Educational Study of Design and Sales (No.2)
本研究は、前年におこなわれた『教育としてのデザインと販売の研究』の成果を踏まえたものである。
引き続き、教育という観点から学生作品の制作と販売について研究を進めるが、強いて昨年との違いを挙げれば、今年度はより効果的な「販売」の場を選択したということである。
実習や演習での課題や自主制作における学生作品を大学内で評価するとき、そこには、とかく自己満足で終わりやすいという危険性が伴う。作品が、実際に世の中で受け入れられるかを見極めるのは難しい。相当にマーケティング手法を駆使した場合でも、見極めが「商品」のシミュレーションに終わってしまう感は否めない。
その点、販売という場は、学生の制作物を「作品」から「商品」へと変える力を持つ。
商品は、真に消費者ニーズを満たしているかが直接に問われ、売れるか売れないかという指標により明確に判断される。
ここで断っておかねばならないのは、作品の価値には純粋に造形的で耽美的な面もあるということである。これらは、今問題にしているのとはまったく次元の異なる価値であるが、実際には商品的価値と複雑に絡み合っている。したがって、売れなければいいデザインではないというのは少々短絡的すぎるということを、念のためここで確認しておく。
しかし本研究は、造形力や美的感性の重要性を積極的に認めた上で、なお学生が自分のデザインという行為に、時代や社会のニーズを的確に盛り込む方法を模索する。販売体験は、勘や憶測ではなく、しっかりした手応えとして時代や社会のニーズを自分のものにする最も重要な方法のひとつである。
また、販売は学生にとり、非常に刺激的でスリリングな体験でもあり、それ自体が創作意欲の喚起につながると期待される。
デザインは、もともと社会経済と密接に結びついている。いいかえれば、その時々の時代や社会の要請をうまくとらえ、新しいかたちに表現することがデザインである。さらには、未来はこうあるべきだという、今までなかった発想をかたちにして提示できるクリエーティブな力がデザイン力である。
そのような観点から、学生の作品をセレクトショップに置くという昨年の研究は、街の人の反応をキャッチするひとつの方法であったことは間違いない。それは私たちにとっても、また学生たちにとっても貴重な試みだった。
しかし反省点がなかったわけではない。ひとつは、ショップオーナーのハイレベルな要求に応える商品をつくり続けることができなかったこと。さらに、学生がつねに店頭に立てるわけではないため、客の反応や意見にじかに触れる機会が限られ、売れたか売れないかという結果のみに終わってしまったという点である。
以上のことを考慮し、今回は、短期間に集中して手応えをつかむことができる展示販売会に的を絞った。自分の出品したものが、そこに訪れた人にいかに評価され、またどのように買われていくのかを、展示販売会という場で学生自身が実感し、次の創作にフィードバックする。体験から得た手応えを、学生一人ひとりが次回の制作に生かすことで、作品をよりレベルアップする仕組みと、販売という場の可能性を探ることが、今回の研究目的である。