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3.共創型芸術の特性

3-1 共創型芸術が「つなぐ」

共創型芸術には、人々やものごとをつないで新たな関係を生成し、新たな状況を発生させる特性がある。つなぐことで出会いが生まれ、交流や協働が発生するのである。それが創造的表現を実現していく。共創型芸術がつなぐ重要な要素は「制作と鑑賞」「人と人」「芸術と生活」である。

3-2 「制作と鑑賞」をつなぐ

従来、芸術作品の制作と鑑賞は別々の人が、別々の場所で行うものであった。つまり制作は芸術家がアトリエで行い、鑑賞は芸術家以外の人々が美術館で行う行為だったのである。しかし、20世紀の前衛芸術家たちによる芸術の革新を目指したさまざまな試みを通して、制作と鑑賞は少しずつ相関するようになっていく。共創型芸術はこうした実験の延長上に生まれた芸術表現である。

20世紀中頃、ハプニングやパフォーマンス、イベントと呼ばれる表現形式が生まれ、芸術家と一般の人々が直接的に接するようになっていった。映像やコンピュータを用いたメディアアートでは鑑賞者に反応し、その感覚に直接的に働きかける体験型芸術が発展した。鑑賞者の動作や行為にインタラクティブに反応する体験型芸術は、専門的な知識や経験がなくてもゲームや遊具のような感覚で楽しめるため、子供を含む一般の人々が芸術に親しむきっかけとなっていった。美術館におけるワークショップ活動は、鑑賞者が制作体験を通して芸術家やその作品についての理解を深めることを目的に広まっていった活動である。このようなワークショップを通して芸術家たちは共同制作の創造的可能性に気付き始め、観客や地域住民の参加を前提とするアートワークショップやアートプロジェクトが広く展開されていくこととなっていく。こうした作品は鑑賞者が作品制作や活動そのものに参加するため、参加型芸術と呼ばれるようになっていった。

制作と鑑賞がつながることで、芸術家と一般の人々が一緒につくる状況が発生する。これは共創型芸術の最も重要な特性である。専門的知識や経験がなくても人間は本質的に表現に対する欲求を持ち、豊かな表現力を有している。共創型芸術は一般の人々がこうした潜在的な表現力を発揮できる場をつくり、芸術家によってより大きな主題や表現へと再編していく芸術表現なのである。

3-3 「人と人」をつなぐ

共創型芸術は人と人をつないでいく。共創型芸術では従来、芸術家の個人的営為であった制作が、鑑賞者である一般の人々に開かれている。子供、青年、高齢者、障害者など、そこには普段の社会生活では出会うことがない人々が集まってくる。そして芸術作品の共同制作を通して職場や学校、年齢や性別、障害の有無などを超えた新しいネットワークが形成されるのである。2000年、5人の芸術家(*4)によるグループ「共生空間Psi」は2年間で8回のワークショップを実施し、参加した284人の子供たちといっしょに、まちに恒久設置されるパブリックアートを制作した。彼らが語る作品解説には、人と人をつなぐこうした芸術の特性が明解に示されている。

「そしてそこで行われる制作は私達5人の作家とそのワークショップに参加してくれた多くの子供達とのコラボレーションであると同時に、ワークショップの実現に協力して下さったの(ママ)方々との共同作業でもあります。私たち作家の重要な仕事は作品の形を創ることではなく、作品と人々を繋ぐ新たな関係を形成することであり、そのプロセスそのものが私たちの作品と言えるでしょう。」(*5)。

芸術は企業活動や政治活動といった社会活動に比べ、大変自由であいまいな活動である。だからこそ参加者が素朴な好奇心や、なんとなく面白そうだといったあいまいな動機であっても、そのまま参加することができるのである。こうした芸術活動の魅力こそが、新たなネットワーク形成につながっているのである。

3-4 「芸術と生活」をつなぐ

共創型芸術は美術館やギャラリーといった専門的空間よりも、公園や体育館、森や川辺、都市の街角や農村で行われることが多い。制作と鑑賞をつないだことで、参加者のいる地域に芸術家が赴いたり、参加者をいろいろな場所に連れ出したりするからである。その結果、地域の生活空間に芸術表現が出現することとなっていく。生活空間に芸術表現が出現する状況は、既に都市のパブリックアートが実現していることであるが、その多くは美術館を都市空間に拡大しようとしたものである。これに対し、共創型芸術のそれは制作と鑑賞が交差しているため、地域をアトリエ化したような形になる。多くの人々にとって美術館は生活と遠く離れた特別な施設である。しかし、共創型芸術が地域で実施されるようになると、芸術と生活は直接的につながり、影響を与え合うようになるのである。

    

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大塚聡(1970~)中瀬康志(1955~)光井清陽(1967~)諸泉茂(1954~)吉川陽一郎(1955~)の5名の美術作家によって構成されるチーム。
共生空間Psi『いきいきとしたもの いきているようなもの ~パブリックアート・新たな視点~284人の子供たちとその宇宙 さいたま新都心シビックコア地区ペデストリアンデッキ・アートプロジェクト』共生空間Psi、2001年、12頁