International Collaborative Research Project with University of South Korea and Beijing Institute of China; The Shirakawago village in Japan,as a case study
0-1 プロジェクトの背景
本プロジェクトは、神戸芸術工科大学、北京理工大学(中国・北京)、東西大学(韓国・釜山)の3大学間において2005年6月に結ばれた研究・教育に関する交流協定に基づく国際総合共同プロジェクトである。2005年度に王家大院(中国・山西省)、2006年度に河回マウル(韓国・慶尚北道)で行なった調査研究に引き続き、3回目にあたる2007年度は、8月初旬に3大学の教員及び大学院生が日本の代表的な民家集落である白川村合掌集落(図0-1, 2)に集合し、建築、生活用具、水と生活、集落の色彩など、様々なデザイン分野の視点から総合的な調査研究を行った。以下はその成果報告である。
0-2 プロジェクトの目的
本プロジェクトの主要な目的は、以下の2点である。
第一は、調査研究上の目的である。白川村合掌集落については、世界文化遺産に登録されていることもあり建築学や民俗学の分野を中心にたいへん多くの先行研究が蓄積されてきているが、本プロジェクトではこれらの研究を踏まえ、デザイン系大学らしい独自の視点から白川村の調査分析を行なうとともに、未だに整理されていない文化財の実測データ等の整理を行ない、今後の保存活用に資することを目指した。具体的には、合掌造り民家園内の合掌造民家の実測調査、同園内の生活用具・家具類の実測調査、集落の水と生活に関する調査、同集落内の伝統的色彩に関する調査などに取り組んだ。
第二は、学生教育プログラム上の目的であり、ここでは、学生たちに二つのことを期待している。その一つは、本プロジェクトへの参加を通じて、学生自身がこれに関連した研究テーマを見つけてくれることへの期待である。本プロジェクトは非常に限られた時間のなかで行われるため、プロジェクトのなかで残せる研究成果も限られたものにならざるをえないが、本プロジェクトを通じて参加学生が自身の研究テーマを発見し、より深い研究へと展開するきっかけになれば本望である。もう一つは、国籍及び専門が異なる者同士が共同で研究調査を進めることにより、多様な視点・考え方の存在に刺激を受け、幅広く国際的な視野を身につけることである。昨今、様々な分野でアジア諸国との連携が叫ばれるなか、デザインの分野も例に漏れず、アジア諸国との連携が求められる機会が増大している。本プロジェクトを通じて各国の異なる文化的背景を理解し、協力関係を築いていくことが、国際的に活躍できる人材の育成につながると思われる。
0-3 参加者・調査日程等
0-3-1 参加者数
神戸芸術工科大学─教員14名・学生26名、北京理工大学─教員3名・学生8名、東西大学─教員1名・学生6名、以上、教員18名、学生40名(図0-3)
0-3-2 調査日程
8月8日─午前中に神戸芸術工科大学をバスで出発。途中、郡上八幡の町並みを見学し、ドライブインで合同夕食会ののち、現地入り。
8月9日─白川村にて調査(終日)。各班に分かれて作業を実施。夜、多目的集会施設にて白川村教育委員会近藤久善氏による講演会(世界文化遺産登録の経緯とその後の課題について)および筑波大調査チームとの交流会。
8月10日─午前中、白川村にて調査。午後、神戸芸術工科大学へ移動。
8月11日─午前中、神戸芸術工科大学にて作業内容の取りまとめと発表準備。午後、吉武記念ホールにて調査結果の発表会。夜、打ち上げパーティー。
8月12日─午前中、文化庁西和彦文化財調査官による講演会(『文化遺産保護にむけた国際協力の現状と課題』)。昼、解散式。
0-4 白川村合掌集落について
白川村は、岐阜県大野郡の荘川流域に所在する。旧荘川村(現高山市荘川町)とあわせて白川郷とよばれるが、この地は山間の豪雪地帯であるため、交通路整備が遅れ、偶然に合掌集落が生き残ってきた。中心となる集落には急勾配の大きな屋根が特徴の合掌造民家が60棟ほど現存している。これらは江戸時代から発達した養蚕に対応して屋根裏の床面積を多く確保するとともに、雪下ろしの簡便化を意図した形式と考えられている。また、茅葺民家そのものの形式だけでなく、茅葺屋根の葺き替えを支える社会システムである結(ゆい)の存在なども特徴的である。
白川村は日本を代表する山村集落として1976年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、1995年には隣接する富山県の五箇山地域と合わせ、「白川郷・五箇山の合掌造集落」として世界文化遺産に登録された。近年ではこのために、世界中から多くの観光客が訪れるようになり、受け入れ態勢の整備や環境保護などの面で新たな課題が持ち上がっている。(山之内誠)