに関わるすべての人がカメラマンであり、エディターであり、そして監督となり得る映像作品である。
2-2 リフレクション・フォトグラフ
ムービーは事象を時間軸に沿って動的に捉えることができる。そのため、短時間に物事の状況を把握することに非常に適している。リフレクション・ムービーの理想で言えば、会場での出来事をくまなく記録に残すことで、学ぶ側個々人に対応した映像を提供することができるだろう。しかしこれを実現するには、すくなくとも学ぶ側および教える側全員分と全体を俯瞰する数台のビデオカメラ、準備から終わりまでを記録できるだけの記録媒体、それら大量の情報を即座に処理し、閲覧可能なようにデータベース化することのできる大規模演算装置と映像を処理するオペレータが必要となる。それができない現状では、リフレクション・ムービーは、短時間に物事を把握することには優れていても、時間を細かく分割し、その時間帯で起こった事象を細やかに把握することができない。当然、編集者の主観により、映像から外れてしまう内容も多々ある。
このように、リフレクション・ムービーでは捉えることのできない「瞬間の事象」を捉えるのが、リフレクション・フォトグラフである。リフレクション・フォトグラフの撮影ポイントは、リフレクション・ムービーと同様に、(1)学ぶ側目線で事象を観る、(2)コミュニケーション形態(関係性)を明確にする、(3)準備から現在までをくまなく捉えることがあげられる。加えて、リフレクション・フォトグラフのカメラマンには、以下の項目が要求される。
2-2-1 学ぶ側の心の移り変わりを捉える -表情の瞬間を連続的に
心の変化はヒトの表情に最もよく表れる。はじめは緊張と不安でこわばっていた顔は、アイスブレイクで堅いながらもほほえみのある表情に、他者と話すごとに真剣にかつ明るく、そしてコミュニケーションがほどよく成長したときの満面の笑みに刻々と変化していく。カメラマンは、学ぶ側のこのような表情の変化の瞬間をファインダーに収めていく。学ぶ側は自らの表情の変化を振り返りながら、それぞれの時間帯で起こった出来事をその時の自分の気持ちに照らし合わせて振り返ることができる。
この撮影視点は、特に、ものづくりをメインにした授業などでは有効である。制作中心の活動の中では、自らがどのように作品と向き合っているかを確認する手段は少ない。また、複数人で制作をしている場合、どうしても個々の制作に没頭し、他者の振る舞いに気がつかないような状況下において、改めて、他の人がどのような気持ちで制作に臨んでいたかを再確認することができる。これにより、学ぶ側はものづくりの上でのコミュニケーションの成り立ちや大切さを感覚的に体得することができるのである。
2-2-2 モノの変化を記録に残す -ヒトを排除したモノだけの世界
会場内において、変化しているのはヒトだけではない。その環境下にあるすべてのモノが時間とともに変化している。設置されたテーブルや椅子の位置、テーブルの上に置かれた筆記用具や文房具、時間とともに増えていくメモや落書きなど、モノの変化が絶えず起こっている。
ヒトの動きについては誰もが気づくが、モノの変化まで気がつくことはなかなかない。カメラマンの収めたモノの写真は、学ぶ側に全く新しいコミュニケーション成立のプロセスを提示することができる。
2-3 メタ・ムービー
メタ・ムービーは、会場全体を俯瞰することのできる高所に設置され、会場準備から撤収までのすべてを記録するムービーである。撮影される映像は、監視カメラによって得られる情報と同じようであるが、以下の点においてリアルタイム・ドキュメンテーションの基本的な情報となっている。
2-3-1 事象のシーケンシャルな記録
リフレクション・ムービーやリフレクション・フォトは時間軸に沿って記録・編集されるものの、その場で生起した事象すべてを捉えているわけではない。これらのコンテンツには少なからず、撮影者および編集者の主観的な意図が含まれており、一般の映像作品と比べてメッセージ性はすくないものの、欠落した情報も多々含まれる。メタ・ムービーによって、リフレクション・ムービーやリフレクション・フォトでは伝えられなかった部分を明確に示し、振り返りに必要なカットが全体時間のどの部分に存在したのかを客観的に確認することができる。これにより、学ぶ側はリアルタイム・ドキュメンテーションの情報を客観的指標に照らし合わせて閲覧できるとともに、撮影者および編集者は、自分たちの視点に偏りがなかったどうかを確認することができる。
2-3-2 時間の短縮で見えるコミュニケーションの変移
メタ・ムービーはリアルタイムにかつシームレスに情報化されるため、映像時間もデータ容量も膨大な量となる。理想的には、このメタ・ムービーを実時間で振り返りながら、そこで生起したコミュニケーションの実体を分析していけばよいのだが、時間的拘束から不可能である。そのため、リアルタイム・ドキュメンテーションでは、メタ・ムービーの再生時間を60分の1に圧縮し、1時間を1分間で振り返り可能にして、学ぶ側(閲覧者)に提示している。
