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1 合掌づくり住宅における光と色の文化的価値について(白川郷補足調査報告)

1-1 はじめに

白川郷は、森林面積が93.93%を占め、宅地面積は0.17%、農用地が0.24%、その他が5.48%の山間地域である。急峻な山々に囲まれた深い山林と起伏の多い険峻な地形により、庄川沿いの僅かな段丘に立地する。気候は、日本海斜面の飛騨寒地多雨型に属し、1月から2月に季節風がもたらす大雪は多いときで4mも積もり、積雪期間は4ヶ月にわたる。この山域に根付き、雪深い気候風土の中で、白川郷の人たちは山村の厳しい生活を維持するための独自の造形と色彩の文化を生み出し、自然を愛し自然とともに暮らす知恵を伝えてきた。

1995年、「白川郷・五箇山の合掌づくり集落」は、その民家建築として建築的価値と、「それがまとまって残りかつての農村景観を保持している」という集落的価値が認められ、世界文化遺産に登録された。

写真1 荻町の北側の城址展望台から見る町の全景(2008.7.17)

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写真1 荻町の北側の城址展望台から見る町の全景(2008.7.17)

本章の報告は、2007年8月神戸芸術工科大学・中国北京理工大学・韓国東西大学三大学のメンバーによる白川郷荻町集落共同調査に引き続き、2008年7月18日、白川郷荻町の和田家にフィールドを絞って行った補足調査に基づいてまとめたものである。2007年には、合掌造民家の実測調査、生活用具類の実測調査、荻町集落の水と生活に関する調査、同集落内の伝統的色彩に関する調査などを多面的に展開したが、2008年は前年調査を補う意味で色彩の調査に絞った。具体的には、和田家合掌建築における光と色彩環境について計測調査を行い、合掌づくり住宅における光環境および色彩環境を分析し、合掌づくり集落における色彩美学について考察した。調査メンバーは、神戸芸術工科大学の教員4名(曽和英子・黄國賓・早川紀朱・山之内誠)と学生7名(羅光志・王曄・李義中・藤巻泰輝・唐賽・古賀恵利・崎山貴代)である。

これまでの環境色彩に関する先行研究は、人工的に彩色された色にその関心が集められ、素材色そのものに対する詳細な研究、特にその色彩についての数値化まで踏み込んだものは未だ見られない。世界遺産白川郷の場合、景観を形成するものをデザインする際の色として「古色」と「自然色」が推奨されているものの、それらの色についての学問的な研究はまったくなされていない。このため本研究は、合掌づくり集落におけるエコロジカルな色彩環境の生態を明らかにする試みとして、合掌建築における光や素材環境を明らかにすると同時に、時間の経緯により変化されて作られた「古色」を数値化し、日本の伝統的な環境色の一連の色見本を提示することにした。

    

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