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図34

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図34


図35

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図36

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図37

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図37

4.七佳式の伝統服装の文様特徴

七佳式の伝統服装に見た文様特徴は六種類に分類することができる。

4-1 蛇のモチーフを用いて作られた文様

パイワンとルカイ族が同じ蛇の信仰をもつため、蛇の文様が伝統服装に現れているのは当然のことである。但し、七佳村の伝統服装に見られた蛇の文様はその技法や素材が霧台村とは異なり、造形表現の差異が感じられた。

七佳村の服装における装飾は主に多彩な小ガラスビーズ玉を素材として使い、細かな文様表現が可能となっている。七佳式の蛇に関する文様はPGb、PW-1bのような抽象的なもの、PM-1c、PGe、PM-2d、PM-2cのような象徴的なものの2種類に分類することができる(図34)。

PGbの文様は前述した霧台式のRWB-3dの文様と同じく、互いに向き合う上向きの二匹蛇と、下向きの蛇の構造形態を表現している。ただし、七佳式には鋸の歯のようなきざみ目が表現されるため、霧台式の蛇文様に比べ繊細である。

一方PW-1bの文様構造は霧台式のRWA-4b、RWB-3b、RWA-1a、RWB-4aと類似しており、二匹の蛇が互いに向き合い一つの体を共有している。また、PM-1c、PGe、PM-2d、PM-2cなどの文様は三角形と菱形により構成されており、いずれも百歩蛇の腹にある文様を象ったものである。これらの文様はまた霧台式のRMB-1d、RMB-1eと類似しており、全て同じ系統に属する文様であると推測することができる。

4-2 太陽文様

パイワンの社会では蛇文様と同様に珍重されてきたものとして、太陽の文様が挙げられる。パイワン族に伝わる神話では、かつて太陽から赤と白の2つの卵が産まれ、地上へ降ろされた。その卵から男女の蛇が産まれ(太陽の蛇)、それが彼らの祖先神となったということである。

七佳村で見た太陽の文様はPGf、PM-2a、PMp-1c三種類である(図35)。いずれも多彩な小ガラスビーズ玉で作られている。PGfの文様は少女の首ぐりに現れ、中心の一点から七本の光線が放射し、さらにその周りに七つの光芒が見られる。

一方PM-2aの太陽文様は全四層から構成されており、それぞれの層には光芒が放射し、一つの丸い太陽の形態を表現している。またPMp-1cの文様は半円の形が地平線から出てくる様子を表現し、朝日や夕日の太陽の姿を連想させる。豊かな太陽表現の形態を展開している。

4-3 豊富な人像文様

七佳式の人像形の文様はその表現の仕方によって、3つのタイプに分類することができる(図36)。

4-3-1 固有信仰観念を反映するタイプ

パイワンの固有信仰観念に祖霊と宇宙神があるといわれる。祖霊と関わる文様としてはPW-1dの文様が挙げられるが、PW-1女性長衣の袖口に刺繍されている。この文様はパイワンの伝統の人頭紋としてよく知られ、祖霊を象徴するものであると言われている。これは前述した霧台式のRWB-1aやRWA-4aと同系統に属するものであると考えられる。

一方、PGa、PMp-2a、PMp-1b、PMp-1dなどの文様はアーチ状のものが冠せられており、その形態的な特徴から判断すると、これらの文様は宇宙神の形状を表現していると推測することができる。

祖霊を象徴する文様として、またPWsaのような祖霊と人像が合体された連続人像紋が挙げられる。この人像紋の特色は2種類の顔を持ち、半分の身を呈している。さらにその下に同じ文様を逆さに配置している。2種類の顔は一つが具象的な人間の顔であることが判明できるが、もう一方は同じ顔の形をしているが菱形に近く、抽象化されている。PWsaに見られた菱形の人頭紋は、故意に具象的な人顔の文様と区別し、深い意味が隠されていると考えられる。この菱形の人頭紋は形態上ではPW-1dと酷似するため、おそらくその形は祖霊を象ったものであると考えられる。PWsa文様は、祖霊との歌舞を願っているのではないかと推測する。

祖霊を表現するものとして、七佳ではPW-2aのような人像文様が挙げられる。この文様は祖霊を象徴するものとしてPWsaの文様よりさらに具体化されている。まるで宇宙人のような奇怪な顔をし、その両手にはそれぞれ三本の指をもち、半部の身を表しながら、さらに同じ姿が逆さになって配置されている。この文様が縦一列あるいは横に連続して、少女の服装に現れている。祖霊の保護を求めるという願いが衣服に込められているのであろう。

4-3-2 身分階級を表すタイプ

パイワン族は蛇を信仰するという風習があったと前述したが、昔から蛇と並んで熊鷹に対する信仰もあった。パイワン族には百歩蛇が熊鷹に変わり、空へ飛びだしたという伝説があった。熊鷹の翼に見られる文様は百歩蛇と同様であるため、百歩蛇の文様からと影響を受けたと言い伝えられている。

