本研究は、瀬戸内沿海文化の実態とその歴史的変遷を、「環境デザイン」研究の視点から、「沿海景観」「土地利用」について文献調査・現地調査を行い、シーボルト(Philipp Franz von Siebold)らが江戸時代に評価し記録した*1~*4 地域の固有価値を再評価することを目的としている。また、再評価された固有価値を生かし、瀬戸内海諸地域の地域活性化への方途を提言することを、究極の目的としている。
本研究の到達目標として、(1)シーボルト達が評価した瀬戸内沿海景観および土地利用の把握を目的とした文献調査、(2)沿海景観および土地利用の現状把握と固有価値を持つ地域に焦点を当てた現地詳細調査、(3)現地調査・文献資料調査を通した沿海景観および土地利用の歴史的変遷の把握、(4)瀬戸内沿海景観の固有価値の再評価、の4項目を掲げている。
本研究では、瀬戸内海が最も繁栄していたとされる江戸時代に着目し、その指針として、当時の瀬戸内海を横断的且つ詳細に観察したシーボルトの記録に着目した。その内容を基に瀬戸内沿海文化の固有価値を引き出し、「環境デザイン」の視点から再評価することにより、「沿海景観」「土地利用」のありかたを考究し、瀬戸内海諸地域の地域活性化への方途を提示することができると考えた。
このように、本研究の特徴は、幕末の外国人の目から見た江戸時代の日本文化に対する評価を指針とし、それらを再評価した上で、地域活性化への方途を提案することにある。シーボルト(1796-1866)は瀬戸内海以外にも日本各地を詳細に調査しており、本研究の他地域への応用が期待できる。また、シーボルト以外にも、ケンペル(Engelbert Kaempfer:1651-1716)、リヒトホーフェン(Ferdinand Freiherr von Richthofen:1833-1905)らも江戸時代や明治初期の日本文化を評価している。彼らの記録を指針とし、明治維新・戦後高度経済成長期を通じて失い続けている地域の固有価値を再評価することによる、地域活性化の新たな方法論の確立が期待できる。