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図1

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1.霧台村の地理位置及び伝統服装の形式分類

霧台は屏東県東北部の山あい、中央山脈に位置している。屏東県最大規模を誇り、最も重要なルカイの集落である。地形は険しく平均海抜1000m以上の高地にあり、年間平均気温17-18°C、「霧と瀑布の故郷」と呼ばれている。周囲は繞伊拉、去露、阿禮、佳暮大武などの、茶の名産地に囲まれており、農業に適した平地に乏しい。「ルカイ族の聖地」と呼ばれ、山奥にある小鬼湖に美しい伝説が伝わっている。

1-1 霧台村の伝統服装の形式と種類

聞き取り調査対象及び分析対象とした伝統服装の提供者:(霧台の彫刻家:杜巴男、78才。宿先のオーナー:柯天傑夫婦、巴さん)

霧台の提供者から見せて頂いた服装は女性服、男性服に関わらず、その開襟式は明らかに漢民族の服装形式の影響を受けていた。また女性の服装形式においては、その多くが漢民族の長衫の影響を受けた衣装となっており、ワンピースタイプと上衣と長スカートが一体と成っている2つのタイプに大きく分けられる。また、各タイプの服装において文様を施す部分に違いが見られ、さらにいくつかの小類型として分類することができる。以下ではワンピースタイプをRWA型(図1)、上衣と長スカートと一体と成っているタイプをRWB型(図2)と名づけた。また男性の服装は基本的に長袖上衣と袖なしの短上衣2つのタイプに分けられ、それぞれはRMA型(図3)とRMB型(図4)と名づけた。(註:Rはルカイ、Wは女性、Mは男性、AとBは種類の意味)。はじめにRWA型の特徴を以下に示す。

1-1-1 RWA-1(図5)

材質:
黒と赤の平織り綿布、絣織り綿布、多色の木綿刺繍糸、金属ボタン。
仕立:
赤綿布裁ち縫い仕立て。首ぐり・袖口・脇の裏地を綿布裂で補強。黒綿布を切抜紋に裁ち、綿布裂にアップリケ刺繍。首ぐり・袖口・脇・前打に刺繍紋。ルカイ族少女の服装であり、現代のものであると推測する。
文様:
この服装は一つの文様として全体に刺繍が施されている(図5)。首ぐりに直立二列連続、袖口の部分は上下逆に一列に配置され、また、前打合に縦の連続紋が一列、裾の部分には連続紋が上下逆に一列に配置されている。平織りの赤綿布に雲のような、また蛇のような文様が黒の綿布で切抜紋として刺繍されている(RWA-1a)。このような文様は霧台村で頻繁にみられ、伝統的モチーフを踏襲している。

1-1-2 RWA-2(図6)

材質:
白の平織り綿布、色の木綿刺繍糸、金属ボタン(すべて外来の工業製品)。
仕立:
白綿布裁ち縫い仕立て。首ぐり・袖口・脇の裏地を綿布裂で補強。黒綿布を切抜紋に裁ち、綿布裂にアップリケ刺繍。首ぐり・袖口・脇に刺繍紋。近代のものである。
文様:
基本的に二種類の文様構成がみられる。首ぐり・袖口・脇には1の文様が直立、逆さ、もしくは一列的な連続の形で施されている。その側には、また連続する一連のRWA-2b文様が刺繍されている。RWA-2aの文様はRWA-1に見た文様と類似し、同系統に属する文様であると考えられる。一方RWA-2bの文様はパイワン族の服装ではよく見られる。しかし、この文様がパイワン独自のものであるか、それともルカイの影響を受けたものであるのか、また文様の意味するところなどが不明であり、今後の研究課題としたい。

1-1-3 RWA-3(図7)

材質:
黒の綿布、赤ネル布裂、黄、橙、緑のガラスビーズ玉刺繍、貝ボタン。
仕立:
黒綿布や赤ネル布裂等で裁ち縫い仕立て。首ぐり・袖口・袖山・前打合・脇に鮮やかなガラスビーズ玉で刺繍されている。
文様:
首ぐり・袖口・袖山・前打合・脇に羽毛のような帽子をかぶる人頭紋がガラスビーズ玉で刺繍されている(RWA-3a)。この服装は結婚式の際に着る新婦着である。全面にビーズ刺繍が施され、祖先像もしくは神様(頭)文様が作られている。すなわち、このような文様を誇示できるものは頭目家の女子に限られるのである。なおビーズ玉は、オランダ東インド会社によって、南インドの生産地から台湾に持ち込まれたものであると考えられる。

