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報告|REPORT


芸術系大学における「図書館」の情報発信 ー神戸芸術工科大学の教育支援の事例を中心にー

A Study of "Presence" on Art University Library:From the case with the support of education for Kobe Design University


久慈 達也

KUJI, Tatsuya Researcher, Library



はじめに

本稿は、芸術系大学における「図書館」の情報発信について、主にウェブサイト上で展開されている先駆的な事例および神戸芸術工科大学において2008年度に開設した情報サイト「新図書館ラボ|たのしむ図書館、つくる図書館」(以下、「新図書館ラボ」)の事例から分析、考察するものである。ここでいう「図書館」とは、既存の図書館のみを指すのではなく、情報の蓄積と分類がなされているデジタル・アーカイブ、ウェブサイト等も含むものである。その意味において図書館以外が運営母体となっているサービスも本稿の分析の範疇となる。以下に続く各章の構成は次の通りである。第1章では、メディア、コンテンツにおいて先駆的な取り組みがみられる各機関の情報発信の形態を概観する。それをふまえた上で第2章では、実践事例として、神戸芸術工科大学が運営する情報サイト「新図書館ラボ」の概要と役割、その成果を分析することとする。

近年、大学図書館はポータルサイトやブログの運営、YouTubeやPodcastを利用した情報配信など、インターネットを活用した各種サービスの提供を始めた。かたや現実の場においてもラーニング・コモンズの開設や併設ギャラリーの設置など、図書館という「場」の機能強化に取り組んでいる。筑波大学が図書館前にスターバックスを誘致したことは記憶に新しいが、ウェブとリアル、双方の「サイト(場)」の整備が重視されているのが図書館の現状であろう。

文部科学省が打ち出した大学教育支援プログラムにおいて、特色、現代、学生生活支援の各GP(Good Practice)の中で図書館をアピールポイントとしたプロジェクトが申請された。明治大学「教育の場としての図書館の積極的活用」(平成19年)、東京女子大学図書館「マイライフ・マイライブラリー」(平成19年)、お茶の水女子大学「科学的思考力と表現力で築く『私の履歴書』」(平成20年)は、それぞれ図書館を核としたプロジェクトである。なかでも、お茶の水女子大学の現代GPは、図書館において「キャリアカフェ」を実施場所として選んでいる点で特徴的である。同大の「キャリアカフェ」は、アメリカの大学図書館で広がりをみせるラーニング・コモンズを意識して改修された空間にGPプログラムを誘致した形であるが、カフェで就職について自由に語る場が図書館内に生まれた。今日の図書館は、各大学にとって他との差別化を計るために重要な戦略拠点になりつつあるといっても過言ではない。

社会一般に目を転じても、本を取り巻く状況には多大な変化が見られる。歴史ある雑誌の休刊などを引き合いに出すまでもなく出版業界は苦境の中にあるが、その一方で「ブックディレクター」という新たなビジネスモデルを確立した幅允孝のように、情報の編集によって価値を生じせしめる事例が目立つ。セレクトショップの書棚を見れば、本が単に読まれるものとして消費されているのではないことがよくわかる。洋書や洋雑誌、イラスト・造本に特徴のある本は、家具や雑貨、服などのように、個々人の自己表象の空間(すなわちインテリア)を形成するオブジェとなる。現在、本と人との関わり方には少なからぬ変化が生じているのである。

川口市の文化複合施設メディアセブンで2008年から2009年にかけて開催されたトークセッション「本のあつまるところ」は、まさにこうした状況の変化を的確に捉え、書籍を中心にしたコミュニケーションの在り方を図書館に限定せず今一度検討する、という意味で斬新な企画であった*1。他方、障害のある人やホームレスなど、誤解や偏見を受けやすい人々を「Living Books(生きている本)」として貸し出すLiving Libraryの活動は、概念として図書館を援用しているというに留まらず、「人」というアーカイブの形態があり得ることを再認識させてくれた*2 。今日、図書館の問題を考えようとした場合、利用者が置かれている社会的なメディアおよびコンテンツ環境をふまえた上で、その役割や在り方を論じる必要があろう。

    

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同トークセッションは都築響一、幅允孝、江口宏志、松本弦人、財津正人、桂英史をゲストに全6回で企画された。
リビング・ライブラリーは世界各国で開催されているが、国内では3回開催されている。下記サイトを参照のこと。http://living-library.jp/index.html(最終アクセス日:2009年7月25日)