2-1 背景と目的
本節では、主として100年前から白川地域で用いられた農機具・建築用工具・生活用具・祭器について、民家園内の展示物の実測調査・スチル写真撮影・聞き取り調査から得られた情報を簡単に報告する。
白川村の面積は356.55km2、標高は最高2700m、最低351mになり、その内の93.93%が森林面積である。100年ほど前は1800棟ほどの合掌家屋が存在していたが、50年前から始まった経済成長にあわせてダムの建設、離村などにより約300棟ほどまでに激減したが、保存会の設立を機に減少は緩やかになった。さらに1976年の伝統的建造物群保存地区選定を経て、1995年の世界遺産選定により、現在では観光地としての魅力も増し、積極的に合掌造りの建造物と共にそこで制作、使用されていた生活用具類も保存されるようになってきている。
2-2 調査方法
今回の調査では、展示用に移築されている民家園内の2カ所(中野長治郎家、竹田請次郎家)の展示物、計93点についての実測を行った。調査対象品各々について、実測図面作成、スチル画による記録、聞き取り調査を実施し、その中から代表的な工具・用具類については、3D画像による動画作成をおこなった。
2-3-2 ゴトク(カナワ)(図2-2)
大きなものを「カナワ」、小さなものを「ゴトク」と呼ぶこともある。いろりの中で鍋釜による煮炊きのための台座として使用。他に餅焼きや魚、味噌などを焼くのに使用する「テキ」などもある。
2-4 まとめ
白川地区には、農機具・建築用工具・生活用具・祭器など、実測対象としたものの他にも多くの資料が残されているが、生活様式の変化に伴い、いずれもが現在ほとんど使用されることはなくなっている。特に農機具としての田下駄などは白川地区特有のぬかるみの多い土地柄だからこそ成立した道具といえ、貴重な資料である。実測資料の中には解説文や記録写真などを参考にしなければ用途が理解できないものも多く存在した。
「重要伝統的建造物群保存地区」指定から、「世界遺産」登録を経て、町並みや建造物とともに生活習慣なども積極的に保存をしていく体制が採られていることは評価される。これらの伝統的建造物での宿泊や、聞き取り、風習体験なども積極的におこなわれるようになった。生活用具類についても、使用体験や製作実演などをおこなうことによって、伝統的な遺産として継承されていくことを願っている。
《生活用具調査班》
LIU Miao
サンサニー・ストゲート Sansanee SUTKET
孫孟麗 SUN Mengli
デイビッド・マクデーモット David McDERMOTT
【担当教員】
大田尚作 OTA Syosaku
佐野浩三 SANO Hirozo
今村文彦 IMAMURA Humihiko
安森弘昌 YASUMORI Hiromasa