2|モニュメント「出会いの門」

2-1 三宮中央通りの「顔」をつくる

三宮中央通り(旧三宮裏線)は、神戸市中央区三宮町に位置し、沿道に商店とオフィスが混在する東西約550mの商店街である。北側には三宮駅前と元町駅前を結ぶアーケード「三宮センター街」、南側には神戸開港以来の歴史を持つ「旧居留地」、西側には「元町商店街」及び「南京町(中華街)」が控えている。(図4)「三宮裏線」はその名の通り、周辺の繁華街に挟まれた裏手通りとして、さらにそれらを結ぶ抜け道として見なされていた。


図15.モニュメント「出会いの門」のイメージスケッチ (齊木崇人、2003年3月)

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図15.モニュメント「出会いの門」のイメージスケッチ
(齊木崇人、2003年3月)

2-2 デザインイメージのアイデア

齊木研究室ではまず、デザインイメージのアイデアを練り始めた。古くは交通の要素として栄えた「西国街道」、神戸開港以来、西欧との関係の深い「旧居留地」、華人のつくった「南京町」、さらに1908年に始まったブラジル移民の人々が山手にあった旧神戸移住センターから港までの道のりを歩いた「移住坂(鯉川筋)」、モニュメントの予定地がそれらの接点に位置することに着目し、新たな「出会い」を求めて「門」をデザインすることにした。(図15)




2-3 キーワードと素材

時代が大きく変わりつつある現代のキーワードは「反転(inversion)」であると仮説した。そして化石エネルギーで生産された素材ではなく、太陽エネルギーで生産された自然素材「樹木」を用いることにした。
当初は南米またはアジアかの入手を考えたが、1年以内の伐採や国外への持ち出しは不可能であった。そこで、既に輸入された樹木を探すことにした。半年後、名古屋港に陸揚げされていた、アフリカのガボン国産である、樹齢約500年、直径1.8m、長さ11mの「ブビンガ」という樹種の木を入手することができた。
 ブビンガは熱帯アフリカに植生するマメ科広葉樹で、木目の美しさと木質の強硬から家具、床材、建具などに用いられる。耐久性に優れ、白蟻などの害虫にも強いと言われている。(図16,17)


図16.モニュメントに使用されたブビンガの木

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図16.モニュメントに使用されたブビンガの木

図17.加工され、神戸港に着いたブビンガの木 (写真:齊木崇人、2003年3月)

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図17.加工され、神戸港に着いたブビンガの木
(写真:齊木崇人、2003年3月)




図19.モニュメント「出会いの門」のコンセプトCG
(作成:ヒメネス、2003年3月)

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図19.モニュメント「出会いの門」のコンセプトCG
(作成:ヒメネス、2003年3月)

2-4 デザインコンセプト

デザインコンセプトは「世界の人々の新たな出会いを求めて、遥かアフリカの地より偶然日本に旅してきたブビンガの大木を求め、その木の魅力を最大限に生かすとともに、この地が新たなまちづくりの拠点として発展することを願った。約500年の樹齢を持つ直径1.8m、長さ11mのブビンガの木を縦に4分割し、木の内側を外に向けて「反転」させて大地の四方に建て、この4本の柱の上部の3分の1は7.5mのところで斜めに30度の角度で内側に切り落とされ、通りをはさんだ向かいに建てられる。両者の柱の軌跡がつくるアーチは「出会いの門」をつくる。この木はやがて朽ち消えるだろうが、200年後のある日、アフリカのガボンに植林されたブビンガが大木に成長し、再び神戸にやってくる。私たちはそのような平和と国際交流が「続く」ことを夢見てアフリカの地にブビンガの苗を植えに行く」とした。
「反転」には「対立する世界を一つに変えたい」という願いの他に、「裏線」から「中央通り」に生まれ変わった、三宮中央通りのまちづくりのコンセプトも反映されている。(図18,19)


図18.モニュメント「出会いの門」の模型  (写真:齊木、2002年12月)

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図18.モニュメント「出会いの門」の模型
(写真:齊木、2002年12月)

 



2-5 モニュメント「出会いの門」の完成

「三宮中央通り」の完成から約2年後、高さ約7mの「出会いの門」が完成し、2003年4月25日に完成式典が開催された。モニュメントは現在、三宮の新しいシンボルとして人々に親しまれている。また、足元には照明が埋め込まれ、夜間には「出会いの門」を美しく照らしている。(図20~24)


図20~23.ニュメント「出会いの門」の施工風景 (写真:齊木研究室、2003年3月)

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図20~23.ニュメント「出会いの門」の施工風景
(写真:齊木研究室、2003年3月)

図24.モニュメント「出会いの門」 (写真:齊木、2005年4月)

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図24.モニュメント「出会いの門」
(写真:齊木、2005年4月)




図25.「出会いの門」銘版 (写真:齊木研究室、2005年)

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図25.「出会いの門」銘版
(写真:齊木研究室、2005年)

2-6 銘板に込められた願い

「出会いの門」に面して設置された銘板は、同じくブビンガを用い、モニュメントの一部を縮小したデザインになっている。切断面の表面はチタンで覆い、そこには前記のデザインコンセプトと、「出会い」という言葉を世界15ヶ国語で書かれた文字が刻まれている。これには「出会いの門」が様々な国の人々が出会う場所になれば、という国際交流の願いが込められている。(図25)



2-7 ガボン国との交流


齊木は、ガボン国駐日大使、ジェーン・クリスチャン・オバメ氏を訪問し、前掲のデザインのコンセプトを説明した。大使はブビンガの苗木をガボンに植林する「ガボンプロジェクト」は、神戸市民とガボン国民の新たな交流を生み出すと答えた。
2005年1月、国連防災会議で神戸に滞在していた大使が、完成以来初めてモニュメントの見学に訪れた。大使は「ブビンガの木はガボンの国民が大切にしている神様が宿る木です」の語った。そして、改めてブビンガの植林プロジェクトの支援を約束した。



2-8 「出会いの門」の更なるデザインの仕掛け


「出会いの門」は建立したが、このモニュメントには更なるデザインの仕掛けがある。それはモニュメントの上に、竹でできた直径約5mの球体を載せ、このことによって初めて「出会いの門」が完成する、というものである。「出会いの門」の完成から2年後の2005年4月、「バンブープロジェクト」と銘打ったワークショップが実行された。




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