誰もが、生涯、楽しく快適に生活を営みたいと望んでいる。その願いが少しでも叶うひとつの方法として「ファッションを楽しむ」ことがあげられる。私たちは「おしゃれは心のビタミンになる」ということを多くの人に提案したいと考え、ユニバーサルデザインファッションショーを企画した。ファッションショーのタイトルを「ユニバーサルデザインファッションショー in KOBE 2009 ~おしゃれは心のビタミン~」とした。(写真16)
今回のファッションショーでは、車いす利用者の方を中心に、身体の一部にハンディキャップを抱える方にモデルをお願いした。モデルの方に日頃感じている衣服への不満や意見をヒアリング調査し(写真17)、ユーザーの意見を取り入れた新しいユニバーサルデザインの提案を行った。(写真18、19)ファッションを通じて日本の四季を楽しんでもらいたいという思いから、春の陽射しに映えるカラフルな色のカジュアルウェア(写真20、21、22)、雨でも外出が楽しくなるレインコート(写真23)、日本の伝統美を楽しむ浴衣(写真24)、軽やかに動きやすい日常着(写真25、26、27)、外出時に便利なショール(写真28)、改まった場にも対応できるフォーマルウェア(写真29、30)、片手の切断部位を華やかなフラワーモチーフでカバーしたウェディングドレス(写真31)をデザインした。着やすさを考慮したパターンの改良には、倉敷スクールタイガー縫製株式会社に指導と協力をいただき、ヘアメイクはMake@Noiseとヘアラルト阪神理容美容専門学校の有志学生に協力いただいた。
ファッションショー当日は、晴れ舞台を前に緊張していたモデルの皆さんも、観客席からの温かい声援と拍手に後押しされ、いつのまにか笑顔で堂々とポーズを決めていた。日常では経験することのないファッションモデルという役割を通して、身体障がい者でも自信を持っておしゃれを楽しむことができるのだ、という心のリハビリテ―ションができたのではないかと思う。(写真32)
また、今回のショーでは、デザイン、パターン、カラー、材料、ヘアメイク、演出・構成など、各分野のスペシャリストが集まり、おしゃれで快適なファッションを様々な視点から考えた。学生たちは、モデルの方々それぞれの要望や問題点を聞くことで、真のおしゃれとは何か、快適な衣服とは何か、ということを考える良い機会を得たと考える。
本プロジェクトを通して、ファッションデザインのユニバーサル化はまだまだ未開発であることを痛感するとともに、ファッションは人を楽しませ、喜ばせ、心のビタミンになるということを実感した。車いす利用者のモデルの一人が、「成人式に着物が着たかったが着ることができなかった」という思い出を話してくれた。その方に浴衣のリフォームデザインを提案し、初めて浴衣を着ていただき、大変喜んでいただいた。また、事故で後天的に足が不自由になったモデルに、靴のリフォームデザインを提案し、履いていただいた。「装具以外の靴が履けるなんて夢みたいだ」と感激していただいた。学生たちの少しのアイディアが、モデルの心をつかみ、唯一無二のユニバーサルファッションが提案できた。今後は、ファッションデザインのユニバーサル化の可能性を、外観や機能面だけでなく、精神に及ぼす影響やコミュニケーションツールとしての効果も探ってみたいと考える。