1-1-4 RWA-4(図8)

材質:
白の平織り綿布、色木綿刺繍糸、黒ネル布裂
仕立:
白綿布裁ち縫い仕立て。首ぐり・袖口・袖山・前打合・脇の裏地を綿布裂で補強。黒ネル布を切抜紋に裁ち、ネル布裂にアップリケ刺繍。近代のものであろうと推測する。
文様:
首ぐり・袖口・袖山・前打合・脇のネル布裂にてRWA-4abcの文様がアップリケ刺繍されている。RWA-4abの文様は形態の視点から見ると同系統に属し、RWA-4cの菱形文様はルカイやパイワン地域ではよく見られたが、蛇に対する信仰に基づいて作られたものであると考えられる。

1-1-5 RWB-1(図9)

材質:
赤ネル布、綿糸で文様織り込みの布裂、色の木綿刺繍糸、飾り金具。
仕立:
赤ネル布裁ち縫い仕立て。首ぐり・袖口・袖山・前打合・脇の布裂に文様織り込み、袖口のそばや、裾のところにも文様が刺繍されている。
文様:
首ぐり・袖口・袖山・前打合・脇のところではRWB-1aのような菱形の文様が繰り返し織られている。このような文様はパイワン族でもよく見られる。顔のような形は、祖霊信仰との深い関係が考えられる。またRWB-1bのような文様は平埔族やパイワンでも頻繁に見られ、植物の形を象ったものだと考えられる。

1-1-6 RWB-2(図10)

材質:
白の平織り綿布、色の木綿刺繍糸。
仕立:
白綿布裁ち縫い仕立て。首ぐり・袖口・袖山・脇に黒綿布を切抜紋に裁ち、綿布裂にアップリケ刺繍。首ぐり・袖口・袖山・脇に刺繍紋。近代のものであると推測する。
文様:
全体は3の文様が主要デザインとして配されている。首ぐり・袖山・脇の側にRWB-2bの紋が木綿糸で刺繍されている。また服の上に、それぞれ黒綿布を切抜した一対蛇紋がみられる(RWB-2a)。布の状態は新しく、後から加えられたものであろう。ルカイ族における蛇は「百歩蛇」であり、ルカイ語ではKamanianと呼ばれる。しかし、ルカイ族はその神聖さを犯されないようにするためamaniとしか呼ばなかった。その意味は彼、あるいはpalada(パートナー)である。また、長老の名として呼ばれる場合もある。

1-1-7 RWB-3(図11)

材質:
白の平織り綿布、色の木綿刺繍糸。
仕立:
白綿布裁ち縫い仕立て、首ぐり・袖口・袖山・前打合・脇に黒綿布裂が施され、その上にアップリケ刺繍。さらに前打合・脇の両側に木綿糸で紋を刺繍されている。近代のものであろう。
文様:
全体の文様は主にRWB-3aのような文様が直立に、あるいは横に連続配置されている。また、RWB-3aの文様を二つに分け、RWB-3bcのような花の文様を取り入れながら、逆方向に配置する方法も見られる。またRWB-3eのような具象的な蛇の文様もある。この服に見られた文様はいずれも蛇の形態を象ったものであり、ルカイの伝統的な信仰観念が表現されている。

1-1-8 RWB-4(図12)

材質:
白の平織り綿布、色の木綿刺繍糸、黒綿布裂、赤綿布裂、金属ボタン。
仕立:
白綿布裁ち縫い仕立て、首ぐりに黒綿布裂、袖口・脇、スカートの横線などが赤綿布裂で施され、その上にアップリケ刺繍。近代のものであろう。
文様:
服全体に見られる文様は、RWB-4aのような文様が連続配置することによって構成されている。この文様はいままで見てきた霧台村の伝統服装によく表現されており、二匹の蛇が抽象化された文様であると考えられる。

1-1-9 RWB-5(図13)

