厚生労働省の研究班は2035年には認知症高齢者数が380万人ないし445万人になると推計している*1(図1)。同省は、2008年7月に「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」を立ち上げた*2。一方、国立社会保障・人口問題研究所は2007年の「日本の世帯数の将来推計」*3にて2025年には高齢世帯は37%となり、7軒に1軒の割合で独居高齢者が生活すると推計している(図2)。この内の1/5弱は認知症であり、認知傾向を示す人の割合はさらに大きなものとなると予測される。
在宅認知症に対する対応としては、軽度者に対してはホームヘルパー派遣による家事援助サービスやディサービスなどの在宅サービスが、重度者に対してはグループホームや特別養護老人ホームへの入所といった施設サービスが用意されているが、本人の自立生活を支援するという視点からのサービスは十分ではなく、特に在宅サービスの視点は単身ではなく家族との同居、つまり家族による介護が前提とされているようである。このため、問題行動をいかに抑え、安全を確保するかという点に重点がおかれ、自立生活を見守るという視点が希薄である。
技術的な面では、センシング技術や通信技術の発達にともない、ホームオートメーションやテレコントロールシステムが1980年代から実現されてきているが、これらは人手を省き、自動化することを目的としてきた技術であり、軽度認知症の人が有している能力を奪いさる可能性がある。独居高齢者の安否確認に関しては、電気湯沸かし器の使用状況を電話回線を通して遠隔地の家族へ知らせるシステムや、各部屋に配置した熱線センサの信号から独居高齢者の生活行動をモニタリングして、生活リズムの変化を遠隔地から把握するシステムなどが提供されてきた。これらはいずれも、遠隔地の家族に対して独居高齢者の変化を知らせることが目的であり、本人に対してアプローチするものではない。
以上のことから我々は、高齢者が単身になっても住み慣れた住宅にできるだけ長く住み続けることができるように、認知症の初期段階である物忘れが頻発する状態に対して、生活リズムの維持や消し忘れなどの危険を回避させるための行為の促しと、防災・防犯上の見守りを行い、自立した生活の継続を支えるシステムの必要性を見出した。