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6.比較・考察

ここでは本研究のまとめとして、シーボルト達がみた1)沿海景観、2)土地利用と住居集合、3)営みと生活文化の3特性と、現在の1)沿海景観、2)土地利用と住居集合、3)営みと生活文化の3特性を比較した。(表3)その結果、シーボルト達が風景を遠景→中景→近景と段階的に把握していったことに対し、現在では段階的な風景把握ができない場所が多々発生していることが分かる。その理由として、変化に乏しい海岸線の中で目標物を見つけにくくなったことや、中景で把握されるはずの風景が巨大になり、遠景でも把握できるようになったこと、町や集落の中に入っても人の気配を感じにくく、海と人の生活が隔離された結果、個々の生活が外に表出されていないこと等がある。このような、人と海の間を隔離することになった要因の一つとして、陸の交通手段である車社会が挙げられる。埋立地や沿岸の道路、陸と島を繋ぐ橋などが、陸からの視点で構築された結果、元来、海と一体となっていた沿海地域の人々の生活や文化を貧しくしてしまったのだと仮説できる。

表3 シーボルトと現在の瀬戸内海沿海風景の特性の比較

特性/風景の把握 シーボルト達がみた瀬戸内沿海景観 現地調査でみた瀬戸内沿海景観 考察
1)沿海 突出した風景としての岬、町や集落とその背後にある山、地質や植生、空気、風景の奥行きを把握している。 大きな地形の変化はないが、埋め立てによる海岸線や植生の変化、橋等の大規模な人工構造物の出現によって風景が変化している。 橋や埋立地、道路などの、車社会の利便性を優先したことによって、風景の構成要素となりうる多様な海岸線の風景がなくなった。
2)土地利用と住居集合 森や樹木の緑地帯、大規模な生業域としての塩田や畑、町のシンボルとなる社寺、アクセスのメインルートである港や住居群等の、上陸するための目標物を把握している。 道路や埋立地、工場や橋、中層の建築物、といった巨大な構造物が沿岸にできたことや、畑や針葉樹の減少から、風景が単調化している。 中景から確認できていた風景の要素が、巨大になることで遠景からでも把握できるようになり、遠景と中景の区別が曖昧になっている。
3)営みと生活文化 メインストリートや生業域での人間の動き、生活・生業を把握している。 人間の生活が沿岸から遮断されて海から見えなくなった地域がある。人々の生活が個々の中にとどまり、表出するものが少なくなった。
一方で、室津や鞆の古い町は再評価されて観光化し、日比などの地形が制約された集落はシーボルト達が見た頃からそれほど変化していない。しかし、海からのアクセスよりも陸からのアクセスがメインルートになっている。
鞆や室津などの歴史的空間の持つ価値や魅力が再評価され、観光や生活の変化はあるものの、生活の場となり活用され続けている。また、立地条件が厳しい向日比や阿伏兎岬などの場所もよく残っている。
しかし、そのような場所でも、陸や車に依存した生活が行われている。

(作成:齊木崇人、宮代隆司、木下怜子:2008.7.)


 

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