6時間のワークショップがあるとすると、約6分間で振り返ることになる。この映像からは、個々の人の動きを全体的に捉えることができる。また、早送りの映像においても、自分がどこにいるかは判別できるため、大きなコミュニケーションの変移のなかでの自分の振る舞いを追認識することができる。
短縮化された俯瞰映像は、その場のコミュニケーションと自分との関係性を知らしめてくれるのである。
以上の3コンテンツの役割を整理すると、以下のようになる。
メタ・ムービーは会場での出来事をすべて記録しており、リアルタイム・ドキュメンテーションの客観的な指標となる。リフレクション・ムービーはメタ・ムービーの中の一部の情報を学ぶ側の目線で切り取り、分かりやすく端的にまとめた、いわば「あらすじ」のようなものである。そして、リフレクション・フォトグラフは、メタ・ムービーやリフレクション・ムービーが捉えることのできない、事象の瞬間を捉える「挿し絵」的な役割を果たしている。
図6 プレイフル・デザイン・スタジオにおけるメタ・ムービー(抜粋)。各テーブルでディスカッションが行われ、まとめられた結果は、ガラス面に掲示される。活発なディスカッションが行われているグループほど、動きも大きい。
図7 SCRATCH@MITにおけるリアルタイム・ドキュメンテーション。リアルタイムにweb化されたワークショップデータによって、参加者はいつでもどこでも振り返ることができ、また、他人に説明することができる。「グロバールに振り返って、ローカルに話す」ことによって、自らの経験をより高めることができる。
3-1 プレイフル・デザイン・スタジオ
プレイフル・デザイン・スタジオは、2007年度から継続して行われているものづくりの発想法ワークショップである。2008年度は、大阪産業デザインセンターが中心となり、子どもの行為や発想から、ものづくりの新しいアイデアを蓄積しつつある。ここでは、ものづくりの初期段階であるアイデア創出のプロセスをリフレクション・ムービーおよびリフレクション・フォトグラフ、メタ・ムービーによって記録した。
このワークショップでは、主に企業のデザイナーが学びの側にたって、子ども心を感じる商品についてディスカッションを重ねていった。このため、リフレクション・ムービーでも、言葉のやりとりを中心に撮影を行い、ワークショップの中でどのようなキーワードが出てきたかを辿れるような編集を行った(図3)。また、リフレクション・フォトグラフにおいては、参加者の表情の移り変わりを追うことによって、ディスカッションがどのくらい弾んだのかを確認できるようにした(図4)。
以上のような感性的なデータと平行して、ディスカッションの中身を聞き取りながらキーワードの抽出を行った。これらのキーワードは会場内でカテゴリ処理され、数量化3類による発話傾向の分析が行われた(図5)。これにより参加者はディスカッション中に、重要なキーワードを確認したり、全体的にどのような会話が成り立っているのかを確認することができた。
また、全体を俯瞰するメタ・ムービーによって、各グループのディスカッションの活性度合いをみることができた(図6)。
このように、ものづくりのアイデア創出段階のワークショップや授業などでは、リフレクション・ムービーでキーワードを中心としたディスカッションをダイジェストに映像化し、リフレクション・フォトグラフで参加者一人ひとりの表情を記録することで、自分たちがいかにディスカッションに深く参加できたかを感覚的にとらえることができる。また、キーワードの分析データも提示することで、会場全体でディスカッションの内容を再確認できるという効果を得ることができた。
3-2 SCRATCH@MITカンファレンス
SCRATCH@MITカンファレンスは、2008年7月24日から26日にかけて、マサチューセッツ工科大学メディア・ラボで行われた国際会議である。この会議の中心となった、SCRATCH(スクラッチ)は、メディア・ラボで開発・研究中の子ども向けコンピュータプログラミングツールで、子どもたちに、コンピュータ上でのものづくりの楽しさと、他のユーザと共有することによる学びの大切さを確認させることのできるツールとして、世界各地で注目されている。
筆者はこの会議にドキュメンテーションスタッフとして参加し、3日間のディスカッションを記録、その場で参加者に提供した。
この会議でもっとも懸案となったのが、ディスカッションを記録し、即座に分析、参加者に提示できるかということであった。キーワードを抽出し、ディスカッションの概要を即座に分析することは、英語を母国語としない筆者にとっては、ほぼ不可能である。そこで、あえて議論の内容には深く立ち入らず、ディスカッションの様子を観察しながら、その雰囲気をムービーおよびフォトに収めることに専念した。また、リフレクション・ムービー、リフレクション・フォトグラフおよびメタ・ムービーを各参加者が即座に、かつ自分のコンピュータで確認できるように、WEBサイトでのデータ提供を試みた(図7)。
