囲碁は世界的に親しまれている古い歴史を持つゲームの一つである。起源は古代中国と言われ、日本には室町時代に伝わったとされている*1。以来、将棋とともに国民的娯楽として、また職業囲碁も深く親しまれている。9×9升の世界で対戦する将棋は、頭の中に盤面を描いて打つこともでき、駒の形状で自他の触知ができることから古くから視覚障害者にも親しまれてきた。1970年代には視覚障害者用に、駒の種類を触り分けるために駒の台尻面の片方に小さな釘を打つ工夫がなされ、盤の升目を区切る罫線に凹凸を設けたものが考案されていた。駒名称を彫り込むことでも触知が可能となる。一方、囲碁は通常19×19の格子線状で、白と黒の円盤状の石を交互に置いていくことで競技が進行するため、視覚障害者にはなじみにくいものであった。1993年に日本視覚障害囲碁普及会*2(代表:森野節男)が発足し、9路盤の特殊な碁盤を作成して視覚障害者への囲碁の普及が始められた。
以来、視覚障害者用囲碁セットはいくつかつくられ、視覚障害者囲碁大会も毎年開催されるようになった。しかし、これらの囲碁盤は視覚障害に特化したものであり、晴眼者が使用するには違和感を感じる形状になっている。視覚障害者が囲碁のレベルアップを図るにはより多くの相手との対局が必要であり、機会を増やすためには晴眼者との対局が望ましい。そこで著者らは、関西棋院と日本視覚障害者囲碁普及会の囲碁および視覚障害者囲碁に関する知識と、大阪商業大学アミューズメント産業研究所が有する既存視覚障害者用囲碁盤の情報を集約し、神戸芸術工科大学がデザインを担当することで、晴眼者と盲の人が互いに対等に対戦することができる新しい囲碁セットの開発に着手した。碁盤には一般的な19路盤のほかに、13路や9路のものがあるが、入門用の9路盤と正式対局用の19路盤の二つを開発した。視覚障害者専用の囲碁としてではなく、晴眼者と相互に違和感無く対局できることを目標に掲げたが、手指に障害のある人にも使いやすいものとすることとし、石が動かないため移動中の車中などでも使用でき、きちんと交差線状に石が並ぶためゲームにおけるあいまいさも回避できる。