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3-5 山西省の大院建築群の立地選定と空間構成の特徴

 山西省の晋中平原に分布する大院は、汾河の各支流の水系を集めて利用しており、周辺農地と居住域を形成し分布している。それぞれの大院の規模は1万平方メートルの曹家大院から60万平方メートルの常家大院まで多様な規模で構成されている。
 本研究で調査した5つの大院は、明代~清代までの約300年の間に数世代にわたり形成されている。大院を建設した主体は民間人で、豆腐や茶などの商業活動をきっかけとして財を成し、流通、金融の領域まで活動域を拡大して、その収益と経験を大院建設に生かしたのである。
 大院が建設された場所は、王家大院の立地する黄土高原の丘陵地から汾河の盆地流域の低温地帯に分布する。それらの立地場所において、居住には条件が悪い場所を計画的に改変して、四合院建築を基礎とした巨大居住域を形成している。
 大院建築の配置構成は、概ね3進式の四合院建築の集合体である。王家大院の紅門堡では7つの2進式または3進式の四合院建築が東西に並んで1つの区域を形成し、さらに背後の斜面にそって南北に同様の区域が計4つ、各々通路を介して連結している。渠家大院は8つの四合院から成るが、例外的に5進式という奥行の深い構成をとっている。曹家大院は南北二部にわかれており、北側は3進式の四合院建築4列で構成され、南側は1進の四合院建築3列で構成されている。喬家大院は、6つの大院、20の小院が北を上にして吉祥を表す「喜喜」の字形にならび、城堡型の構造となっていて、北側は3進式、南側は1進式及び2進式の四合院となっている。常家大院は東西の大道をはさみ、北常と南常にわけられ、全体で19の大院が並列的に構成されており、南北ともに3進式及び2進式の四合院で構成されている。敷地は60平方メートルと最大規模であり、その中に楼閣や庭園を含む雄大な空間構成を生み出している。
 配置構成の面から王家大院の特徴をみると、2~3進院程度の四合院を縦横に配置することによって巨大居住域を形成する点は他の大院と共通しているが、一方で南北方向に並べるのは2区画までが通例で、4区画も並べる王家大院は例外的といえる。これはおそらく、平地に立地する他の大院と異なり、王家大院は東西を谷で分断された丘陵地に築かれたため、地形的制約から南北に伸びる必要があったためと推測できる。また丘陵地に立地したことが、窰洞を包含した独特の建築構成を生むことにつながっている点も、興味深い。



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