「えびすアートプロジェクト」はアートとまちづくりをつないだ地域活動である。このプロジェクトは、2008年3月、兵庫県立総合リハビリテーションセンターで開催された「小規模作業所のものづくり支援プロダクト100」がきっかけとなってスタートした。(参考文献1)ものづくり支援の一環として、作業所で使用するエプロンを制作することとなり、知的障がい者を中心とする福祉作業所「NPO法人えびす」のご協力で、デザイン用の原画を利用者の皆さんに作成していただいた。それはどれも独特で、たいへん魅力的なものだった。(写真1)その絵がきっかけとなり絵画やオブジェを制作し、作業所とアーティストの連携による地域参加や商品企画の可能性を提案した。それ以来、NPO法人えびすと連携して、絵画の制作や、アートイベントの企画を実践している。(写真2、3)なお、NPO法人えびす(兵庫県たつの市)は無農薬野菜づくり、喫茶店経営、内職などの事業を展開する、知的障がい者を中心とする福祉作業所である。(写真4)
「小説の映画化」や名曲のカバーアルバムなど、映画やデザイン、音楽の世界では原作を尊重しつつ新たな創作を行うことは珍しくない。このプロジェクトでは、絵画やオブジェの制作、発表を通して、障がいをもつ人とアーティストの交流が生まれる。創造の連鎖によって人と人とのつながりを拡大していくことが、えびすアートプロジェクトの目的である。
2008年度には明石、龍野、尼崎、神戸など県内5ヶ所で展覧会を開催した。(写真5、6)展覧会での出会いから、アートイベントに参加することになったり、アートワークショップを行うことになったりと、プロジェクトが地域に拡大しつつある。2009年度はこの共同研究のメンバーである柊伸江研究員とファッションデザイン学科学生が中心となって活動している「みっくすさいだー」との連携を予定している。神戸で開催された展覧会を見たファッションデザイン学科学生から、本プロジェクトで制作された絵画を活かしたエプロン制作の提案があったためである。原画から絵画やオブジェが生まれ、さらに絵画からエプロンが制作されようとしている。創造の連鎖をさらに展開し、アートやデザインによる交流促進をますます発展させていきたい。「ものづくり」から「ことづくり」へ、そして「まちづくり」へ。今後も福祉作業所とアーティストの連携の可能性を実践的に模索していこうと考えている。