6.まとめ

以上、本報では、住宅地の自然環境の特徴を活用した環境共生住宅の可能性を、具体的な事例を取り上げ、検討した。最後に、本スタディの成果をまとめる。
本報においては、「ガーデンシティ舞多聞 みついけゾーン」を対象に、エコロジカル・ネットワークを構想した。その結果として、住宅地全体を横断するコリドーと、「個別の住宅地」については6つのケーススタディを提案している。コリドーについては、各コリドーのコンセプトや植栽の基本方針、樹林の維持管理を含む行為のパターンを示した。また、個別の住宅地については、樹林の管理タイプを建築デザインの与件とし、またいくつかの初期条件を設定して、複数のエコロジカルな住まい方の提案を行った。
計画・設計は、建築(環境工学)、林学(造園)といった専門知識をもとに進めた。この過程において、シム・ヴァンダーリンの『エコロジカル・デザイン』が示す5つの原則のうちの、第5原則「自然を可視化する」ことへの配慮から、オープンスペースの計画から建築デザインまでのプロセス全体をつなぐ要素の抽出が要求された。その結果、樹木を対象とすることとなった。このことは、全てのエコロジカルなシステムを可視化する必要がある、あるいは可視化可能なもののみを対象にすべきという意味ではない。そうではなく、計画プロセスにおいて、計画の対象とする環境のエコロジカルなシステム全体を象徴する要素を抽出し、共有していくことが、有効であることを意味していよう。
なお本報では、プロジェクト全体との関係から、『エコロジカル・デザイン』が示す第4原則「誰もがデザイナー(「コミュニティ・デザイン」の重要性)」を作業プロセスに含まなかった。2005年の春以降、居住予定者は(神戸芸術工科大学の支援のもと)、ワークショップによるまちづくりを進めつつある。ここから、エコロジカル・ネットワークの構想が展開することを期待したい。
計画・設計を進めるその一方で、ユーザーの「生態学的環境」が検討された。その結果、ユーザーの自然環境における行為のパターンは、ライフスタイルという形で、建築デザインやオープンスペースからなる住環境の設計における与件とされた。これは、「生態学的環境」の、異なる専門性をコンセプトのレベルでつなぐ、あるいは横断する言語を獲得する可能性を示しているものと理解される。この「横断」する力は、異なる専門の間のみならず、ユーザーと専門家をつなぎ、結果、上述の第4原則、「コミュニティ・デザイン」において、重要な要素となりうるのではないかと考えられる*10(10)



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