材質:
葡萄酒色、灰色、黒の平織り綿布、色の木綿刺繍糸、金属ボタン。
仕立:
葡萄酒色の綿布裁ち縫い仕立て、袖口に黒綿布裂が見られるほか、襟・前打合・裾部分に灰色の綿布裂が施され、その上にアップリケが刺繍されている。
文様:
壷と酒をのむための杯、という二つの基本的な文様が見られる(RWB-5a)。壷はルカイの社会では頭目家系の創成神話と関係があると言われ、常に貴族の社会身分を象徴するものとして見なされていた。一方、酒杯は盛大な宴会や祭りの際に親近、信頼関係を示すものとして、ルカイの社会において重要な器でもあると言われている。しかし、この二つの文様はルカイ族の伝統的服装においてはほとんど見られない。この服装の様式や色の使い方、また新しい文様を取り入れた点を考慮すると、この服装は現代的なものであると推測することができる。

1-1-10 RMA-1(写真1・図14)

材質:
黒色の綿布(或いは黒ネル)、組紐、多色の木綿刺繍糸、金属ボタン。
仕立:
綿布地の裁ち縫い造り、首ぐり・袖山・袖口・脇・前打合、背中にアップリケ縫い、多色綿糸で刺繍紋(直線繍)を刺す。
文様:
この服装の文様は主にRMA-1abの文様で構成されている。技法はどちらも赤、緑、黄の木綿糸を用いて、十字刺繍でなされている。RMA-1abの文様はルカイ族だけではなく、パイワン族や平埔族、また漢民族の衣服にもよくみられる。漢民族の服装文様に影響を受け、平埔族を経由し、最後にルカイ族やパイワン族の居住する地域に伝わっていったのであろうか、その文様のルーツを確認する必要がある。ルカイ族の男性用の伝統的な服装はほぼRMA-1のような様式で作られている。(図14)首ぐり・袖山・袖口・脇、また数枚の刺繍布裂が配置された前打合の構造様式である。この男性服の形式と同じものにRMA-1bの文様に2つ種類がみられるほか、渦巻きを表現するものもあった。また図14の下図は胸前のところにも時にRMA-1cのような文様の形も見られる。

1-1-11 RMB-1(写真2・図15)

材質:
黒色の綿布、多色の木綿刺繍糸、金属ボタン、ジッパー。
仕立:
黒綿布地の裁ち縫い造り、前打合にアップリケ縫い、赤、緑、黄綿糸で刺繍紋(直線繍)を刺す。
文様:
文様はRMB-1abcde五つの文様から成り立つ。RMB-1aの文様は上記で示したRMA-1aと同じものである。まず、RMB-1bの文様は二つの正方形が交差することにより生まれた星の形である。その中に四つの小四方形を四方に配置し、さらに四つ立っている四方形がその間に配置されている。また、その中心に一つの十字紋が配置されている。こうした形が二つの単位で並列していくと、その間にまた一つ大きな十字形が生まれ、星形が二つ、十字形が二つの単位で、連続した幾何学図案を構成していく。RMB-1bの文様はルカイ族の伝統的な図柄として古くから使われてきたが、地域により、星形の中にある九つの配置パターンが微妙に異なる。また、この文様はパイワン族においてもよく見かけられる。RMB-1cの文様は櫛の形であるが、それは外の意味を象徴するものであるのか、今後の研究課題としたい。このような文様はルカイ族の伝統服装に、刺繍の飾り物としてよく使われている。RMB-1deの文様はその形態から見ると、いずれも蛇の背中の文様を象ったものである。波型の連続紋や菱形の連続紋はルカイ族のみならず、パイワン族や他の族でもよく見られる。いずれも蛇に対する信仰観念により生まれた文様である。

1-1-12 RMB-2(写真3・図16)

材質:
青綿布、多色の木綿刺繍糸。
仕立:
青綿布裁ち縫い仕立て、前打合に白綿布裂が施され、その上にアップリケ刺繍。
文様:
縦、横、一列に並んでいる(RMB-2ab)の文様は今まで見てきた幾つかの文様形態と重複する。いわゆる蛇の形態を象ったものであり、このような形態は霧台の伝統服装のみならず、生活空間においても頻繁に使われている。霧台村における一つの伝統的文様であると考えられる。

 

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