本章では1章に述べた筆者の基本姿勢と2章の「自己診断テスト」の結果、そして3章の教員・学生からの意見を踏まえて、本学における英語教育の現状と課題について考察してみたい。
4-1 現状についての考察
「自己診断テスト」の結果は英語科講師陣の経験論に基づく所見を裏付けるものであり、本学学生の英語力のバラつきはかなり大きかった。
これは本学の入学試験制度と、芸術系大学としての本学の性格が複合した結果であると理解し得る。すなわち、本学入試においては英語の受験は必須ではない(*24)ため、英語を苦手とすることが入学の妨げとなることはない。一方で、芸術系大学としての本学は、「大学偏差値ランキング」的な意味での「上流・下流」の流れとは異なる位置づけにある大学であり、本学で純粋にデザイン/アートを極めるべく本学の門を叩く学生の中には、世間的な意味での「有名大学」で通用する学力を持つ者も、帰国子女その他、突出した語学力を持つ者も含まれる。結果として、純粋に英語力のみを基準とした場合、その実力差は一般の(芸術系専攻以外の)大学より大きくなることが考えられるが、実際にその通りの結果が生じたと言える。
「プレイスメント・テスト」の本格導入によるレベル別クラス編成が学生を萎縮させるのでは、との懸念を持つ教員もあったが、英語の授業について「簡単すぎる」・「難しすぎる」双方の意見があり、また学生側から「クラス分けしてほしい」との意見まで出る現状では、教員側が懸念するより学生の方は平然とレベル別クラス編成を受け入れてしまうのではないかという感触を筆者は持っている。内田樹は学力低下の危機的な要素として「英単語を知らないとか、論理的思考ができないといったことを、多少は自覚していても、そのことを特に不快には思っていないという点」(*25)を指摘しているが、アンケートの結果は、本学学生が向上心と危機感を持ち続けていることを示しており、より均質な環境でトレーニングすることのメリットが、萎縮効果のデメリットを上回るものと考えられる。
「取りたい授業のタイプ」として、既に「英語演習」として開講(後期開講予定含む)されている(3-1参照)タイプの授業までが希望として出てくるのは、学生が同じ時間に開講された専門科目の受講を優先して履修できなかったことも考えられるが、「専門科目の谷間など、空き時間に英語があったら取る」といった、時間割上の都合と学生気質の相乗効果によるのではないか、との分析が教学課担当者より寄せられた(*26)。
学生からの「英語は苦手だが取れる科目は増やしてほしい」という、一見矛盾したコメントについては、筆者の授業を履修している学生たちにフィードバックして意見交換したところ、「英語が必要だとは感じているし、もっとやらなければいけないとも思っているが、忙しいこともあって、一人で勉強するなど、単位にならないことに時間を取る気にはなかなかなれない。単位になるのだったら、もっと頑張れると思う」との意見が寄せられた。
4-2 今後の検討課題
以上を踏まえ、今後のカリキュラム改訂にあたっては、
- 既に十分な基礎力のある学生には「世界をデザインする」(*27)にふさわしい英語力を、
- 基礎がまだ不十分な学生には「世に役立つ人物」に期待される基礎的実学としての英語力を、
それぞれ鍛練する機会を提供することを大目標とし(基準をどこに置くかについては引き続き議論が必要であるし、達成目標を数値化しようとするあまりTOEICスコア等に過剰に依存する愚は避けなければならない(*28)が)、そのための方策として
- 現行の「総合英語」について、プレイスメント・テストを実施して、レベル別にクラスを編成し、
- それぞれ英語以外の外国語科目に準じた「準通年型」履修により時間をかけた指導を行う一方で、
- 2009年度カリキュラムでは「英語演習」枠内で開講されているメニューのいくつかを独立させ、
- 学生の興味を引く教材や、留学や就職活動を意識した内容の科目を設けること、
- そして英語履修により取得可能な単位を増やすことで学習への動機付けを強化し、
- その一部または全部に上級学年向けの指定を行うことで学習の継続を促す
等を提案し、「どこまでやるべきか、できるか」について引き続き議論していきたいと考えている。