1|三宮中央通りのデザイン

図4.三宮中央通りの位置図

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図4.三宮中央通りの位置図

1-1 三宮中央通り(旧三宮裏線)

三宮中央通り(旧三宮裏線)は、神戸市中央区三宮町に位置し、沿道に商店とオフィスが混在する東西約550mの商店街である。北側には三宮駅前と元町駅前を結ぶアーケード「三宮センター街」、南側には神戸開港以来の歴史を持つ「旧居留地」、西側には「元町商店街」及び「南京町(中華街)」が控えている。(図4)「三宮裏線」はその名の通り、周辺の繁華街に挟まれた裏手通りとして、さらにそれらを結ぶ抜け道として見なされていた。


1-2 三宮中央通りのデザインプロセス

1-2-1 震災からの復興(住民参画型のデザイン計画)
1995年1月17日未明に発生した阪神・淡路大震災は、旧三宮裏線にも、甚大な被害をもたらした。(図5)また、神戸市は1993年から「神戸市営地下鉄海岸線」の建設工事を進めていたが、旧三宮裏線は地下鉄の経路となっており、沿道の東西の端にはそれぞれ新駅「三宮・花時計前」「旧居留地・大丸前」の設置が決定していた。当時は、震災の影響、長引く不況、地下鉄工事による通行の制限などにより、沿道の商店は商業的に厳しい状況が続いていた。(図6)神戸市は2001年の地下鉄開業に合わせ、旧三宮裏線の再整備を計画した。沿道の商店会は、この再整備を地域の活性化につなげたいと考えていた。神戸市は再整備にあたり、沿道の商店の意見を採りいれ「住民参画型」でデザイン計画を行うことを決定した。

図5.現・三宮中央通り付近おける阪神・淡路大震災の被害状況 (街の復興カルテ 平成8年度版より抜粋・再構成)

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図5.現・三宮中央通り付近おける阪神・淡路大震災の被害状況
(街の復興カルテ 平成8年度版より抜粋・再構成)

図6.旧三宮裏線の様子(写真:齊木研究室、2000年7月)

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図6.旧三宮裏線の様子(写真:齊木研究室、2000年7月)




1-2-2 デザインコンペ
1999年3月、第1回目の地元全体説明会が行われた。同年8月からコンペ形式による「三宮裏線整備のアイデア募集」が行われ、11月に入賞者が決定。齊木は審査委員の一人として名を連ねていた。この中の最優秀作品をベースにし、沿道の商店を交えた実施計画策定のための「(仮称)三宮線道路・沿道まちづくり検討会」が2000年4月より開始された。検討会は沿道の4商店会の有志(沿道の商店であれば誰でも参加可能としていた)、神戸市の関係者が参加し、齊木は神戸市から依頼され、コーディネーターとして加わることになった。

図7.まちづくり検討会の様子(写真:齊木研究室、2000年)

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図7.まちづくり検討会の様子(写真:齊木研究室、2000年)


図8.まちづくり検討会の様子(写真:齊木研究室、2000年)

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図8.まちづくり検討会の様子(写真:齊木研究室、2000年)

1-2-3 まちづくり検討会
検討会は同年9月までに計8回(説明会を含む)開催された。参加総数は延べ250名(うち地元参加者121名)に上った。(図7,8)
2000年
4月17日 説明会 検討会の趣旨、進め方、スケジュール
5月8日 第1回検討会(参加者28人) 問題点の洗い出し
6月2日 第2回検討会(参加者28人) アーケード、道路、工事について
6月9日 第3回検討会(参加者28人) 通りのイメージや街路の特色の出し方について、歴史・現況・海外事例・CGの紹介
6月30日 第4回検討会(参加者34人)舗道、ボラード、照明、植栽について、沿道空地の利用法、アーケードのあり方について。
7月17日 第5回検討会(参加者31人)模型を使ったまちなみのボリューム感、各店舗のファサードの再確認、舗装パターン、主な施設(アーケード、照明、樹木)について、ルールづくり、ファサードに対する各店舗の対応、まちのイメージカラーについて。
8月4日 第6回検討会(参加者35人)模型を使用。まちの骨格を生かした舗装パターン、樹木の配置、アーケードについて。
9月8日 第7回検討会(参加者41人)整備計画のまとめ→街路樹や照明の位置確認、アーケードの有無、舗装材の確認、まちなみの質の向上、ルールづくりの基礎、質の維持やイベント開催のための資金の確保について。

計8回の検討会を通じて、以下のような7項目の整備計画の基本方針をまとめることができた。
1.車道を4車線から3 車線とし、歩道幅をこれまでの2倍の約6~8メートルに広げる。
2.歩道上のアーケードは撤去し、アーケードは基本的に撤廃。その代わりとして必要に応じて各店舗が一定のルールに基づいて日除けテントを設ける。
3.歩道は人肌の色に近い桜御影石調のタイルを用いる。
4.季節感を演出できるケヤキを植樹する。
5.ガス灯をイメージした青銅色の照明を設置。
6.全体を旧居留地のイメージで統一。
7.バリアフリー化にも配慮し、歩行者にやさしく明るい道にする。


