5.体験から得られたもの

本研究の目的は、販売体験を次の制作にフィードバックし創作のモチベーションを高め、作品をよりレベルアップすることにある。
一般的に、作品制作にはまず創作意欲が必要である。(当たり前のような話しだが、じつは作家の創作意欲とその持続には多くのエネルギーが必要である)自分の内部から、何かをつくりたいという気持ちが沸々とわいてくる。その気持ちにしたがって自分の表現したいものをあれこれ探るうちに、テーマがみえてくる。テーマが徐々に確かなものとなり、それに沿ってアイデアをだす。多くのアイデアを検討し、制作物を決め、具体的な制作にはいる。つくる過程でもいろいろな試行錯誤があり、いよいよ作品は完成へと向かう。そして、満足と反省の段階を経て、次の創作につながっていく。
このような制作過程において、ある体験がどのように作用するか判断し見極めるのはしごく難しい。
実際、学生たちは、デザイン・フェスタへの参加そのものを楽しんでおり、参加後のレポートには「刺激になった」とか「有意義だった」などの感想を寄せている。レポートから推測すると、この体験は、彼らの創作意欲を確かに刺激したようである。
ここで、木工による椅子の作品で参加したT君のレポートを紹介しよう。

デザイン・フェスタには、ジャンルや分野、参加者の年代に関係なく、様々なものや表現があった。そのような場に自分の作品を出展し、そこにいる初対面の人達から作品に対する率直な意見や感想が得られたことは、とてもよい体験だった。
面識のない人が先入観を持たずに作品をみて評価してくれるため、自分の身近な人々からの今までとはまったく違う、思いもよらぬ観点からの感想がたくさん得られた。そういった様々な人からの意見や感想は、自分自身の固定観念や予想をよい意味で裏切り、それらは新たな発想へつながるであろう数多くのヒントとなった。
また、同じ年代の人たちや自分と同じジャンル(木工やインテリアエレメント)で制作している出展者の作品をみたり、彼らと実際に話す機会は、こういう場でなければなかなか持てない貴重な経験だったと思う。
今回の体験は、自分自身の制作への意識や考えについて再確認するきっかけとなった。そして、作品制作を自己満足で終わらせるのではなく、いろいろな人の目にふれさせる必要性を、実際に出展することにより、一層強く感じた。
作品に対しての意見や感想をより多くの人から得る機会は、今まで自分の考えていた以上に意味があり、今回自分が得たなかで最も大きな成果となった。

レポートからは、デザイン・フェスタに参加した結果、様々な刺激をうけたことがわかる。
しかし、創作の道程は複雑である。今回得られた意見や感想を、今後T君がどのように昇華するか、レポートには明確に示されていない。この時点では、彼のなかに、これからの課題として残されたままである。

写真21―T君の作品

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写真21―T君の作品



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