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まとめ

地域づくりに深く関わる公共事業について、市民の意見を計画段階から取り入れようとする動きは、しだいに一般的なものとなりつつある。今回、三木市が鉄道跡地の利活用に関する基本計画を沿線地域の諸団体の代表者や一般公募による委員を含む検討協議会での議論を通して作成したのは、そのような社会の流れに沿った試みのひとつだといえるだろう。しかしながら実際のところ市民の価値意識は様々であり、立場の異なる人々の合意を得ながら、特色のある優れた事業計画案を作りあげるのは容易なことではない。

今回の場合も、委員の中には歴史的な要素の重要性を強く主張する人もあれば、元の機能を失ったものを保存することにまったく理解を示さない人もいた。また、当然のことかもしれないが、沿線地域の代表として参加している委員の場合には、その地区の問題を広域的な問題よりも優先して考える傾向があるように思えた。さらに、市がたいへん厳しい財政状況下にあることを反映して、長期的にみれば地域資源としての価値を生み出す可能性のある提案よりも、単純な売却提案など目先の利益につながる提案の方が合意を得やすい傾向があるようにも見受けられた。

基本計画のとりまとめにあたっては、そのような中で各委員から出た提案を可能な限り排除しないこととしたため、結果として計画案の中には多様な要素が併存することとなった。地域そのものが、多様な人や事物の集合体であることを考え合わせれば、それはある程度望ましい解決法であったとは思えるが、一方で、時間をかけた議論を通して共有された価値観にもとづき、協議会内で計画についての何らかの積極的な提案がなされるといった水準にまでは達することができなかった。そのために、鉄道跡地の利活用というまたとない機会を地域づくりの新しい原動力にできるだけの力強い提案ができたとは言い難く、そのことが反省すべき点として残されている。

この問題はおそらく今回の事例に限らず、公共事業の計画に多くの市民の意見を取り入れようとするときに常に生じる根本的な問題であり、それに対してどのような解決方法がありえるのか、今後も様々な機会をとらえて考え続けていきたい。

注・引用文献

*1―
主な研究協力者:米津政俊、藤巻泰輝、高比良信子(いずれも当時、神戸芸術工科大学大学院総合デザイン専攻1修士課程1年)
*2―
「三木鉄道跡地等利用検討協議会」の構成メンバーには、次の21名の委員が市長から選任された。大学教授(1名)、沿線区長協議会代表(6名)、婦人会代表(2名)、老人クラブ代表(2名)、学校関係代表(1名)、三木商工会議所代表(1名)、三木青年会議所代表(1名)、三木城下町まちづくり協議会代表(1名)、公募委員(6名)。また、協議会の庶務は市のまちづくり部において処理された。
*3―
協議会でとりまとめた「三木鉄道跡地等利用基本計画」の全文および協議会の議事録は、三木市公式ウェブサイト内まちづくり部交通政策課の「三木鉄道」のページでも公開されている。


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