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4-2.A-POCの試み

 コンピュータ制御により新たな服づくりの可能性を模索しているものに、三宅一生の「A-POC」がある。A-POCは、これまでにない構造を持つ画期的な衣服で、編成する段階で衣服のデータを編み込み、案内線に沿って切り取ることで完成する一体成型の衣服である。従来の衣服は、テキスタイルメーカーが大量に生産した生地の中からイメージに合うものを選び、型紙に合わせて裁断し、縫製して組み立てて完成させる。A-POCは、布を作る段階で服の形や色や柄などのデザインをコンピュータでプログラミングし、直接、工場の編み機で出力する。筒状に編まれた布には、デザインが立体的に組み込まれ、切り離すことで縫製せずに完成する。A-POCは、ファッションデザインがこれまで衣服における構造への本質的な問いかけなしに、表層のみを変化させてきた中で、多くの注目すべき可能性を示している。
 1998年のコレクションで、初めての一体成型衣服「JUST BEFORE」が発表された。コンピュータにプログラミングされた編み機を用いて作られたロール状のニット地に何着もの衣服が一続きに編み込まれたものであった。
 1999年、A-POCとしてはじめてのシリーズ「KING AND QUEEN」が発表された。筒状に編成されたニットには、ドレス、帽子、手袋、靴下、財布、バック、ブラトップ、ショーツ、ベルト等の1セットのワードローブが編み込まれていた。それらは生地幅の中で、残布が最小限度になるように無駄がなく配置されていた。購入者が案内線に沿ってはさみを入れると、筒状になった前後の身頃や袖が現れ、それらのアイテムが切り出されて完成する。切り端は特殊な編みが施されているため解けてこない。
 2000年に発表した「PAIN DE MIE」から、織物による一体成型の衣服作りが開始された。経糸が12.000本という高密度なジャガード織機を用いて細い糸で織り上げたもので、身頃の前後や袖などを袋状にして多重に織り込み、編地と同様に生地から切り取ることで衣服が完成するものであった。
 2001年の「GOLDEN BAG」シリーズにおいては、「フレームワーク」という考えが採用され、ひとつの原型から様々なバリエーションを生み出す試みが行われた。織機の特性から経糸をそのままにして、緯糸には綿糸、絹糸、ポリエステル糸やストレッチナイロン糸を用いてデザインに変化をもたせた。また、使用する糸の色にはシアン、マゼンダ、イエローの三原色に黒を加え、コンピュータ上で糸へのプログラムを変えることにより、織り上げる段階で色や柄を変化させることができる。ひとつの原型から64型のデザイン展開を行うことが可能であるとされる。
 2002年の「BAGUETTE」シリーズでは、伸縮性の高いストレッチニットを用いて、着用者が好きなところでカットできる一体成型を発表した。切ってもほつれないニットの技法を用いてタートルネックや丸首やタンクトップ、袖丈の長短やノースリーブなど自由にデザインを変えることが可能となった。着用者がデザインに参加する新しい試みで、制作者と着用者とのコミュニケーションが服を通して生まれるしくみが提案された。
 2003年からは、A-POCで開発されたテクノロジーを他ブランドやインテリアなどの他分野製品と融合させる「+A-POC」を開始し、更にデザイン的な広がりを見せることになった。


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