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3-2.21世紀のプロダクトデザインとファッションデザイン

 そんな中、21世紀に入り、プロダクトデザインを取り巻く環境は大きく変化し、プロダクトデザインの個への対応が急速に進められた。その最も良い例の一つが携帯電話である。電話は元来、遠く離れた人と会話をする為の情報ツールであり、我々は電話を個人で持ち運ぶという概念すら持っていなかった。しかし技術の進歩やライフスタイルの変化に伴い、携帯電話という新たな需要が一気に高まった。2001年、auより発表された携帯電話「infobar」。薄く四角いフォルムにタイルのように整然と並ぶボタン。infobarのデザイナー深沢直人氏は、当時の携帯電話の画一的なデザインに対する潜在的不満を読み取り、違う形で携帯電話の面白さを提案したかったのだと言う。その後も、携帯電話の新機種の発売は毎年拍車がかかる一方で、携帯電話は今や自分らしさを表現する新たな手段の一つになったと考えられる。深沢氏は「デザインしないデザイン」という概念を、デザインの否定やミニマリズムだけではなく、「気付き」のデザインと表現している。『それはまるで小指の先を怪我して、あらためてその部位の感覚の存在を知るように、(中略)無いものを得た喜びではなく、あることを知った「気付き」の喜びである』(*2)。彼のデザインは革新的、または飛躍的に進化した奇抜な何かがあるわけではない。むしろ一見するとあまりにも生活に自然に溶け込み、「普通」に見えるデザインの場合もある。しかし多くのユーザーはそのデザインに「センス・オブ・ユーモア」を感じる。日常生活の中で誰もが意識しなかったことに目をつけ、そこに「気付き」のデザインをしのばせるのだ。深沢氏は人の行為や身の周りの環境の中から必然的なデザインを生み出すという。そして彼はまた、特別でないこと、普通であることこそが、我々の求めているデザインなのだという。
 21世紀のファッションデザインにおいても、飛躍的に進化したような、これまでに見たこともないデザインがトレンドになることはそうない。菱沼良樹氏は1992年から12年間出し続けたパリコレクションに参加しないことを決めた。彼は服本来のデザインの良し悪しに、その服がいつ作られたかは重要ではないと考えたからだ。(*3)年2回の新しいコレクションの発表を余儀なくされ、極度のショートサイクルの中で生み出すデザインが、果たして本当に良いデザインなのかどうかはわからないのである。パリやミラノなどモードの最先端と言われる場にもリアルクローズが登場して久しいが、ファッション業界のサイクルの速さにデザイナー達が悲鳴をあげているのかもしれない。流行やトレンドがなくなった訳では決してないが、それだけを求める時代は既に終わり、見えないこだわりや密かなこだわり、自分だけの満足感や充実感を消費者は求めているのだ。例えば、LEVI'SのジーンズやCONVERSのスニーカーはファッション商品では珍しく、ロングライフなデザインである。世界中の子供から大人まで様々な年代の人に親しまれており、誰もが着やすい商品である。ジーンズやスニーカーを履きこんだり着古したりすることで自分自身の“味”を出すことが可能で、その味が自分だけの満足感を満たし、愛着をわかせ、こだわりのデザインになるのである。ロングライフデザインとは、単に長く売れ続けるデザインというだけではなく、機能的でシンプルであり、使っているうちにユーザー自身の肌に馴染んでくるもの。寸法や規格が様々な人に対応し、修理が出来て、愛着が持てる、そのようなデザインを指すのではないだろうか。


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