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図4 現地調査の航路図(航路選定に参考にした航路も含む)<br>
        (作成:木下怜子)

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図4 現地調査の航路図(航路選定に参考にした航路も含む)
(作成:木下怜子)


写真1

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写真1


写真2

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写真2


写真3

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写真3


写真4

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写真4


写真5

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写真6

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写真6


写真7

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写真7


図6 (作成:木下怜子)

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図6
(作成:木下怜子)

5.現地調査

5-1 調査の概要

2007年8月20~26日に、瀬戸内沿海諸地域の実態把握と、シーボルト達が評価し記録した瀬戸内沿海文化の現状把握を目的とした横断的な4回目の現地調査を行った。

調査地や調査ルートは1.予備調査においてメンバーの評価を得た地域をはじめ、2.シーボルト、ケンペル、リヒトホーフェン、申維翰、宮本常一らが評価した地域を抽出し、参考にした。調査には船舶を用いて海上を視点場とし、神戸港第一突堤から、明石港、淡路島、高砂港、姫路港、室津港、家島群島、赤穂港、日生港、小豆島、笠岡諸島、塩飽諸島、備讃諸島、直島諸島、鞆の浦、尾道港、阿伏兎瀬戸、しまなみ諸島、芸予諸島、防予諸島、周防大島、上関海峡、下関海峡等、沿海諸地域(58地域、うち26地域に上陸)を巡り、小倉港に至った。(図4)

調査は具体的に、シーボルト達の記録文や図録に従って、明石・姫路・赤穂・三原の城郭跡の確認、塩飽諸島のシークエンス景、阿伏兎岬の阿伏兎観音(写真1)、屋代島の牛ヶ首崎(写真2)や周防灘のパノラマ景等の、海上を視点場とした風景の空間体験や、たつの市室津(写真3~5)、男木島、向日比、本島、鞆(写真6)、大崎下島御手洗、平群島、上関(写真7)等の陸地でのフィールドワークによる瀬戸内海固有の港町や集落の空間体験を行い、各地の現状把握と、シーボルト達がみた当時と現状の風景を比較した。一日の調査終了後には調査メンバーでミーティングを行い、その日の調査の感想や他地域との比較、情報交換、次年度の調査手法や方向性の検討等を行った。

また、調査先では各地方の地方整備局員と合流し、資料の受け渡し、情報交換等を行った。

現地調査のメンバーは、齊木崇人、東惠子、山之内誠、上原三知、伊藤延男、後藤元一、南奈緒子、波多野章子、小泉淳子、宮代隆司、木下怜子、任亜鵬、王曄、李文静、、岩田谷由香、佐伯法積、北野悦子、白沢拓也、樋口友香、藤田慎一郎、森川悦子の22名である。

5-2 現地調査でみた瀬戸内沿海文化のまとめ

5-2-1 瀬戸内沿海景観の把握

本項では、文献調査の資料があり且つ現地調査を行った地域として、1兵庫津、2室津、3日比・向日比、4鞆、5阿伏兎岬、6牛ヶ首崎、7上関・上関海峡、8関門海峡の8箇所を選定し(図6)、1)沿海景観、2)土地利用と住居集合、3)営みと生活文化の3特性について考察する。それぞれ、1)沿海景観は、町や集落の立地を把握できる景域の「遠景」、2)土地利用と住居集合は、居住域の土地利用と住居集合の全体像が把握できる景域の「中景」、3)営みと生活文化は、生活とその構築物との関係が把握できる景域の「近景」と定義し、このような風景把握のヒエラルキーに従って瀬戸内沿海景観の特性を捉える。

