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3.ファッションデザインとロングライフデザイン

 洋服、靴、かばん、携帯電話、家電製品、車・・・、世の中はデザインで溢れている、そう思うようになった。私たち消費者は個人の好みに合わせて、好きなものを選ぶことができるようになった。しかしその一方で、巷に溢れたデザインは私たち消費者を翻弄させていないだろうか。この章では、ファッションデザインとプロダクトデザインの関係を交えながら、ロングライフデザインについて記した。今、私たちにとって本当に良いデザインとは何なのかを考えるきっかけになればと思う。


3-1.ファッションデザインとプロダクトデザインの関係


 工業技術の進歩、コンピューターシステムの導入によりオートマティックなもの作りが進む世の中ではあるが、衣服ほど原始的なもの作りが今尚主流を占めている業界も少ないのではないだろうか。勿論、裁断など一部の工程には機械が導入されているし、コンピューター制御の導入など使いやすいミシンの開発も進んでいるが、基本的には、人がミシンを使って縫製するという、150年前と変わらない昔ながらの生産システムが今日まで続いているのである。ファッションデザイナーの菱沼良樹氏が2005-2006秋冬コレクションで完全無縫製、完全オートメーションのニットテーラードジャケットを発表した。これは人の手による生産が主流のファッション業界において、画期的なニュースであった。何故、衣服の生産システムはオートマティックにはならないのか。あらゆる技術を駆使すれば縫製ロボットの開発も夢の話ではないのだろうが、それでもオートメーションにならない、出来ない理由があるのかもしれない。
 とはいえ、今日では衣服は工場で量産されるものがほとんどであるから、プロダクトデザイン(工業デザイン)の一つと考えて間違いはないだろう。しかしファッションデザインとプロダクトデザインには大きな違いがある。ファッションデザインが個の為のデザインであるなら、プロダクトデザインは公の為のデザインであるといえる。ファッションデザインは外敵から身を守る衣服としての本来的な機能が薄れ、時代や流行を反映し、自分らしさを表現する重要な手段となっている。さらに、流行という側面がどんどん大きくなるにつれデザインのショートライフ化が進み、ファッションデザインはシーズン毎に消費され、使い捨てられていくようになった。一方、プロダクトデザインの多くは対象ユーザーが広範囲である為、誰もが使いやすいよう画一的にデザインされる傾向にあった。それは個性を重視するファッションデザインとは異なり、機能的でシンプルで周囲に馴染むことが重要視されたデザインでもあり、そのようなプロダクトデザイン的発想はロングライフデザインとも言える。
 神戸芸術工科大学のファッションデザイン学科も1999年の大学設立当時は「工業デザイン学科アパレルデザインコース」(*1)として歩み始めている。しかし設立11年後の2002年には「ファッションデザイン学科」として独立した経緯を持っている。この事実からもわかるようにファッションデザインとプロダクトデザインは近い関係でありながらも異なる概念を持ち合わせたデザイン分野なのである。


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