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1  合掌造民家の実測調査

1-1  実測調査の背景と目的

図1-1 「旧東しな家住宅」の外観

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図1-1 「旧東しな家住宅」の外観

調査対象とした「旧東しな家住宅」(図1-1)は、1969年に合掌造り民家園内に移築された、白川郷を代表する合掌造り民家の一つであり、岐阜県の重要文化財に指定され、公開されている。しかしながら、同住宅は未だに図面が整備されていない。そこで本調査では、同住宅の実測調査をおこない、今後維持管理・保存修理あるいは研究資料に活用できる図面を作成することを目的としている。また、実測作業を通して、旧東しな家の建築的特徴を考察することも目的としている。

1-2  調査方法およびスケジュール

実測調査にあたっては、原則として1名が1つの図面を担当して、A3版5ミリ方眼紙の上に約1/50のスケールでフリーハンドの野帳図面を描いた。その後2~3名の組を作り、コンベックスやレーザー測定器を用いて寸法を計測し、野帳図面に記入した。
 現地調査後、野帳を持ち帰り、各自が担当した図面を1/100スケールで清書した。日程─8月 9日(終日):実測作業、10日(午前):実測作業。

1-3 調査メンバー

指導教員:山之内誠・柳沢究(以上、神戸芸術工科大学教員)、平面図:西山広志・奥平桂子・柳川翔太、立面図:姜燕・李文静・任亜鵬・楊敏(北京理工大学)、周岑(北京理工大学)、断面図:佐伯法積・李改榮、岩田谷由香、配置図:松原加代子(所属記載の無い者は、神戸芸術工科大学大学院修士課程及び博士前期課程)

1-4 旧東しな家住宅の概要と建築の特徴

1-4-1 旧東しな家住宅の概要

旧東しな家は、1969年に白川村加須良から15キロ離れた合掌造り民家園に移築された茅葺の合掌造の主屋である。1971年12月14日に岐阜県の重要文化財に指定された。蓮受寺西岡家の番僧東伝次郎が妻帯し、寺の西側に草庵を建て移り住んだのが東家の元祖と伝えられており、また19世紀中ごろに火災に遭い焼失し、現在の建物は、安政年間(1855年)に能登の大工によって再建されたと伝えられる*1

1-4-2 旧東しな家住宅の建築的特徴

切妻平入の合掌造で、南面して建つ。建築規模は梁行5間(約9.1m)、桁行8.5間(約15.9m)、一階天井高約3.3m、棟高は約11mである。北側には融雪池を設けている。

平面構成は、広間型で西側から東方向へと伸びている。西端に南面した入口を入ると、正面にドウジと呼ばれる土間があり、その正面奥をマヤとする。ドウジの東側には床張りのオエがある。オエは建物の中央にあって南北に縦長の平面をとるが、その北寄りに囲炉裏がひとつある。またオエの東南には縁側に接してデイがあり、さらにその東奥には仏間(ナイジン)が設けられている。またデイの北側はチョウダが設けられており、オエ側から出入りする構成をとる。なお、仏間の北側でチョウダの東側にあたる場所には床の間・違棚・平書院をもつ座敷があるが、この座敷はオクノデイと呼ばれる6畳敷きで、仏間から出入りする形になっている。この部屋はマガリザシキ、マワリザシキなどとも呼ばれるお坊さんの控えの間で、真宗信仰に基づいた間取りである。

また構造面では、側柱上で梁行方向に直接テッポウ梁をかけ渡す新上屋構造をとり、入側の母屋柱の大半を省略している(図1-2)。これは側回りを下屋とせずに広く使うと同時に、養蚕等のために屋根裏を広く確保するための工夫とみられる*2。なお、妻面は上にいくに従い外側へ傾斜しており、西側では4度、東側では2.2度の傾斜がみられる。

白川村の合掌造の中には大規模な下屋造はなく、基本的に上屋造であるが、屋根裏を広くする工夫が見られる。すなわち、チョウナ梁を用いずに太いテッポウ梁を用いて屋根裏空間を広くする独創的な軸組み構造で、軒先が高くなるので大雪のときにも有利となる。この構造は養蚕が特に盛んであり豪雪地でもある白川村で考案されたと考えられていて、旧東しな家もこの特徴を備えている。


図1-2 新上屋造と下屋造

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図1-2 新上屋造と下屋造

1-5 実測図作成の意義

図1-3 調査風景

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図1-3 調査風景

今回の調査(図1-3)により、旧東しな家の実測図(1階及び屋根裏平面図、東・南・西立面図、梁行断面図、桁行断面図、配置図)を作成することが出来た(図1-4~10)。岐阜県指定重要文化財でありながらこれまで図面が無かったのだが、今後は本調査による実測図面が維持管理・保存修理などに役立てられることが期待される。また、合掌民家の基礎資料として、さまざまな研究・分析の材料として利用されることも期待したい。


図1-4 配置図 1:800

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図1-4 配置図 1:800


図1-5 1階平面図 1:125

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図1-5 1階平面図 1:125


図1-6 屋根裏平面図 1:125 

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図1-6 屋根裏平面図 1:125


図1-7 梁間断面図 1:125

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図1-7 梁間断面図 1:125


図1-8 桁行断面図 1:125

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図1-8 桁行断面図 1:125


図1-9 東立面図 1:125

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図1-9 東立面図 1:125


図1-10 南立面図 1:125

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図1-10 南立面図 1:125

《民家実測調査班》
姜燕 JIANG Yan
任亜鵬 REN Yapeng
李改榮 LI Gairong
李文静 LI Wenjing
岩田谷由香 IWATAYA Yuka
松原加代子 MATSUBARA Kayoko
奥平桂子 OKUDAIRA Keiko
佐伯法積 SAEKI Norizumi
西山広志 NISHIYAMA Hiroshi
柳川翔太 YANAGAWA Shouta
楊敏 (北京理工大学)
周岑 (北京理工大学)

【担当教員】
山之内誠 YAMANOUCHI Makoto
柳沢究 YANAGISAWA Kiwamu


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白川村教育委員会編『白川村合掌造集落』1987年による。
宮澤智士『白川郷合掌造Q&A』智書房、2005年