5-2-2 現地調査でみた瀬戸内沿海景観の考察

私達が現地調査でみた瀬戸内沿海景観の特性は、シーボルト達がみた風景から、橋や埋立地、道路など、車社会を要因として、海から見た風景が変化した。また、シーボルト達がみた風景と現在を比べると、変わらない風景と、変わってしまった風景の差が大きい。町や集落の大きな構造が変わっていないところは、歴史的空間の持つ価値や魅力が再評価され、観光や生活の変化はあるものの、生活の場となり活用され続けている。また、立地条件が厳しい場所もよく残っている。一方で、放置された埋立地や工場跡地、陸側をメインとしたアクセスルートや、通過のみを目的とした橋の建設など、海側の風景が貧しくなっていることが分かる。(表2)

表2 現地調査でみた瀬戸内海風景の特性

特性/調査地 1)沿海景観 2)土地利用と住居集合 3)営みと生活文化
1 兵庫津 手前に埋立地(兵庫第一突堤)があり、兵庫の沿岸線は見えない。遠く六甲の山並みが見えるが、一部、沿海の建物によって遮られている。 沿岸から、工場、港、住宅、六甲山の順に見える。六甲山が沿岸の中層建築物によって隠れている。 埋立地や街の沿岸はコンクリートで覆われている。市場やヨットハーバーもあるが、住民の生活は物理的に沿岸から隔離されている。
2 室津( たつの市) 緑の茂った2つの岬。奥に漁船と住居が低い位置に湾を取り囲むように並ぶ。 港の入口付近は埋立地やコンクリート舗装。山手は中間地が多く、耕されていない。集落の向かって左手を道路が通る。 湾の入口(左手)では魚市が開かれる漁業の町。住居は古いものが多く、歴史的まちなみを観光資源にしている。
3 日比・向日比 沿岸に工場多い。新しい住宅地も見える。港にアクセスするための橋あり。 かつての塩田を埋立て新しい住宅地とする。海岸も埋め立てているが未利用地となっている。 日比の沿岸は埋立てられているが、向日比の集落の空間構成は残っている。
4 鞆 社寺を備えた周辺の島、入江の奥に広がる町、左手に山並み。 港を囲む平地に住宅、小高い丘に社寺。山には畑はほとんどない。中層建築物が出現。 右手は伝統的な港町の姿を保存活用し、観光資源にしている。左手は漁家の密集した町。
5 阿伏兎岬 山の緑と白い岩肌を背景に、海にせり出した阿伏兎観音の赤い構造物がよく映え、シンボリック。近づくにつれ、観音堂の他、本堂や石碑、岩盤上に積まれた観音堂の石垣がはっきり見えてくる。 背後の山は樹林帯で、針葉樹と広葉樹が多い。松枯れを逃れた松の木もわずかに確認できる。近隣集落には水田あり。 海潮山盤台寺及び阿伏兎観音は近隣の集落と離れており、孤立した位置にあるが、陸側をつたって来た参拝者の姿が確認できた。
6 牛ヶ首崎(屋代島) 海上から、シーボルトのみた島々を確認できた。屋代島と沖家室島を結ぶ橋が出現。 広葉樹を含む樹林帯。岬にはシーボルト上陸の記念碑あり。  
7 上関・上関海峡 海峡を渡る橋が出現。 港、住宅、山の基本構造に変化は無いが、海岸線に埋め立てが見られる。  
8 関門海峡 海峡を渡る橋が出現。 シーボルトが見た神社(和布利神社)の姿が確認できた。 関門海峡付近は船舶の通行が多い。
現地調査でみた瀬戸内沿海景観の特性まとめ 大きな地形の変化はないが、埋め立てによる海岸線や植生の変化、橋等の大規模な人工構造物の出現によって風景が変化している。 道路や埋立地、工場や橋、中層の建築物が沿岸にできたり、畑や針葉樹の減少から、風景が単調化している。 人間の生活が沿岸から遮断されて海から見えなくなった地域がある。一方で、室津や鞆の古い町は再評価されて観光化し、日比などの地形が制約された集落はシーボルト達が見た頃からそれほど変化していない。しかし、海からのアクセスよりも陸からのアクセスがメインルートになっている。

(作成:齊木崇人、宮代隆司、木下怜子:2008.7.)


 

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