この試みにより、会場の参加者に大きな影響を与えることができた。初日においては、カンファレンス参加者は、記録をとり続けている筆者らを不思議そうな眼差しでみていたが、初日最後の全体総会の時にリフレクション・ムービーとリフレクション・フォトグラフが上映されると、「なるほど、このために撮影したのか」ということを即座に理解してもらえた。この理解により、2日目からは、記録に積極的に協力してくれるようになり、また、ディスカッションにおいても、記録スタッフの準備を考慮した会話がとり行われるようになった。また、3日目には、自らもリアルタイム・ドキュメンテーションを試す参加者も現れ、会場に「撮りつ、撮られつ」という状況を生み出した。
この状況は、筆者も全く予想しなかった状況であった。最終日の総会では全員でカメラに手を振ってくれるなど(図8)、普通のカンファレンスでは味わえないような一体感を作ることができた。このことは、共同でものづくりを推進していく環境化において非常に重要なことであり、リフレクション・ムービーによって、場のコミュニケーションが活性化されることが実証できたといえる。
3-3 学園都市学校連携アート・プロジェクト
このプロジェクトは2004年から毎年行われている。兵庫県立伊川谷北高等学校と神戸芸術工科大学が協同し、神戸市営地下鉄学園都市駅前の広場において、地域の子どもたちを対象にアートの楽しさを知ってもらおうというプロジェクトである。2008年度においては、9月15日に行われた。参加人数はスタッフを含め約150名となった。
このプロジェクトの特徴は、(1)一日で作品を仕上げる、(2)子どもから大人まで協同して作り上げる、(3)巨大なアート作品を作る、の3点がある。この活動を補完するために、リアルタイム・ドキュメンテーションは重要な役割を果たしている。実活動時間約5時間という短い時間のなか、大人数で作品をつくるため、当日の会場はかなり混乱する(図9)。そのため、ワークショップが終わった後の振り返り時間は、参加した子どもたちにとっても、スタッフにとっても、造形のプロセスを再確認する上で重要な学習行為となっている。
図10は、ワークショップの最後に、全員でリフレクション・ムービーを観覧している様子である。テレビ揺籃期の街頭テレビのように、モニタを見つめる子どもたちの真剣な眼差しには、「自分が今日、何をしてきたのか」を積極的に顧みようとする姿がうかがえる。また、リフレクション・フォトは、インターネットで共有されるため、参加者それぞれの家庭で振り返ることができる。
このプロジェクトでは、長期的な記録の公開も行っている。2004年度から5年分のリフレクション・ムービー、リフレクション・フォトグラフを閲覧することができ、メタ・ムービーは2006年度からのデータが閲覧できる。参加者は、即時的な振り返りのほかに、時間の経過とともに変わっていく記憶の補完に、リアルタイム・ドキュメンテーションを利用することができる。
本研究での記録方法は、ものづくりワークショップの中で、参加者が自らの経験を振り返り、自らの造形プロセスを意識化させるための装置として位置づけられている。特にマルチメディア機器を用いた記録は、従来であれば残りにくい造形プロセスを細かく記録・データベース化することができるという点で、将来的展望が見込まれる。
本研究を推進することによって、ものづくりワークショップに参加した人びとが、自分たちの造形プロセスを振り返り、また、他の参加者のプロセスとの比較を行いながら、造形力を高めるための有効なデータを提供することができる。また、今後展開されるワークショップにおいて、当該研究で構築されたシステムを運用することで、ワークショップ自体の質を高めることが期待できる。
- 原田泰、佐藤優香(2007) 経験のドキュメンテーション 茂木一司(編著)芸術・文化の発信・交流を促す学習環境デザインとワークショップ教材の実践・評価 平成17-18 年度文部科学省科学研究費基盤研究(B)報告書:94-98
- 原田泰、上田信行 (2008) 経験の現像所 日本デザイン学会論文集:pp.138-139
- 上田信行、原田泰、曽和具之(2007)「ドキュメンティング ドキュメンティング」 日本教育工学会、第23回全国大会講演論文集;p615-616
- 上田信行、原田泰、曽和具之(2008)「ドキュメンティング ドキュメンティング2:リアルタイムヴィデオ─経験のリミックス─」日本教育工学会、第24回全国大会講演論文集;p767-768
(2008年度学部共同研究採択課題)