熊鷹の左右翼にそれぞれ三本のparhuqadupuと呼ばれる珍重な羽毛がある。真ん中の羽は最大階級を象徴するものであると言われ、体の近くにある羽は二等階級、外の翼に近い羽は三等階級を象徴するものであると言われている。

他の羽は、一般庶民の英雄の頭飾としても使用できるが、真ん中の一対parhuqadupu羽毛は頭目、あるいは女頭目しか使用することができない。parhuqadupuの羽毛に描かれている斜めの文様は三角形を表現しており、その長さや三角文様の量により、最大、次級、三級の三つ階級に分類される。通常女性大頭目の頭飾は三本のparhuqadupu羽が使用され、男性の大頭目は真ん中に一本のparhuqadupu羽を挿し、左右にparhuqadupu羽より小さいparitsと呼ばれる羽を挿す。*1

パイワン族における熊鷹の羽毛と階級との関わりを理解した上で、再び七佳村で見出した伝統服装にある人像文様を見ると、人像の頭上に熊鷹の羽毛を挿す幾つかの頭飾が見られる。PW-1cは女性服の首ぐりにみられる文様であるが、二人が熊鷹の羽毛の帽子を被り、手が地面に向かっている。これは、頭目の夫妻の姿であろうか。この文様はPW-1aの三本の羽を挿す人像文様と一緒に表しているが、おそらくこの服を着る者の身分は頭目の家系に属し、巫女の役を務めていたと考えられる。

一方PM-2b、PMp-1aの文様は男性の無袖短衣やカセン(ズボン型の前ズボン)から見出した文様であるが、PM-2bは四本の羽毛を挿し、その両手が下向き、地面に向かっている。PMp-1aの人像紋は三本の羽毛を挿しているがその両手は腰にあてている。いずれも頭目姿の描写であると考えられる。一方PM-1aの人像紋その両手は直立、地面に向かっている。その頭上は二本の羽毛しか挿しておらず、この服を着る者の身分は庶民の英雄であると推測することができる。

4-3-3 日常生活を反映するタイプ

形態により、さらに2種類に分類することができる。

概形的な人像紋:人間の顔や外形などが判断できるものを、筆者は概形的なものと定義する。七佳村の伝統服装に見られた概形的なものにPGc、PGd、PM-1b、PW-3b、PW-3a、PW-1fなどが挙げられる。これらの文様は例えばPM-1bやPW-3bのような頭を一列に配列させるものあり、頭や身体が分離するものある(PGc、PGd)。またPW-3a、PW-1fのような完全な人間の概形で表現されるものもある。これらの文様に見られる手と手が一列に並んでいる形態は、パイワン族の祭日に人々が手を繋いで舞踏する様子を表現したものであると考えられる。

具象的な人像紋:概形的なものと対照的に、PW-2cやPMp-2cのような具象的なものもみられる。PW-2cの文様は真ん中の人物の両手が省略され、肩と肩が繋がった表現がある。一方PMp-2cの文様は並べられた人の肩が分離され、手と手との繋がりを表現している。先述した概形的なものと同様、日常生活の風景をモチーフにして作られたものであると考えられる。

具象的なものにまた両手が地面に向かっているPW-2dの文様や、手が上に向かっているPMp-2dの人像紋があげられる。その2つ人像紋の頭上にはなにも飾られてないが、それはおそらく着る人の姿、また着る人の生活風景を描写するものであると考えられる。

PW-2dは少女の服に単独の姿首ぐりのところで現れ、少女自身の描写、もしくは少女にとって重要な人の姿ではないかと考える。またPMp-2dの文様の本来の形態は、二匹の鹿の真ん中に立つ人像紋であるため、着る者の生活風景の一部を再現したものであると考えられる。

4-4 刺繍にみた文様

考察対象とした七佳村の伝統服装に刺繍紋として使われている文様は、PW-4bやPW-4aの2つの文様タイプしか見当たらなかった(図37)。いずれも十字繍が使われ、モチーフは主に三葉四葉の植物紋や壷の文様が使われている。

七佳式の刺繍文様は主に袖口の小面に刺繍され、霧台村のような大面積の刺繍方法と異なり、両地の特色をはっきり見分けることができる。壷をモチーフとして表現されたものは霧台村でも見られるが、霧台式の表現は具象的で、布裂で服に縫い付けられたものである。七佳式の壷の表現は線で表現されたもので、霧台式より抽象化されている。いずれもルカイ族とパイワン族が壷に対する信仰観念を反映していたことが分かる。


 

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葉春栄編『歴史・文化與族群』順益台湾原住民博物館、2006年、p181