図9.3つの軸線と三宮中央通り

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図9.3つの軸線と三宮中央通り

1-2-4 まちの歴史的骨格をいかした舗装パターンの提案
神戸のまちの骨格は、明治の開港以前の農漁村としての歴史と、開港以後の港町としての歴史が重なり合っている。(図9)齊木は明治以前から現代までの地図により、三宮中央通り付近が、南西の旧漁村の骨格と、山手からの旧農耕地の骨格、そして浜手の旧居留地の骨格が合流する場所であることを確認し、舗道のタイルの敷設パターンとボーダーラインにこの3つの異なるまちの地割線を採り入れることを提案した。このアイデアは参加者の支持を得て実現することになった。このことにより、通りのデザインに歴史的な意味性を持たせることができたと言える。 また、3つの軸線が「出会う」場所という歴史的コンセプトは、後述のモニュメント「出会いの門」と「バンブープロジェクト」のデザインにも引き継がれていくことになる。(図10)




図10.三宮中央通りの平面図

図10.三宮中央通りの平面図



1-2-5 4つの商店会が集う
旧三宮裏線は、東から「三宮一番街商店会」「三宮新道三新会」「トアロード商店街東亜会協同組合」「大丸前中央商店会」の4つの商店会で構成されている。これら4つの商店会は同じ通り沿いに商業を営んでいながらも、商店会同士のコミュニケーションがスムーズに行われていたとは言いがたかった。今回のまちづくりでは4つの商店会が同じテーブルに着き、ワークショップ方式の話し合いの中で、問題点の洗い出しから、将来の通りのイメージ、道路計画、ストリートファニチャー、メンテナンス、活用に至るまで意見を出し合い、検討を行った。その結果、新しい「三宮中央通り」は統一感のあるデザインを提案することができた。

1-2-6 ニュースの発行
検討会が行われるごとに、4商店会が中心となって、検討内容を記載した「三宮線ニュース」を発行し、関係者全員に配布した。これは「開かれた検討会」を目的としたこと、そして検討会で話し合われた内容を漏れなく記録として残すことにより、三宮中央通りがどのような経緯で誕生したのか、その志や願いを後世に伝える役割も果たしている。(図11)

1-2-7 模型やCGの活用
三宮中央通りのまちづくりの検討会では、東西550mの通りを100分の1に縮尺した模型が活用された。制作は齊木研究室が行った。検討会において模型を用いることにより、紙面上では掴みにくい通り全体のイメージ、アーケードの検討、植栽やボラードなどのストリートファニチャーの位置関係などが、建築の専門知識の無い検討会の参加者にも理解されやすくなり、検討会のスムーズな進行に役立ったと言える。また、個々の利益の主張になりがちな検討会の意見交換においても、模型を用いることにより、より俯瞰的な視点に立つことができ、通り全体からも考える、という意識を参加者に定着させることができたとも言える。 また、齊木研究室では、三宮中央通りとその周辺の三宮界隈を示した3DのCGも作成し、検討会の参加者に対し、地域における三宮中央通りの位置づけを把握してもらうことができた。 2000年10月には、8回の検討会でまとめられた整備の内容を反映させた模型の展示会を行った。会場には意見箱を設け、整備内容に対するより幅広い意見を得ることに努めた。(図12)

図11.三宮線ニュース6号(表面)

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図11.三宮線ニュース6号(表面)

図12.模型を用いながら通りを客観的に把握する

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図12.模型を用いながら通りを客観的に把握する




1-2-8 愛称募集
2001年2月から3月にかけて、「三宮裏線」に代わる通りの愛称を全国から公募した。19都府県、小学生から80代まで、計564件の応募があり、同年5月に審査会が行われた結果、「三宮中央通り」に決定した。齊木は審査委員の一人として加わった。採用理由として、三宮センター街と旧居留地に挟まれた「裏線」のイメージの脱却を図り、発想の転換を行い、神戸三宮の「中央」の通りであるというイメージを持たせることができること、が挙げられた。また、全ての世代に分かりやすい名前である、ということも支持された。尚、前記の「三宮線ニュース」は愛称決定後「三宮中央通りニュース」に名称変更したが、当初は「三宮裏線ニュース」と名付けられていた。齊木は第3号が発行された2000年6月から「三宮線ニュース」とすることを提案し、通りのイメージアップの準備を進めていた。

1-2-9 三宮中央通りの誕生
三宮中央通りは2001年2月に着工し、同年7 月に完成した。また同時期に地下鉄海岸線も開通した。三宮中央通り開通に際してはオープニングセレモニーが華やかに開催された。開通から4年を経た現在、三宮中央通りは神戸の新しい「おしゃれな通り」として、人々に親しまれている。(図13,14)


図13.完成直後の三宮中央通り(東方向を望む) (写真:齊木研究室、2001年7月)

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図13.完成直後の三宮中央通り(東方向を望む)
(写真:齊木研究室、2001年7月)

図14.三宮中央通り完成式典の様子(写真:齊木研究室、2001年7月)

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図14.三宮中央通り完成式典の様子(写真:齊木研究室、2001年7月)






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